インドネシアの高速鉄道の愛称は「Whoosh」(ウーシュ)。2023年10月に開業した

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インドネシアで東南アジア初の高速鉄道が2023年10月に開業し、2か月がたった。元々は日本と中国が受注を競っていたが、15年に中国がインドネシアに対して財政支出や債務保証を求めない提案を行ったことで、日本は受注を逃したという経緯がある。

23年12月初旬に実際に乗ってみると、やはりハード面、ソフト面ともに「中国色」がにじむ鉄道だった。

途中駅で降りて連絡列車に乗り換える

用地取得が難航し、工事は遅れに遅れた。中国の受注が決まった15年時点では15年に着工し19年に開業する計画だったが、起工式が行われたのは16年1月。4年遅れでの開業になった。

首都ジャカルタと西ジャワ州の主要都市バンドン間、全長142.3キロを結ぶ。バンドンの標高は約700メートルあり、熱帯にしては過ごしやすい。大学都市としても知られ、歴史的には第1回アジア・アフリカ会議(バンドン会議)が開催された場所として有名だ。

ジャカルタ側からハリム、カラワン、パダララン、テガルアルの 4つの駅があるが、カラワン駅は未開業。高速鉄道はバンドン中心部には直接乗り入れておらず、パダララン駅でバンドン中心部のバンドン駅行きの連絡列車に乗り換える必要がある。記者が乗車した時は、ハリムから乗った乗客の大半が、パダラランで降りて連絡列車に乗っていた。

プレミアムエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスの3クラス制。上記のルートをたどった場合、運賃はそれぞれ25万ルピア(2320円)、45万ルピア(4180円)、60万ルピア(5570円)だ(連絡列車込み。12月8日時点)。

一方、バンドン駅とジャカルタ中心部のガンビル駅を結ぶ在来線特急も3クラス制で、運賃は15万ルピア(1390円)、25万ルピア、45万ルピア。高速鉄道の方が若干高い。

改札で長蛇の列も「中国式」

愛称は「Whoosh」(ウーシュ)。インドネシア語の「時間節約(Waktu Hemat)、最適運転(Operasi Optimal)、優れたシステム(Sistem Hebat)」の頭文字を取った。駅の表示や車内アナウンスはインドネシア語と英語だ。一見、中国色を排したかのように見えるが、運営は「中国スタイル」で一貫している。

車両は、中国の車両メーカー、中国中車(CRRC)傘下の青島四方機車車両が製造。中国が高速鉄道の車両を輸出するのは初めてだ。列車名の命名規則もそうだ。記者が乗った列車は「G1229」。中国では最も速い種別の列車名に「高速鉄道」(高鉄=gaotie)の頭文字「G」がついており、それにならったとみられる。

記者はオンラインでチケットを購入したが、他の乗客に紙のチケットを見せてもらうと、レイアウトはほとんど中国のものと同じだった。

乗車スタイルも同様だ。駅は都心から不便な郊外にあり、出発客用の入口から建物に入ると、X線による荷物検査がある。そこからしばらくは広い待合室で待機し、出発20分前に改札が始まって長蛇の列ができる...といった具合だ。久々に中国の高速鉄道の駅に来たような錯覚を覚えた。

ファーストクラスで配られたのは...

記者は奮発してファーストクラスに乗車。横3列(1列-2列)の配列で、総じて快適に移動できた。ファーストクラスのための客室乗務員も乗車し、パンとジュースが入ったランチボックスと、ペットボトルのミネラルウォーターを配っていた。静かな空間を意識したのか、ファーストクラスには車内放送は流れず、ビジネスクラス向けの放送が漏れ聞こえてくるだけだった。中国語を話す人は見当たらなかった。

出発は正午の予定だったが、定刻よりも40秒ほど早い11時59分20秒頃に発車。それから10分ほどで最高時速の350キロに達し、定刻の12時30分にパダララン駅に到着した。30分間で複数のトンネルを通過したが、その間はいずれも「圏外」。ビジネス客の利用が増えた際には問題になりそうだ。

連絡列車は定刻より2分早い12時38分に発車し、定刻よりも5分遅い13時4分にバンドン駅に着いた。移動時間は全部で1時間ほどだ。復路は在来線特急で移動。バンドン駅16時10分発、ガンビル駅18時56分着の予定に対して、出発16時10分、到着は19時5分。定刻より9分遅い、2時間55分の移動だった。

こうみていくと、ジャカルタ-バンドン間の短縮効果は2時間ほど。ジャカルタ中心部から郊外のハリム駅まで移動する時間を考えると、短縮幅は、さらに小さくなる。ただ、今後は第2の都市、スラバヤへの延伸も計画されている。現時点で実質的に高速鉄道に乗っているのは30分だが、それがさらに長くなれば優位性も増すとみられる。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)