日本人の身長は同じアジアの中国・韓国より下…「平均身長の国際比較」が株価推移と並ぶ関心事のワケ
■「平均身長の国際比較」を気にする人が多いワケ
筆者が制作している「社会実情データ図録サイト」において、「株価の長期推移」や「歴代内閣の支持率推移」などと並んで定番的にアクセス数がトップ10にランクされる図録に「平均身長の国際比較」がある。筆者の妹(1956年生まれ)は、背が170cm近くあったが、大オンナと見られるのが嫌で若い頃164cmと対外的に低く偽っていた。男性の場合は逆のケースもあろう。背の高さは人びとが個人的に関心を持つ普遍的なテーマであることがこうしたことからもうかがえよう。
そこで、今回は、平均身長の世界分布や主要国の身長の長期推移について紹介することにする。そし最後に、やはり気になるデータとして、身長との関連でペニス・サイズの国際比較についても付け加えることにする。いずれも、単純に、どうなっているのだろうという気持ちで気楽に見ていただきたい。
まず背の高さの世界分布の全体像を視覚的にとらえるために、世界各国の男性の平均身長を示した分布マップを図表1に掲げた。
男性の平均身長の高い順にトップ10を掲げると(カッコ内は平均身長、m)、オランダ(1.84)、モンテネグロ(1.83)、エストニア(1.82)、デンマーク(1.82)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(1.82)、アイスランド(1.81)、チェコ(1.81)、スロベニア(1.81)、スロバキア(1.81)、クロアチア(1.81)である。
すべてヨーロッパの国々であり、北欧諸国と東欧諸国が多い。図で赤く塗られた1.80m以上という基準ではさらにドイツやウクライナなども含まれる。
反対に男性の平均身長の低い順に下位9位までを掲げると、東ティモール(1.59)、ラオス(1.62)、イエメン(1.63)、グアテマラ(1.64)、ネパール(1.64)、バングラデシュ(1.65)、フィリピン(1.65)、マダガスカル(1.65)、カンボジア(1.65)である。そして、次点の1.66mなのがインドやインドネシアなどである。
いずれもインド洋を取り巻く南アジア、東南アジア諸国である(イエメンとグアテマラは例外)。
身長の世界分布を概観すると、まず気がつくことは、北方の寒い国ほど背が高く、赤道をまたぐような暑い国ほど背が低いというおおまかな傾向である。体表面積の相対割合を増やして放熱を促進した方がよいか、それとも逆にして抑制した方がよいかという要因から、暑い地域ではからだが小さくなり、寒い地域ではからだが大きくなるという恒温動物共通の法則、すなわち「ベルクマンの法則」がヒトの場合でもある程度働いているためと考えられる。
(注)例えば、クマでも熱帯に分布するマレーグマは100〜140cmと小さく、北極近辺に住むホッキョクグマはオスで200〜250cmと体長でその2倍近く大きい。暖温帯のツキノワグマはその中間の120〜180cm。
なお、日本人男性の平均身長は1.72mであり、データが得られる132カ国の中で上から83位とやや低い方に属する。
■遺伝的素質と経済発展という二大要因
日本人が欧米人に比べ背が低いことは、経済成長に伴い栄養が改善されてかつてよりはずっと背が高くなった今でも、テレビで見る外国人、国内にいる外国人との比較で感じていることである。
こうしたもう少し具体的な各国の状況を見るため、大陸別に平均身長の高い順に主要国のデータを女性を含めて図表2に掲げた。
男女はほぼ平行したパターンとなっているので、男性についてみてみよう。
日本人男性の平均身長は172cmであり、最も背の高いオランダ人男性184cmより12cm低くなっている。背の高い方では、オランダの他、デンマーク、チェコでは男性の平均身長が180cmを超えている。他のヨーロッパ諸国や旧英領植民地のオーストラリア、カナダ、米国といった国のほか、トンガなどオセアニア諸島もほぼ175cm以上と日本人より背が高い。
ヨーロッパは背が高い国が多いが、その中でもポルトガルやイタリアといった南欧諸国では、概して、背は高くない。これもベルクマンの法則に沿っている。
一方、日本人より身長が低い国は、ヨーロッパ諸国にはなく、アジアやアフリカの諸国である。中東のうちサウジアラビア、中南米の一部も日本より背が低い。
ただし、日本より遅れて経済成長した開発途上国が栄養状態の改善などによって身長が伸びたため、現時点では日本人の身長は世界の中でも高い方とは言えなくなっている。
アングロサクソンの中で米国はやや背が低い方にバイアスがかかっているが、これは、背が相対的に低いヒスパニック系の比率がかなり高いためと考えられる。しかし、それだけが要因ではないとみなされている点については後述の通りである。
最も背が低い諸国は、ベルクマンの法則に則した遺伝的な要因と経済発展が遅れているという要因とが両方働いている結果と考えられる。ラテンアメリカのメキシコはラテン系白人にインディオが混血しており、身長は南欧諸国よりさらに低い。もっともメキシコの場合なお途上国のため栄養水準の制約による側面もあろう。
■中国や韓国に引き離されつつある日本の平均身長
身長は栄養状態の改善や経済発展で伸びてきていることが過去と比べた日本人の身長の推移を見ても明らかである。この点は、われわれの父母や祖父母や次世代の若者の背の高さの違いから日常的に感じ取っていることである。
そこで、こうした時系列的な身長の変化を主要国について、次に、見てみよう。
1820年代生まれの平均身長から現在に至るまでの主要国の身長の長期推移を図表3に示した。時系列軸が出生年代で刻まれているのは、出生後しばらくの栄養条件や疾病状況で成人時の身長が決定される可能性が高いからである。各世代の身長が混在する各時点の成人平均身長よりも時代変化が明確に表れるデータのとり方といえよう。
第2次世界大戦後は世界各国で栄養が十分に供給されるようになって身長が大きく伸びてきた状況がはっきり見て取れる。
アジア諸国は19世紀には、日本のように鎖国していたり、中国などのように植民地化されていたりして全般的に貧しく、身長の伸びも停滞していた。それだけに、特に第2次世界大戦後の伸びが目立っている。中国などは19世紀前半生まれの身長は米国に次ぐ高さでオランダやフランスといった西欧諸国を上回っていたのが、19世紀後半には身長自体が低くなっていたところに植民地下の厳しい状況がうかがわれるのである。
現在は世界一の身長を誇るオランダであるが、実は、19世紀前半の段階では米国の方がずっと背が高かった。これは旧英領植民地諸国の特徴であり、処女地ゆえ肥沃(ひよく)な新大陸で肉などの食料を豊富に得ることができていたからだと考えられている(注)。19世紀後半には当初の優位性は消え、イタリアなど背の低い南欧からの移民も増えて平均身長は低下したが、20世紀に入ると西欧と同様に身長は、再度、伸び始めた。
(注)「アメリカの入植者がイギリスに反旗を翻したとき、アメリカの入植者の栄養状態はイギリス人よりもはるかによかった。アメリカの兵士は味方のフランスや敵のイギリスの兵士よりも頑強な体格だったのだ。1793年にフィラデルフィアの医師ジョン・ベルは、初期のアメリカ人は“大食漢だった。というのは、彼らの周りには、豚、牛、野菜、トウモロコシなど、食物が溢れていたからだ”と記している」(ジャック・アタリ『食の歴史』プレジデント社、原著2019年、p.132)。
ところが、米国は、近年、貧富の格差や移民の増加によるものと思われるが、身長が停滞しているように見える。実際、米国CDCの調査データを見ると2000年代初頭から米国人の身長は低下に転じている。
オランダやフランスはアジアと比べると早くから近代化が進み、身長の伸びも早くからはじまっていたが、19世紀前半には両国の背の高さにはほとんど差がなかった。戦後、オランダがフランスを大きく身長で上回るようになったのは、栄養上の制約が取り払われて、寒い地域の方が背が高いというもともとの遺伝的な特性(ベルクマンの法則)があらわれるようになったとみてよかろう。
日本人の身長は江戸時代に栄養水準の停滞や雑種強勢を阻む婚姻圏の局地化により日本史上最低レベルの身長となっていたこともあり、1880年代生まれの身長は図の中で最低であった。
しかし、その後、文明開化、産業の近代化、栄養改善、あるいは国内外にわたる婚姻圏の拡大を通じて目覚ましい身長の伸展を見た。もっとも最近は身長変化の幅は小さくなっており、中国や韓国に離されるかたちとなっている。中国や韓国は北方民族的なDNAが日本より濃いため、上でオランダがフランスを引き離しているのと同様に、栄養条件均等化にともなう素質顕現の動きが進み始めていると見なすことができよう。
■ペニス・サイズは必ずしも身体の大きさと比例しない
最後に、こんなデータもあるのかということで、世界各国のペニス・サイズを紹介する。データは、上で世界各国の平均身長でも使用したWorldData.infoサイトが10種類の研究結果からまとめたものである。
図表4には、主要国のペニス・サイズについて、原寸(勃起時)と対身長比という2つの指標でOECDとそれ以外に分けて大きい順に国を並べた。
ペニス・サイズについては身体の大きさや体格(BMI)との相関が議論の的となっている。そこで、図表5には、データのある全88カ国について、身長との相関図を掲げている。ゆるやかな相関が認められるが相関度は低い(R2=0.0552)。
各国平均は13.58cmであり、最長はエクアドルの17.61cm、最短はカンボジアの10.04cmである。最長は最短の1.75倍になっている。日本は13.56cmとほぼ世界平均に等しい。なお、原資料によれば、萎えたペニスは9.3cmであり、勃起時はその1.5倍となる勘定らしい。
世界ランキング上位国であるエクアドル、カメルーン、ボリビア、スーダン、ハイチはいずれもラテンアメリカかアフリカの諸国であるが、身長はそれほど高くないのに、ペニス・サイズは大きいという特徴がある。
もっとも世界ランキング下位国のカンボジア、フィリピン、ミャンマー、スリランカはいずれもアジアの諸国であり、身長も低いという特徴が認められる。
身体が大きいからといって必ずしもペニスが大きいわけではなく、対象国の中で最も身長が高いオランダは、ペニス・サイズでは8位に過ぎない。身長の高い北欧諸国は同様の傾向にある。
日本のペニス・サイズは世界61位と60位の米国と並んで、世界の中ではやや小さめの国である。日本人のペニス・サイズはOECD30カ国中でも実寸で25位、対身長比であると20位とどちらかというと小さい方である。もっとも対身長比だと米国人は日本人より小さい。中国や韓国といった東アジア諸国の中で比べると、日本は身長とは異なり、この2国よりやや大きい。
データ出所サイトには、肥満者については、どこまで出っ張った腹を取り除ける処置をするかによって測定結果が左右されるとある。米国人は肥満が多く、日本人は肥満が少ないことを考えると、米国人は測りきれず、日本人の計測の方が実寸に近い値となっている可能性はある。
自計申告は除くとされているが、このようにもともと測定が難しい値であるのに加え、複数ソースの寄せ集めデータであることも踏まえると、そのままうのみにするようなデータではないことは頭に置いてランキングを判断する必要があろう。
その上で特徴点をさらに探ると、OECD諸国の中では北欧諸国やラテンアメリカ諸国が上位で、英語圏諸国が下位という傾向が認められる(カナダは例外)。OECD以外では、ブラジルが大きく、フィリピンが小さいのが目立っている。
ペニス・サイズについては、平均身長におけるベルクマンの法則や経済発展との相関のような何らかの法則性を見いだすことはなかなか困難である。
----------
本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
----------
(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)