令和の中古市場に起きている変化を紹介します(写真:酒林 蒼/PIXTA)

2023年もあとわずか。大掃除前にと片付けを始める人も多いだろう。不要なモノはさっさと捨ててスッキリ……の前に、こんなデータもあることを知っておきたい。

年末年始の大掃除で捨てられる予定の“かくれ資産”

フリマアプリ大手のメルカリが発表した、「2023年版 日本の家庭に眠る“かくれ資産”」によれば、年末年始の大掃除で捨てられる予定の不要品の資産価値は、1家庭あたり平均8万5000円相当もあるという。

“かくれ資産”とは、1年以上使用しないまま保管しているモノを不要品とカウントし、その保管数量とメルカリでの平均取引価格によって金額に換算した数値のこと。

対象アイテムは、服飾雑貨、書籍・CD・ゲーム、美容・健康関連、ホビー・レジャー、スマホ含む家具・家電・雑貨の5分類。日本全国の家庭に眠る“かくれ資産”の総額は、2023年で推計約66兆6772億円にも上るとか。

大掃除で捨てられる予定の8万5000円のうち、最も割合が多かったのは服飾雑貨で全体の約42%を占め、金額に直すと約3万6000円。

なお、人がアパレル品を処分したくなるのは12月が最多だそうだ。ダウンやコート、ウールやニットなど厚手の服が多いため、かさばるものを売ってスッキリしたいというのはよくわかる。

これらを見ると、われわれは資産と呼ぶにはそぐわないような、お手頃価格の不用品をたくさん抱えているということになり、少し勇気が湧いてくる。

この調査は2018年から数えて3回目だが、第1回が約37兆円、第2回が約44兆円、そして今回は約67兆円と、総額は年々増えている。総額が増えたのは、まず所有するモノの数が増えたことが理由。これにはコロナ禍で外出より家ナカ消費、つまり家で過ごすための買い物が増えたこともありそうだ。

また、1次流通品の値上がりが中古品の取引価格を押し上げているとの分析もあり、もともと手に入れた時の金額が高ければ、それにつれてリユース品の値付けも上がっていくという構造による。

物価高が中古高額品の取引を活発化させる面もある。例えば季節家電。リサイクルショップで聞いた話では、中古家電の人気はこのところ高いという。半導体不足などもあり新品の価格は高止まりで、購入を躊躇する人たちが中古家電に目を向けるのだとか。

ショップが検品して一定期間の動作保証をして販売してくれるから安心ということもあるだろう。とはいえ店頭に並ぶ中古家電の数は限られており、需要が供給を上回れば価格も落ちないわけだ。お手頃だった中古市場にもじわじわ値上げの波が押し寄せつつある。

むろん、物価高の影響はそれだけではない。メルカリの同調査で直近1年間の各種リユースサービスを活用した買い物頻度について質問したところ、8%が「とても増えた」、約17%が「やや増えた」と回答し、合わせて約25%が「増えた」と回答したとある。ついで、所有物を売る頻度の変化についても、約7%が「とても増えた」、約16%が「やや増えた」と回答し、合わせて23%が「増えた」と回答している。

不要なモノを別の人の手に渡し、捨てることなく次の使用につなげていく行為は、美しく望ましい循環社会だが、ありていに言えば“新品に使うお金がない”のも現実なのだろう。

コロナ禍明けで、売れるモノにも変化が

メルカリで売れ筋と言われるアイテムは、わりと普通のモノばかりである。

最も売買されているのはトップス、ボトムス、靴、カバンなどを含む服飾雑貨だが、取引ランキングのトップに来るブランドはハイブランドではなくユニクロだ。それだけ新品で買われている量が多いともいえるし、幅広く着られているからこそ“中古を買っても失敗しない”ブランドなのだろう。

ただし、2023年のリユース市場はここ数年と比べてやや変化が起きてきそうだ。言わずもがな、新型コロナによる行動制限が解除され、人々は自宅周辺からどんどん外に向かっている。今年はクリスマスや忘年会といった人が集まるイベントも解禁され、またウィンタースポーツに出かける機会も増えてくる。イベント用の洋服やシューズ、スポーツ用品、防寒ウェアなどの需要が増えていくだろう。

本来はこうした季節商材はシーズン最盛期より早めが売り時と言われるが、最近急激に寒くなった今年は冬物の出足も遅れ気味だったので、売りたい人はすぐにでも動くべきだ。

なお、ブランド質屋では、宝飾品や貴金属が最も売れるのはクリスマス前との話も聞いたことがある。わが家のかくれ資産をお金に替えたいなら急いだほうがいい。

骨董品やアンティークにも円安の影が

同じ中古市場でも別の意味で活況を呈しているのが、いわゆる蚤の市や骨董市だ。ここでは古物を扱う業者が出店している。店舗は持たず、こうした各地の骨董市への出店あるいはネット販売のみという個人の店主が目立つ。

販売されている中には、終活や実家じまいで引き取られた生活道具や骨董品なども多い。昭和レトロともいうべき懐かしいおもちゃなども見かける。これらを買っていたのがモノを持つのが豊かさの象徴だった昭和世代だとすると、こうした“遺産”が市場に出ていく現象は、この先はかなり減っていくかもしれない。

古いものを手放す人が高齢なら、買う側のコレクターも高齢化している。さらに言えば、品物を並べる店主もだ。そのため、今はともかく、市場がこれ以上広がりにくい印象がある。店主たちからは、「自分が引退するまでに、手元の品を全部売り切ることはできないだろう」という声もちょくちょく聞いた。とはいえ、投げ売りのような大幅な値引きはしにくい。その品の買い取り価格に対して一定の利益を出さなくてはいけないからだ。

円安の影響もある。いわゆる「買い負け」の話もたびたび聞く。海外のアンティーク品を仕入れたくても、円が弱いため他国のバイヤーに歯が立たないという。金や銀の値上がりも激しかったため、アンティークのジュエリーや銀製品もまったく買えないとの嘆きもある。

買い手側も変化している。東京・有楽町で毎月行われている大江戸骨董市では、訪日外国人が熱心に物色している姿を見かける。円安の恩恵で、和食器や古道具・着物が手ごろな価格で買えるのだろう。それも、土産用のレプリカではなく、本物が。ここでも高額品を買っていくのは、日本人ではないようだ。

変化してきた日本人の消費

思い返せば、景気の良かった1980年代は西洋アンティークの店を街でよく見かけたものだ。ティーカップでも親世代はウェッジウッドなど海外ブランドをこぞって買っていたが、現代では無印良品あたりでシンプルな食器を買って済ませる家庭が多いのではないだろうか。嗜好が変化したと言えばそうだが、残念ながらそこにお金をかける余裕はない。

逆に中国人客が、かつて英国貴族のお屋敷で使われていたような銀器のティーポットを欲しがるようになったとか。もともとお茶を飲む習慣があり、暮らしぶりが豊かになるにつれて、そうした西洋アンティークに目が向き始めたのだろうというのだ。

金だけでなく、銀の価格も上がっており、純銀製品もじわじわ値上げされていると聞く。ますますわれわれの手には届きそうにない。中古市場ひとつ例にとっても、日本経済の現状が透けて見えそうではないか。

長く続くデフレのせいで、高品質で高額なモノを買うより低コストの使い捨て消費が根付いてしまった日本。今より財力があった昭和世代が退場したのちは、取引されるのは手ごろなアパレルやホビーなどの「かくれ資産」だけになってしまうのかもしれない。

(松崎 のり子 : 消費経済ジャーナリスト)