毎年「最低2週間の休暇」フランス人がとれるワケ
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家事や育児、介護などの分担をめぐって、家族間で言い争いが増えて、いつのまにか一緒にいて心地よい存在だったはずの家族が「つかれる存在」になってしまった……そんな話を聞くことがよくあります。
どうして自分の不満が家族に伝わらないの?どうしたら「つかれない家族」になれるの?そんなふうに「つかれる家族」と「つかれない家族」を考察するこの連載。
今回は「うつにならない働き方」の後編です(前編はこちら)。労働者の心身の健康や労働生産性を重視し、約90年前から「休める働き方」の促進に取り組んでいるフランス。今回は、フランス在住ライターの郄崎順子さんに、そんな働き方を支える大前提や職種ごとの仕組みを教えていただきました。
官民一体で進めてきたフランスの「休める働き方」
仕事をどう回しているか、多様な職種に徹底取材
業界・働き方問わず、「休む」ための大前提
「休む」ことを前提に年間計画の段取りや効率化を徹底
職種による差をカバーする制度
同職種のお店と、休みを調整しながら営業
医師や看護師のバックアップ体制
仕事が好きで「休まない」選択をする人も
管理職になる場合、研修がある職種もある
「休める働き方」を成立させているもの
郄崎家のある年のバカンス風景より、ブルターニュのビーチで遊ぶ息子さんたち。郄崎さんの著書『休暇のマネジメント〜28連休を実現させるための仕組みと働き方(KADOKAWA)』では、さらに多様な職種の「休める仕組みと工夫」が紹介されている。
マンガで紹介した農家専門の労働者派遣団体、調べてみると、日本にもちゃんとありました。酪農専用にはなるのですが、「酪農ヘルパー全国協会」では、冠婚葬祭や怪我や病気はもちろん、旅行や遊びでの利用も大丈夫なのだそう。そのほか、地域単位で相互補助システムを作っているところもあるようです。長期休暇のために利用する人は少ないとは思いますが、日本にもこういう組織があったことに安心しました。今後、さらにこういったシステムが充実していくことを期待します。
日本にとって最もハードルが高い要素は
さて、フランスの「休める働き方」を支える大事な要素「休むことへの強い意志」「計画」「仕組み」「周りの理解」。働き方改革が始まり「休める国」になることを目指す日本にとって、最もハードルが高いのは「周りの理解」かもしれない、と私は思いました。
なにしろ、日本人は便利で迅速で手厚いサービスに慣れすぎています。それが当たり前だと思っている人が多いですし、そのサービスが誰かのオーバーワークの上に成り立っていると想像したことがない人も多いのです。かくいう私も、以前、スペインに住んだことで、やっとそれらは世界的には当たり前じゃないと気づくことができました。サービス提供側も、オーバーワークになっても顧客の希望に応えるのは当然だと思っている人が多いのです。
医療だってそうです。大小さまざまな病院があり、どこの病院でも自由に選べて、人気病院以外ではすぐに診察してもらえて、主治医がしっかり密にフォローしてくれる……そんなの日本人にとっては当たり前ですが、これも実は世界的に見るとかなり恵まれた状況です。「専門医に診てもらえるまで数カ月待ち」なんてことも海外ではザラに聞く話。もちろん、日本だって手続きなどに時間がかかってイライラすることはありますが、その頻度やかかる時間は欧州の比ではないといろんな国の話を聞くたびに思うのです。
ただ、いまの日本の現実……オーバーワークで心身を病む人が多いこと、少子高齢化で今後ますます人手不足になることを考えると、現状どおりの「便利で迅速で手厚いサービスの日本」を今後も維持するのは難しいと思うのです。すでに壊れ始めている、というのが正確かもしれません。
日本は今後、誰が休んでも仕事をまわせる仕組みを作ると同時に、多少の不便さや他人の休みにも寛容になることが、とても大事になのではないでしょうか。ただ、「労働者のウェルビーイング」と「顧客満足度」、そのベストなバランスはフランスと同じではない気がします。日本にあったバランスの検証はきっとこれから始まるのでしょう。
ちなみに、私の新刊『誰でもみんなうつになる〜私のプチうつ脱出ガイド』では、そうやって仕事などで心が落ちてしまったときにどうすればいいかを、3人の精神科医の意見をふんだんに入れて紹介しています。病院へ行くべきかの見極め、精神医療との上手な付き合い方などです。気になる方は、そちらも読んでいただけるとうれしいです。
この連載にはサブ・コミュニティ「バル・ハラユキ」があります。ハラユキさんと夫婦の問題について語り合ってみませんか? 詳細はこちらから。
(ハラユキ : イラストレーター、コミックエッセイスト)