「ゴジラ-1.0」の完成報告記者会見。(左から)山崎貴監督、俳優の神木隆之介さん、浜辺美波さん、東宝取締役専務執行役員の市川南氏(写真:時事)

アメリカで現地時間1日に公開された『ゴジラ-1.0』が、センセーションを起こしている。英語のタイトルは『Godzilla Minus One』。初日3日の売り上げは1100万ドルで、ランキング3位。

スクリーン数は2300で、首位を獲得したビヨンセのコンサート映画『Renaissance: A Film by Beyonce』(2500)、2位の『ハンガー・ゲーム0』(3700)、4位の『ウィッシュ』(3900)、5位の『ナポレオン』(3500)に比べて少ない。字幕付き映画であることも考慮すれば、大健闘だ。実際、外国語映画として、北米で今年最大のオープニング成績となった。

2023年で最高の映画のひとつ

見た人の評価も、非常に良い。Rottentomatoes.comを見ると、批評家の97%、観客の98%が褒めている。ゴジラに詳しい人ほど満足度が高いようで、過去のゴジラ映画についても批評を書いてきた「Forbes」のマーク・ヒューズの記事の見出しは、「2023年で最高の映画のひとつ」だ。

記事の冒頭で、ヒューズは、「これまでに日本とハリウッドで作られてきたゴジラの映画は、興行面で大ヒットもあればぱっとしなかったものもあり、質においても傑作、まあまあ、駄作までいろいろあった」と振り返る。

「そんな中、ひとつ間違えばバカらしいB映画になる可能性もあったのに、社会的、歴史的テーマを見事に織り込んだ1954年のオリジナルはマスターピースだ」と絶賛。

「最近のものは派手な特殊効果を使っているもののオリジナルが与えたインパクトをもたらすものはないと思っていたところへ、ようやく出てきてくれた」と、ヒューズは喜びを表現する。

「『ゴジラ-1.0』はオリジナルと『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』に似たストーリー構築とテーマを持つが、それらの要素をよりレベルアップされた形で持ち込まれ、独自のものになっている」と、ヒューズ。

「山崎貴による脚本はリアル、かつ繊細な人間たちが描かれたすばらしいもので、ビジュアルも、もっとお金が投じられたハリウッドのバージョンよりも優れている」と述べる。

「『ゴジラ-1.0』はこれまでで最高のゴジラ映画。怪獣シネマにおけるマスターピースだ。この意見に反対するファンやシネフィルは多いだろう(実際、山崎監督もそこまでだとは認めないかもしれない)。私はオリジナルを侮辱するわけではない。山崎監督はあのすばらしい映画をベースにしたのだから。だが、彼はそこに、今振り返るからこその視点、歴史的な意義、これからの世代に何を意味するのかを加えたのだ」とも、彼は書いた。

これまでで最も感情的に複雑なゴジラ映画

また、映画批評家、業界コラムニストのデビッド・ポーランドも、影響力を持つ自身のニュースレター「The Hot Button」でこの映画をしっかりと取り上げている。ヒューズ同様、ゴジラの映画はいろいろで、見てみるまでどんなものに当たるかわからないと前置きしたうえで、「『ゴジラ-1.0』はこれまでで最も感情的に複雑なゴジラ映画だ」と述べた。

「これはゴジラについての映画ではない。戦争を生き延びた日本人についての映画だ。彼らは屈辱と罪悪感を覚えている。敗戦の傷から立ち直ろうとしている彼らは、ゴジラの登場により、自分たちが受けた傷の意味合いを考え直すことになるのだ」とポーランド。

だが、ファンが求めるゴジラのシーンもちゃんとあるだけでなく、それらのシーンは最高だとも褒める。「ゴジラの肉体的な動きがここまでリアリスティックなゴジラ映画は見たことがない。ひどいCGやミニチュアを使ったせいで気が散るなどということは一度もなかった」。

そんなポーランドは「これは本当に良い映画だ。映画のほとんどで、日本人に思い入れをするから悲しいけれども」というポーランドは、この試写に連れていけなかった13歳の息子がどんな反応をするのかを見るために、劇場にまた見に行くつもりだとも書く。

しかし、少数派ながらネガティブな感想もある。ウェブサイト「Movie Nation」のロジャー・ムーアは、ヒューズやポーランドが褒める脚本を「感情面で弱い」と感じ、「人間のストーリーを語ろうと試みはするが、単なるゴジラ映画の中では気を散らせるだけだ」「山崎氏がやろうとしていることは良いと思うが、自国の観客に臆病な形でテーマを語ろうとしたことから、モンスター映画に制限がかかってしまった」と書いている。

『ニューヨーク・タイムズ』はまあまあという感じの短い批評にとどまった。『ロサンゼルス・タイムズ』は、この映画の批評を掲載していない。

アメリカのゴジラファンも認めた

さて、観客の感想はどうかというと、圧倒的に5つ星満点の5つ星が占める。ここまでの状況はそうそう見るものではない。今の段階で劇場に駆けつけた観客がゴジラの大ファンであることは言うまでもないだけに、この結果はより大きな意味を持つ。

ファンの書き込みには「過去最高のゴジラ映画」「ストーリーもキャラクターの変化もすばらしい。感情的な映画だ」「ゴジラ映画の中で最高というだけでなく、近年の映画の中で最も優れたもののひとつ」「東宝のゴジラは2016年以来だが、待った甲斐があった」などというものが見られる。この記事を執筆している段階ではけなすコメントはひとつも見つからなかった。満点の5つ星を与えなかった人たちも、4つ星半をあげている。

この映画がここまで愛されたとあれば、次に来る『Godzilla X Kong: The New Empire』には、さらにプレッシャーがかかるのではないか。来年4月の北米公開が予定されているこのハリウッド映画は、2021年の『ゴジラvsコング』の続編。監督は前回同様、アダム・ウィンガードだ。

『ゴジラvsコング』はパンデミック中の公開だったこともあり、2億ドルの予算に対して、世界興収は終始とんとんレベルの4億7000万ドルだった。満足度はというと、Rottentomatoes.comでの数字は批評家が76%、観客が91%と決して悪くない。だが、『ゴジラ-1.0』のせいで、ファンのハードルは上がってしまった。

撮影は今年前半に終了しているし、もうどうしようもないが、「史上最高」の後には何が来るのか。いずれにせよ、70年続いてきたゴジラのレガシーは、これからもとどまることはなさそうだ。


ロサンゼルスのプレミアで撮影に応じる山崎貴監督(左)と神木隆之介さん(写真:REX/アフロ)

(猿渡 由紀 : L.A.在住映画ジャーナリスト)