「おむすび権米衛」店頭の商品(写真提供:イワイ)

外食や持ち帰りでの、おにぎり購入がブームとなっている。各メディアで報道されるのは、少し高価格の店が多く、繁盛店では行列ができるほどの人気だ。

コメ消費量が減り続ける時代、家庭でも作れるおにぎりを、なぜ買うのだろうか? 

調べてみると、消費者は「イベント買い」と「普段買い」を無意識で使い分けていることがわかった。ここでいうイベント買いは、日常生活の中で“少し奮発して購入”という意味だ。

どんな思いで利用するのか。その実情を取材した。

札幌発の専門店も都内にあった

まずはイベント買いについて。メディアで報道されることが多い「おにぎりぼんご」(東京都豊島区)のような人気店は、1個300円台の中価格帯以上の商品が目立つ。

JR田町駅から徒歩数分にあるのが、「にぎりめし 田町店」(東京都港区)だ。手狭だがカウンター席でイートインもできる。北海道札幌市の本店は、24時間営業の有名店だ。


JR田町駅前の「にぎりめし 田町店」(筆者撮影)

手作業を見ながら店内で食べてみた。塩にぎり・醤油にぎりが選べ、一番人気「たらこバターの醤油にぎり」と「じゃこの塩にぎり」(税込み、各340円)を頼んだ。


「たらこバターの醤油にぎり」(左)と「じゃこの塩にぎり」(筆者撮影)

おにぎりは通常より大きく、1個320円から420円まであった。これ以外にポテトサラダや出汁巻き玉子(ともに380円)、とん汁(小は350円、大は460円)、おでん(150円〜)なども揃えている。今回はおにぎり2個で680円だった。

スタッフに聞くと「本店とメニューは同じで、テイクアウト比率が多く約7割。女性客が多いです」とのこと。1人でイートインすると、食事時間は10〜15分程度だろうか。

一般消費者は、どれぐらいなら支払うのか。筆者の取材ルートを通じて調べてみた。

・20代女性:1000〜2000円まで (1個400〜600円×3個)
・20代男性:1200円まで (1個400円×3個)
・30代女性:1000円まで (1個500円×2個)
・30代男性:1000円未満 (1個300〜500円×3〜2個)
・20代女性:800円まで (1個400円×2個)
・40代男性:800円まで (1個300〜400円×2個)
・30代男性:600円まで (1個300円×2個)
・30代女性:600円まで (1個300円×2個)
・50代男性:500円まで (1個500円のみ想定)
・20代女性:0円 (外食でもおにぎりにお金は出さない)

(注)合計金額の大きい順に記載

「イベント買いなら、思い出ありきで2000円まで出せる」人もいたが、大半は1000円未満。「おにぎりにお金を出さない」人がいたのも興味深かった。

「高くても1000円未満に抑えたい。それを超えるなら違う食事を選ぶ」という人もいた。もともと庶民的な食べ物という意識もあるのだろう。

「おむすび権米衛」は海外にも進出

普段買いの店として人気なのが「おむすび権米衛」(運営は株式会社イワイ)だ。おにぎり専門チェーンの先駆的存在で1999年に1号店を出店し、現在の国内店舗は51店。海外にはアメリカとフランスに各2店を展開している(2023年11月時点)。


JR大崎駅(東京都品川区)に直結したビルにある「おむすび権米衛」店舗(筆者撮影)

「国内51店のうち、約3分の2が店内飲食できる店です。とはいえテイクアウトとイートインの割合は9:1で圧倒的にお持ち帰りが多い。通勤途中に買われる常連のお客さまが約7割いて、平均的な購入個数は2個となっています」

イワイの鈴木直人副社長は、こう説明する。入社後は店舗勤務で店長も務めた経歴を持つ。

各店舗でおコメを炊き上げ、1つひとつを手でむすぶ「おむすび権米衛」は1個あたり約140グラムと重量はコンビニおにぎりの約1.5倍。価格も「塩むすび」100円、「おかか」130円からあり、すべての商品が100〜200円台だ。開業当初から「玄米」メニューも提供している。

毎週のように、通勤途中に駅近くの別のチェーン店に行く男性(30代)は、「朝食を食べ損ねたとき、ランチの時間が取れそうにない日に、職場で手軽に食べられるおにぎりをテイクアウトします」と話す。こうした朝食用や昼食用に買うのが一般的だろう。

「当店の人気ベスト3は、紅さけ(190円)、明太子(200円)、焼きたらこ(210円)の順です。これ以外に月替わりの期間限定商品もご支持いただいています」(鈴木副社長)

ちなみにアメリカやフランスの店でも「サーモン」(日本円で約390円)が一番人気だという。現地の料理で使う食材としての安心感もあり、味がイメージできるようだ。


「紅さけ」(奥右)と「紀州南高梅」(奥左)、手前は「ゆず香る とり塩むすび」(筆者撮影)

期間限定品でこだわる3大方針

10月24日から期間限定品として出したのが「ゆず香る とり塩むすび」(200円)だ(現在は終売)。商品説明には「鶏のうま味と塩味の炊き込みごはんにゆずの香りをプラスした、上品な炊き込みおむすび」となっていた。期間限定品はどんな方針で商品開発しているのか。

「“有機”(オーガニック)、“旬”、“郷土”の3つです。有機は創業以来のこだわりで、なるべく農薬や化学肥料を使っていない食材を使います。旬は食材のおいしい時季、郷土料理で使われる食材も踏まえながら開発します。『ゆず香る とり塩むすび』は、冬に鶏鍋を塩味で楽しむイメージを意識しました」(鈴木副社長)

今年は年明け以降「恵方巻」→「鯛めし」→「釜揚げしらす」→「桜えび天ばらむすび」→「山菜むすび」といった順に期間限定品を出してきた。11月28日からは「塩麹納豆むすび」を販売した。

「春の鯛めしは人気商品で楽しみにされているお客さまも多いです。2011年から恵方巻も出して定着しましたが、開発当初は『おむすびではなく酢飯の巻物』という中身に社内で議論がありました。具材は紅さけ、和風ツナ、日高昆布、きゅうり、玉子焼きと、おむすびで使うものを用いています」(鈴木副社長)

一般に期間限定品は春夏秋冬や多くても年8回ぐらいだが、毎月発売するのは、約7割が常連客なのも大きいだろう。ふだんは同じ具材を選ぶ人が多いそうだが、たまには違う味を選びたい、という思いにも応えている。

クリスマス時期は「パーティーセット」が売れる

店によって営業時間が異なる「おむすび権米衛」だが、通勤途中に買うのは、朝7時〜8時は40代や50代の男性客が多く、8時を過ぎると女性客が増え始めるという。全体での購入層は30代と40代がコアで男女比は4:6とやや女性が多い。

普段買いの代表例として紹介してきたが、イベント買いの需要もある。

「クリスマス時期には、プチむすび12個とお漬物が入った『おむすびパーティーセット』(1750円)がよく売れます。少し贅沢気分になる季節も大きいでしょう」(鈴木副社長)

パーティーセットは、春のお花見、夏の花火大会の時期も販売数が伸びる。やはり普段買いとイベント買いでは、支払い金額への意識も変わってくるようだ。

コロナ禍の初年度は逆風を受けて苦戦した「おむすび権米衛」だが、その後は急回復し、業績は好調だ。運営するイワイの2023年3月期の売上高は約35億7500万円(前期比18%増)となっている。

来年で25周年を迎える専門店として、最近のおにぎりブームについてどう思うのか。

「ブームとなっているのはうれしいです。おコメを食べてもらえる機会が増えますから。コメ消費量は年々減っており、朝食はパン派という家庭では、炊飯をする機会も減っています」(鈴木副社長)

農家から相場より高い価格でコメを購入

同社の経営理念には「お米の消費拡大を通じて日本の農業に貢献します」の一文もある。

もともと創業者の岩井健次社長が起業前の商社勤務時代、食料自給問題に危機感を抱き、試行錯誤の末、おにぎり専門店の事業展開を始めた。同社は生産者から60キログラムの産米を2万4000円で購入する(2023年産米の9月分の相対取引価格は平均1万5291円)。

最後に、おにぎりブームは今後どうなるかを考えた。

大半の消費者は冷静に見つめており、調査金額にも本音が表れていた。高級食パンなど、食のブームは何度もあったが、元祖ファストフードともいわれる、おにぎり人気は底堅い。品質にこだわり、消費者が納得できる価格で訴求する店は生き残っていくだろう。

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)