歌手 串田アキラが発症・入院した「急性膵炎」の初期症状・原因を医師が解説
アニメ『キン肉マン』の主題歌や特撮ヒーローの主題歌、有名CMソングを担当したことで知られる歌手の串田アキラさんが、急性膵炎のため入院したことを23日、スタッフの公式X(旧ツイッター)で発表しました。
公式Xの投稿によると、「医師による診断の結果、『急性すい炎』との診断を受け、入院をいたしました。医師よりしばらくは入院治療が必要との診断を受けております」とのことです。
※この記事はMedical DOCにて【「急性膵炎」を発症すると現れる初期症状・原因はご存知ですか?医師が監修!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
監修医師:
甲斐沼 孟(TOTO関西支社健康管理室産業医)
著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など多数。
日本外科学会専門医 日本病院総合診療医学会認定医など。
急性膵炎の症状
急性膵炎はどのような病気でしょうか?
急性膵炎は、何らかの原因によって膵臓に炎症が起こってしまう病気です。膵臓は胃の裏側に位置し、血糖調節ホルモン(インスリン・グルカゴン)・膵液の消化酵素を分泌する働きを持っています。消化酵素には、アミラーゼ(デンプン分解)・リパーゼ(脂肪分解)・トリプシン(タンパク質分解)があり、本来はその消化酵素が膵臓自体を消化しないように安全に機能しています。しかし、何らかの原因によって正常に機能しなくなると、膵臓の消化酵素は異常に活性化して膵臓そのものを消化(自己消化)してしまうのです。
その結果、膵臓に炎症が起き、腹痛・吐き気などのさまざまな症状が出現します。急性膵炎が起こった場合は、絶食して膵臓を休ませ、薬物療法で水分補充・炎症改善・消化酵素分泌抑制などを行います。重症化すると、炎症は膵臓だけにとどまらずに肺・腎臓・肝臓などへも影響を及ぼす場合があるため、早めに適切な治療を行うことが大切です。
日本における急性膵炎の発症は年々増加傾向にあります。女性より男性に多く、その比は約2倍です。発症年齢では女性70歳代・男性60歳代の方が多いことがわかっています。
急性膵炎の症状を教えてください。
急性膵炎で最も多い症状は、上腹部の痛みです。膵臓は胃の裏側に位置しているため、背中の痛みを訴える方もいます。非常に強い痛みが突然現れるのが特徴です。食後に痛みが現れる場合もあり、胃痛だと自己判断してしまうケースもあるので注意しましょう。その他の症状としては、多い順に嘔吐・発熱・食欲低下・腹部の張り・全身のだるさなどがあります。状態が悪化すると、重症化して周囲の臓器へも炎症が進み、黄疸・意識障害・ショックなどを引き起こして、全身状態悪化の危険もありますので注意が必要です。これらの症状がある場合は、自己判断せずに早めに受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
発症の原因を教えてください。
急性膵炎を引き起こす原因で最も多いのはアルコールの大量摂取です。アルコール摂取による膵臓への直接刺激・膵液(消化酵素)の過剰分泌・膵管の狭窄などが主な要因です。次に多いのは胆石症です。胆管は胆汁、膵管は膵液をそれぞれ運びますが、十二指腸へと繋がる部分で合流する仕組みになっています。胆管にできた胆石がその合流部分に詰まると、膵液の流れも悪くなるので、急性膵炎を引き起こしてしまうのです。アルコール性急性膵炎は男性、胆石性急性膵炎は女性に多いことが分かっています。
その他の原因は、脂質異常症・薬剤性・外傷性・先天性などです。脂質異常症では、脂肪が膵臓に蓄積されて炎症を引き起こすとされています。薬剤性はある特定の薬物の長期使用が原因で、先天性は先天的な膵臓の形状異常が原因です。
また、原因が特定できない特発性もあります。急性膵炎の発症の原因を知り、早期発見・早期治療に繋げることが大切です。
どのような方が急性膵炎になりやすいのでしょうか?
先に述べたように、発症の危険性が一番高いのは、アルコールを大量に摂取する方です。毎日大量のアルコールを摂取している人は、膵臓への刺激・酵素の過剰分泌などにより、発症リスクが高くなります。次に胆石症を患っている方です。胆管と膵管が合流する十二指腸への出口に胆石が詰まってしまうと、消化酵素を含んだ膵液の流れが悪くなるため、急性膵炎を発症しやすくなります。また、脂質異常症を患っている方も注意が必要です。
その他には、特定の薬剤を長期間に渡って服用している方も急性膵炎になりやすいことがわかっています。特に多いのは、抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム)です。次いで、抗HIV薬(ジダノシン)・炎症性腸疾患治療薬(メサラジン)なども報告されています。しかし、これら全ての方が発症するわけではありません。
当てはまる方は、改善できること・治療できることは行い、急性膵炎にならないよう注意しましょう。また、何らかの自覚症状が出た場合には、早めに医師の診察を受けるようにしてください。
急性膵炎の検査と治療方法
受診を検討するべき初期症状はありますか?
急性膵炎において、受診を考えるべき初期症状は「腹痛」です。腹痛は突然の激痛から始まります。「のたうち回るような痛み」などと表現される場合も多いです。痛みの部位は上腹部が最も多いですが、みぞおち・腹部全体に出ることもあり、背中の痛みを感じる場合もあります。痛みは持続的で、水分・食事を摂っても消えないのが特徴です。
また、吐き気・嘔吐を伴うことも多く、炎症反応の発熱も初期症状です。これらの初期症状が出現した際には、我慢したり、放置したりせずに、すみやかに受診して医師の診断・治療を受けるようにしましょう。
どのような検査を行いますか?
急性膵炎が疑われる場合には、血液検査・尿検査・画像検査などの検査を行います。血液検査で確認するのは、消化酵素値上昇の有無・炎症の具合などです。急性膵炎の場合、膵臓の消化酵素(アミラーゼ・リパーゼなど)の値が上昇します。また、胆石が原因の場合は、肝胆道系の機能を示す酵素(AST・ALT・ALP・γ-GTP・ビリルビンなど)の上昇がみられます。加えて、白血球・CRPが高値を示す場合は、体内で炎症が起こっている証拠です。また、アミラーゼは尿中にも流出するため、尿検査でアミラーゼが高値を示した場合は、発症を疑います。また、トリプシノーゲン2(膵臓の消化酵素トリプシンの前駆物質)は急性膵炎の初期から尿中に排出され、試験紙で簡易に検査が可能なので迅速な診断に有効です。画像検査で行うのは、超音波検査・CT検査・MRI検査などです。
急性膵炎が起こると、膵臓の腫脹・周囲の浸出液貯留が認められます。また、重症化した膵炎では、腫脹した膵臓の中に黒く変化した壊死部分が確認できます。造影剤を用いて行う造影CTはより膵臓の状態が分かるので、確定診断の1つの手段として有効です。
これらの検査を組み合わせながら、急性膵炎の確定診断・原因の特定を行います。医師の指示で適切な検査を受け、正確な診断のもとで早期に適切な治療を行うことが大切です。
急性膵炎の治療方法を教えてください。
急性膵炎と診断された場合、基本的には入院治療となります。その治療方法は主に、絶食・点滴治療です。急性膵炎を発症しているのに食事をしてしまうと、膵臓の消化酵素が活性化してさらに炎症が悪化してしまいます。そのため、絶食して膵臓を休めることが重要です。点滴治療も非常に重要となります。急性膵炎では、腹部に血管や実質組織などから染み出した浸出液がたまってしまいます。その場合、血管内の水分が不足してしまい、脱水・循環不全を起こしてしまうので、十分な量の点滴を積極的に行うことが重要です。
投与量は患者の年齢・全身状態(心不全・腎不全の有無など)を考慮した上で、医師の指示のもとで個々に決定します。その他には、痛みの緩和のために鎮痛薬を使用することがあります。急性膵炎の痛みは持続的で激しいものです。患者は精神的不安が大きく、体を休めることもできずに体力的にも大きな影響を及ぼします。そのため、鎮痛剤を迅速に使用して十分に痛みを取り除く必要があるのです。
鎮痛剤の種類は、痛みの強さによって決まります。原因に対しての治療も重要です。例えば、胆石症が原因として明確になっている場合には、胆石を除去する処置が必要になるケースもあります。このように、治療方法はさまざまですが、個々の状態(膵炎の状態・年齢・既往・全身状態など)に応じて適切な治療が行われることが必要です。
入院期間を教えてください。
急性膵炎の入院期間は、症状の程度・全身状態・治療方法によって変わってきます。軽症の場合は、治療をすることで数日~2週間程度の入院期間で改善します。しかし、一部は重症化してしまう場合があるので注意が必要です。重症化・合併症などがある場合には、治療期間が長くなりますので、入院期間も数週間~数か月になるケースが多くみられます。また、急性膵炎の治療では、炎症症状が改善した後も原因疾患の治療・膵臓機能の回復目的の治療が必要になり、入院期間が長引く場合があります。
このように、入院期間は個々の状態・治療方法によって違ってきますので、医師の治療方針によって指示された入院期間に従ってください。
急性膵炎の予防方法
急性膵炎は治りますか?
急性膵炎は、一般的に治りやすい病気です。特に軽症の場合、早期に診断を受けて適切な治療を行うことで、炎症症状が改善されて治るケースが多くあります。しかし、重症化の中には、なかなか改善がみられずにショック症状などを引き起こして命を落としてしまう場合もあるのです。急性膵炎が治るかどうかは、症状出現のタイミング・正確な診断・適切な治療方法などが大きく関係するため、早期発見・早期診断・早期治療が重要です。
死亡率は高いのでしょうか?
急性膵炎の予後は、重症化・合併症の程度に左右されます。厚生労働省公表のデータによると、軽症の膵炎患者の死亡率は0.8%ですが、重症の膵炎患者の死亡率は10.1%とかなり高い値です。「急性膵炎診療ガイドライン」では、「急性膵炎の予後は、臓器不全・膵壊死により決定される」と示されています。急性膵炎患者の約10~20%に壊死性膵炎がみられ、その死亡率は約15~20%となっています。さらに、壊死性膵炎に臓器不全が伴うと、死亡率は約50%にまで上昇してしまうのです。
また、早期の急性膵炎であっても、すでに臓器不全があったり、48時間以上継続した臓器不全があったりする場合は、死亡率はさらに高い70%となっています。
しかし、医学の進歩により、重症の急性膵炎の予後も少しずつ良くなって来ている現状もあります。いずれにせよ、死亡率を下げるためには、早期に適切な治療を始めることが重要です。急性膵炎が疑われる症状がある場合には、早めに医師に受診しましょう。
急性膵炎の予防方法を教えてください。
急性膵炎を予防するには、膵臓に負担をかけないようにすることが大切です。1つ目はアルコールの大量摂取を控えることです。アルコールの大量摂取は急性膵炎の最も多い原因となっていますので、節度ある飲酒を心がけることが大切となります。厚生労働省では、「1日平均純アルコールで約20g程度」を「節度ある飲酒」としています。具体的に換算すると、ビール中瓶1本(500ml)・日本酒1合(180ml)・ワイン1杯(120ml)・缶酎ハイ(350ml)です。これらを参考にして、適度なアルコール摂取を心がけましょう。
2つ目は、栄養バランスのとれた食事です。脂肪分の多い食べ物・刺激の強い食べ物は膵臓を刺激し、消化酵素の過剰な分泌を促してしまいます。このような食べ物は避け、低脂肪・低塩分の食べ物の他、野菜・果物を積極的に摂るようにしてください。また、胆石症の診断を受けている方・胆石症の既往がある方は十分に注意し、胆石を除去する必要がある場合は医師の指示に従いましょう。
急性膵炎は、自分自身で予防できる病気です。これらの方法を取り入れて、急性膵炎発症のリスクを減らすことが大切です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
急性膵炎は、症状を見逃さず、適切な治療を行うことで治る病気です。突然の腹部の激痛・吐き気など、当てはまる症状がみられる場合には、すぐに専門医を受診するようにしてください。軽症のうちに正確な診断がつき、早期に適切な治療を受けると、治癒率も高くなって膵臓にほとんど障害を残しません。しかし、発見・治療が遅れると重症化して命を脅かすこともあります。早期発見のために、定期的に健康診断・人間ドックなどを受けるのもおすすめです。
編集部まとめ
急性膵炎について詳しくご紹介しました。
急性膵炎は、何らかの原因で膵臓が炎症を起こしてしまう病気です。その原因としては、アルコールの摂取・胆石症などが挙げられます。
突然現れる腹部の激痛が特徴的な症状で、他には吐き気・嘔吐・発熱などがあり、重症化すると意識障害・ショックなどが現れて命に影響を及ぼす危険があります。
早期に診断がついて、絶食・点滴などの治療が適切に行われれば、治癒が可能です。
自分自身で気をつけることができる病気なので、節度のある飲酒・バランスのとれた食事を心がけ、生活習慣を健康的に整えて急性膵炎を予防しましょう。