ブラジル・サンパウロ州の加工用オレンジの産地。昨今は天候不順の影響を受けることが多くなっている(写真:Patricia Monteiro/Bloomberg)

朝食の定番、オレンジジュースが手に入りにくくなっている。

キリンビバレッジは、「トロピカーナ 100% まるごと果実感 オレンジ」(900ミリリットル)を2023年6月から2カ月間休売した。アサヒ飲料も同年12月から「バヤリース オレンジ」(1500ミリリットル)の販売を休止し、再開は2024年春頃を予定している。

販売再開の見通しがついていない商品もある。雪印メグミルクが販売する「ドール」の一部のオレンジジュース商品(450、1000ミリリットル)は、2023年4月から休売が続く。同社の市乳事業部飲料グループで果汁飲料を担当する平谷誠氏は、「本来、販売休止は1年続くようなものではないが、当面は再開のメドが立たない」と話す。

オレンジ果汁の調達難が続く

異例の事態を引き起こしているのは、オレンジ果汁不足と円安だ。

日本はオレンジ果汁輸入量全体のうち、約6割をブラジルに依存する(2022年)。近年、ブラジルで起きた天候不順などにより、オレンジ果汁の輸入量は減少傾向にある。2018年に約7.9万キロリットルだった輸入量は、2021年に約3.4万キロリットル、2022年に約4.4万キロリットルに減少した。


こうして飲料メーカーのオレンジ果汁在庫が徐々に圧迫されていた中、2023年に起きた大規模な不作が致命傷となった。

ブラジルの産地では、2023年の初めに洪水が発生し、病害もまん延した。またアメリカの産地でも、大型ハリケーンの発生で生産が激減。オレンジ果汁は世界中で争奪戦となり、取引価格が高騰している。

そこに円安が追い打ちをかけた。2023年1月から9月のオレンジ果汁平均輸入単価は1リットル当たり462円と、前年同期比で49%上昇した。過去5年の平均輸入単価292円と比べると、5割以上も上回っている。


世界の人口増や新興国の経済発展などによりオレンジ果汁需要は拡大する一方、供給は追いついておらず、円安の影響で日本が買い負けている状況もある。

そんな中でも2023年の年間のオレンジ果汁輸入量は、5万キロリットル弱と前年より増える見込み。ただ、2021年と2022年の輸入量が極めて少なかったこともあり、一般社団法人日本果汁協会は「オレンジ果汁不足を補える十分な輸入量とはいえない」(「果汁協会報」)と説明する。そのため、2023年についに飲料各社の在庫が底をつき始め、販売休止が続出したとみられる。

オレンジジュースだけ値上げするメーカーも

こうした状況に物流費などの高騰も加わり、オレンジジュースの値上げが相次いでいる。

キリンビバレッジは、前述の「トロピカーナ 100%」(900ミリリットル)を2023年8月に販売再開すると同時に、90円値上げして、希望小売価格を税別350円とした。他方、同一シリーズのアップルやグレープなど別フレーバーの品は同260円のまま。現状、オレンジジュースの値段が突出して高い。同年10月には「トロピカーナ 100% オレンジ」の330ミリリットルペットボトルも値上げした。

雪印メグミルクは、「ドール」ブランド商品を2022年から複数回値上げしてきた。一連の値上げ前は税別95円だった200ミリリットル商品は、現在同115円となっている。

ただ、オレンジだけ高い値段にはしていない。200ミリリットル商品はフレーバーが10種類あり、その中から「選ぶ楽しみ」を感じてもらいたいという想いが根底にある。一方、比較的原価が高い450、1000ミリリットルに関しては、オレンジジュース商品を休売中であり、今後「200ミリリットル商品とは異なる検討もあり得る」(同社の平谷氏)という。

さらに雪印メグミルクは2023年4月、「ドール」ブランドから「Juicy Plus 1日分のマルチビタミン オレンジミックス」を発売した。オレンジ果汁を中心に、グレープフルーツやぶどう果汁がブレンドされており、1本で1日に必要な複数のビタミンが摂れる。「ドール」ブランドのこだわりである果汁100%は維持しながら、栄養素の訴求を通じて消費者の健康ニーズに応えることを意識した商品だ。

「オレンジ果汁100%」など1種類の果汁で製造した商品に依存せず、果汁ミックスジュースをラインナップに加えることは、「安定した事業継続のための一戦略と言えるかもしれない」(平谷氏)。ある果汁の調達が難しくなった場合の備えにもなるというわけだ。

「バヤリース オレンジ」(1500ミリリットル)を休売中のアサヒ飲料も、「オレンジ果汁含有商品の安定供給に向けて、商品構成の見直しを図る」としている。

解決の糸口は原料調達先の多角化

オレンジジュースの安定的な供給に求められるのは、1つの輸出国や少数の取引先に依存しない調達だ。

例えば輸入量が極端に減った2021年は、ブラジルからオレンジ果汁を十分に確保できず、メキシコ、イスラエル、スペインなどからの調達が増えた。2023年もブラジルからの調達が困難になったことから、「オレンジ果汁の獲得のために、今は各社が世界中を探し回っているのではないか」(飲料企業関係者)。

国産原料への注目も集まる。

これまでオレンジジュースに用いられる果汁は、比較的安価に調達可能な輸入品が多かった。しかし、最近では輸入オレンジ果汁よりも国産みかん果汁の方が安く手に入る場合がある。このため国産みかん果汁原料の使用を検討するメーカーもある。

だが、国内のみかん収穫量は減少傾向にある。2022年産は2020年産に比べ11%も減少した。また、みかんは生食用への仕向けが優先され、余ったり生食用に回せなかったりしたものが果汁等の加工用に仕向けられる。実際、2018年から2021年産の国産温州みかんの生果収穫量のうち、果汁向けに処理されたのは約3〜6%と少ない。

これまで何気なく飲んでいたオレンジジュースもまた、世界的な天候不順や為替の影響を受ける。2024年はオレンジジュースをスーパーで気軽に買うことができるようになるのか。その見通しはまだ立っていない。

(田口 遥 : 東洋経済 記者)