すき家などを展開するゼンショーホールディングスは企業買収により海外強化を図る構えだ(記者撮影)

牛丼店「すき家」などを展開する外食最大手のゼンショーホールディングスが、一段の成長へとアクセルを踏み込む。

同社は11月24日、公募増資と第三者割当増資により最大約500億円の資金を調達すると発表した。発行価格は12月5〜8日の間に決め、払込日については同11〜14日とする。

新たに発行する株式は521万8000株を予定する。同社が公募増資で資金調達を行うのは9年ぶりだ。9年前の公募増資では約270億円を調達。その資金は、国内外の新規出店や既存店の改装などに充てた。

増資発表後、株価が急落

今回調達する資金は、すべて将来のM&A(合併・買収)に充てる方針だ。2026年3月期までに使用しなかった場合や未使用額が発生した場合には、2027年3月期までに借入金の返済に充当する。

今回、増資後の発行済み株式総数は11月24日時点から約4%増える見通し。この株式の希薄化が株式市場では嫌気され、11月24日のゼンショー株の終値は8742円と前日から138円も下げた。

その後も同社株価は下がり続け、11月30日の終値については8214円と、発表前と比べて7%超も下落している。

ゼンショーはここまで、M&Aを駆使して業容を拡大してきた。1982年の創業当初は弁当屋だったが、同年から牛丼チェーンすき家を展開。

その後、2000年にファミリーレストランの「ココスジャパン」、2002年にハンバーグレストランなどの「ビッグボーイジャパン」、2005年に牛丼チェーンの「なか卯」を次々と買収した。


2018年には、アメリカを中心に持ち帰りずしチェーンを展開する「Advanced Fresh Concepts Corp.」(AFC)を傘下に収めた。

コロナの影響が落ち着いた2023年4月には、ハンバーガーチェーン「ロッテリア」の株式を取得。さらに9月には、ヨーロッパやアメリカで持ち帰りずし店を展開する「SnowFox Topco Limited」(スノーフォックス)を約870億円で買収した。

M&Aをテコに規模を拡大し、2023年3月期の売上高は7799億円と、20年間でおよそ10倍の成長を遂げた。

M&A先として照準を定める企業は?

「フード業世界一」。ゼンショーは経営目標として掲げるこの野望を実現すべく、今後は海外企業のM&Aを積極化する構えだ。日本は人口減少により、市場規模が小さくなることが懸念される。海外での展開強化は、一段の成長を遂げるためには必須だ。

しかし、海外のトップ企業に並ぶには、まだまだ遠いのが実状だ。例えば、アメリカで上場する外食企業で最も売上高の大きいスターバックスは、2023年9月期売上高が359億ドル(約5兆2000億円)と、ゼンショーをはるかに上回る。

この先、ゼンショーはM&A先としてどのような企業に照準を定めるのか。世界トップ企業との売上高の差を考慮すると、まずは「ファストフード」業態が浮かび上がる。世界で多くの店舗を出店しているブランドが多く、買収すれば事業拡大に寄与する。

実際に、今年4月にロッテリアを買収した。ロッテリアは海外への進出を目論む。「ロッテリアは海外展開も強化していきたい」と、ゼンショーの丹羽清彦執行役員は意気込む。

フランチャイズ展開をする企業であることも、M&A先の候補として挙げられる。前出のAFCやスノーフォックスは、北米などで3000店舗以上を持ち、ほとんどの店舗をFCで展開している。

FC展開をすることで、出店時のリスクを低減することが可能だ。店舗などの固定資産を持つ必要がなく、速やかに出退店を行える。

勢いを増すゼンショーだが、同社の過去のM&Aについては、すべてが成功しているわけではない。2002年にアメリカハンバーガーチェーンの「ウェンディーズ」をダイエーから買収し、フランチャイズ展開していた。

しかし、ウェンディーズの事業は思うように成長が見込めず、2009年のフランチャイズ契約期間の満了をもって契約を終了した。

今後も企業買収を継続すれば、減損のリスクを抱え込むことにもなる。スノーフォックスの買収で発生したのれん資産の895億円は、AFC買収の際と同様に、今期中に商標権に組み替える予定だ。商標権に組み替えることで減価償却する必要がなくなり、のれん償却負担は生じない。


牛丼チェーンの「なか卯」は2005年に買収した(編集部撮影)

一方で、商標権は毎年減損テストを行うことになる。買収した企業の経営状況がよくなければ、大きな減損が発生する可能性があるということだ。

ゼンショーは今2024年3月期上期(2023年4〜9月期)に既に548億円の商標権を計上している。ここにスノーフォックスの895億円が上乗せされると、1400億円を超える商標権を抱えることになる。

財務基盤も盤石とは言いがたい

ゼンショーは、財務基盤が盤石とは言えないことも気がかりだ。

ロッテリアなどの買収では、劣後ローンで合計400億円を資金調達した。スノーフォックス買収の際は、900億円をブリッジローンで調達した。その結果、2024年3月期上期末の負債は4697億円と、前年同期から1000億円以上も増加した。

自己資本比率も同25.4%と、水準はけっして高くない。競合する吉野家ホールディングスの直近決算の自己資本比率は51.4%、同じくすかいらーくホールディングスも38.5%であることと比べると、ゼンショーの低さが際立つ。

今回の増資によって一時的に自己資本が膨らむが、減損リスクを考えると、さらに自己資本比率が低下することも可能性としてはある。

フード業世界一への道のりは、たやすくはない。まずは今回調達する500億円の資金をどこに振り向けるのか注視したい。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)