数分に1本の速達の「のぞみ」に対し、「こだま」は30分ごとだ(撮影:栗原 景)

コロナ禍収束で、人々の移動が復活し、新幹線需要も回復の一途をたどっている。

『週刊東洋経済』12月9日号の特集は「無敵の新幹線」。ビジネスパーソンの移動にはなくてはならない新幹線の「強さ」やサービス、技術力、そしてリニアなど今後の見通しについてリポートする。


東海道・山陽新幹線といえば、「のぞみ」ばかりに目が行きがち。だが、各駅停車の「こだま」も今、改めて注目されている。

東海道新幹線の「こだま」は「のぞみ」「ひかり」を補完する列車である。日中は原則30分ごとの運行で1時間当たり2本。東京─新大阪と東京─名古屋の列車が交互に運行されており、「のぞみ」「ひかり」の停車しない中堅都市への輸送を担う。

東京発着であれば、新富士や掛川など東海地方へのビジネス・観光利用、熱海や三島などからの通勤・通学利用が中心だ。「のぞみ」と「こだま」を組み合わせて乗車する人も多く平均乗車時間は短い。

インバウンドにも「ジャパン・レール・パス」で人気

そんな「こだま」の何が魅力なのか。それはリーズナブルな速度と価格で乗れるうえ、実用性を備えたまま列車の旅を楽しめることだ。

「こだま」の所要時間は、東京─新大阪が3時間54分で、東京─名古屋は2時間34分(いずれも最速)。「のぞみ」より時間はかかるが、まったく非現実的な時間ではない。自由席やグリーン車なら朝を除けば比較的すいている。

インバウンド(訪日外国人観光客)向けにJR全線乗り放題となるジャパン・レール・パスの人気もあり、別料金で割高な「のぞみ」や混雑する「ひかり」を避け、「こだま」を選ぶ外国人客も増えている。

「こだま」には独自の安価な商品がある。JR東海ツアーズが販売する旅行商品「ぷらっとこだま」は、「のぞみ」の通常運賃より最大3400円安く、800〜1500円を追加すればグリーン車にも乗れるほか、売店で使用できるドリンク券もつく。乗車前日までネットで購入できる手軽さから、ビジネス客にも人気が高い(変更や乗り遅れ時の取り扱いには制限あり)。

JR東海の会員制ネット予約サービスであるエクスプレス予約にも、3日前までの予約を条件に大幅に割り引く「EXこだまグリーン早特3」をはじめ、「こだま」向け商品がある。これらを買って「こだま」のグリーン車で仕事をする常連客もいるほどだ。


「ぷらっとこだま」は通常より最大3400円安い(撮影:栗原 景)

のぞみの”通過待ち”の間、駅弁も買いに行ける

さらに、鉄道ならではの楽しみ方ができるのも、「こだま」の魅力だろう。

折しも今年10月いっぱいで、東海道新幹線の車内販売が原則廃止され、いったん乗車したらグリーン車を除いて飲食物の購入はできなくなった。その点「こだま」ならば、多くの駅で「のぞみ」の待避(通過待ち)をするため、停車時間中にホームや改札内の売店で駅弁を購入できる。

列車が数分間止まっている間、「港あじ鮨」(三島駅)や「うなぎ弁当」(浜松駅や掛川駅)といった新幹線沿線の名物駅弁を買い、富士山や浜名湖の車窓風景を楽しみながら味わう──。そんな懐かしい列車の旅を味わえる。

実際、JR東海が「こだま」向けの安価な商品を提供する背景には、グリーン車中心に相対的に稼働率の低い「こだま」の利用促進がある。

あるいは近い将来に「こだま」が東海道新幹線の主役となる可能性もある。最高時速500キロメートルで走るリニア中央新幹線がいずれ開業すれば、速達性を求めるビジネス客などはリニアへとシフト。JR東海は東海道新幹線において新たな価値を創出する必要に迫られるからだ。

もともと東海道新幹線はトンネルが全線の17%と少なく、沿線に富士山などの絶景を多数抱えている。ゆとりある旅を楽しめる観光列車として、「こだま」が再評価される日が来るかもしれない。


(栗原 景 : ジャーナリスト)