上海港は世界最大のコンテナ取扱量を呼び水に、メタノール船舶燃料の供給ハブになることを目指している(写真は上海国際港務集団のウェブサイトより)

中国の上海港は、2022年のコンテナ取扱量が4730万TEU(20フィートコンテナ換算)に上る世界最大のコンテナ港だ。その運営を担う国有企業の上海国際港務集団(上港集団)はこのほど、同社の100%出資で「上港集団能源」という子会社を設立した。

企業登記情報によれば、上港集団能源の業務内容は「船舶燃料の販売、補給、技術開発など」となっている。財新記者の取材に応じた上港集団の関係者によれば、上港集団能源は(次世代の船舶燃料である)グリーンメタノールの関連事業を手がけるために設立され、将来は水素燃料も取り扱う計画だという。

マクロン大統領と習主席が立ち会い

上港集団は2020年、国有エネルギー大手の中国石油天然気(ペトロチャイナ)と折半出資で合弁会社を設立し、船舶燃料事業に進出した。この合弁会社では(重油を中心とする)従来型の船舶燃料の生産と供給を手がけている。

しかし今回、上港集団が単独出資でメタノール船舶燃料の子会社を設立した背景には、すでに複数の大口顧客をつかんでいる自信があるようだ。

2023年4月、上港集団はフランス海運大手のCMA CGMおよび中国の国有海運最大手の中国遠洋海運集団(コスコグループ)との3社間で、グリーンメタノールの供給に関する提携の覚書に署名。その調印式は、中国を公式訪問中だったフランスのエマニュエル・マクロン大統領と中国の習近平国家主席の立ち会いの下で行われた。

この覚書に基づき、上港集団はCMA CGMおよびコスコグループの船隊向けに、中国の主要港でグリーンメタノールの調達、販売、(船舶への)補給などのサービスを提供する計画だ。

それだけではない。海運業界の内情に詳しい人物によれば、上港集団はデンマーク海運大手のA.P. モラー・マースクとも、2023年3月にメタノール船舶燃料に関する戦略提携の覚書を取り交わしたという。


グリーンメタノールは次世代の船舶燃料の本命とされている。写真はコスコグループが建造中の大型コンテナ船の完成予想図(同社ウェブサイトより)

A.P. モラー・マースク、CMA CGMグループ、コスコグループはいずれも国際コンテナ輸送の世界的大手であり、メタノールを燃料に使う大型コンテナ船を多数建造中だ。上港集団は3社との提携をテコに、上海港をアジア地域におけるメタノール燃料の供給ハブに発展させようと目論んでいる。

シンガポールの地位を奪えるか

従来型の船舶燃料に関しては、シンガポールがアジア地域の供給ハブの役割を担っている。シンガポール海事港湾庁のデータによれば、シンガポールの2022年の船舶燃料供給量は4788万トンだった。一方、中国の商品情報サイト、金連創のデータによれば、同年の中国の保税船舶燃料供給量は約2187万トンと、シンガポールの半分未満にとどまる。


本記事は「財新」の提供記事です

中国は海運大国であると同時に(風力発電や太陽光発電などの)再生可能エネルギー大国でもあり、グリーンメタノールの生産や供給に有利な条件がそろっている。

船舶燃料の(重油から)メタノールへの転換という潮流を利用して、国際海運業界におけるクリーンエネルギー供給の中心地となることができるか、今後の展開が注目される。

(財新記者:李蓉茜)
※原文の配信は11月14日

(財新 Biz&Tech)