日本で「家不足」の問題が深刻になっています(写真:PIXTOKYO/PIXTA)

日本の総人口は減少し始めて久しい。そうなると、家は余り始め、空き家が問題になりそうなものである。空き家が多いなら、持ち家価格も家賃も下がると考えるのが一般的だろう。

しかし、実態は違う。持ち家価格は高騰し、家賃も値上げしている。そうなるのは家が足らないからである。これに早く気付かないと、残酷なまでの住宅コストの高いインフレ率に悩まされることになる。

まず、持ち家の話から始めよう。全国的にマンション価格は2013年以降の10年間で7割以上上昇した。その理由は、金融緩和に負うところが大きい。お金を刷ると銀行は持て余した資金をどこかに融資しなければ逆ザヤになってしまう。

こうした場合、担保の取れる不動産に融資することが増える。融資された資金は用地取得につぎ込まれ、事業用地の価格は高騰し、不動産はインフレする。これは金融緩和時には常に起こっていたことである。この間、建築費が上昇したことも価格高騰に拍車をかけた。

減っていく新規供給戸数

価格が上がると、新規供給戸数は減っていく。買える人が少なくなるからだ。首都圏の新築マンション供給戸数は年間9万戸だったときもあるが、今や3万戸を割る水準まで減っている。以前と比較すると、「希望の立地には買える新築マンションが出てこない」のである。

結婚すると一定期間で持ち家を購入したい世帯が増える。しかし、持ち家は高くて買えない人が増えている。そうなると賃貸居住のファミリー世帯が増えることになる。しかし、同じ面積なら、持ち家のローン返済より家賃の方が月々の支払額は多くなる。

こうなる理由は、持ち家(自宅)より賃貸(不動産投資)のローン金利と税制が雲泥の差で高いからだ。ゆえに、常に家賃の方が割高になる。同じ月の支払い額なら、おおよそ2割の面積差が生まれることになる。

住宅ローンより割高な家賃は需給バランスで決まる。上記の様に、新築マンション供給戸数が9万戸から3万戸に減ると、6万世帯も新築購入世帯が減ることになる。この中には、中古マンションを購入する人もいるだろうし、戸建てを買う人もいるだろう。とはいえ、買えない人は増えていることは確かで、国勢調査の持ち家率は最近5年で大きく低下している。

こうして増えた賃貸需要が供給を上回ることで、賃貸住宅の稼働率は上昇する。持ち家価格が高騰する→ファミリー賃貸層が増える→ファミリー家賃が高騰するというメカニズムとなる。ファミリー世帯にとっては、買うのも「価格が高い」が、借りるのも「家賃が高い」と思うことだろう。

単身世帯も家賃上昇

ファミリーだけでなく、単身世帯も家賃上昇は起こっている。最近世帯人員の減少が急ピッチで進んでおり、世帯数はこれまで以上のペースで増えている。1万人が流入して、世帯人員が2人なら、5000世帯の増加だが、世帯人員が1.8人なら5556世帯となり、556世帯増える。このように、人口はさほど増えなくても世帯人員が大きく減少すれば、世帯数はこれまで以上に増えることになる。

それが深刻な状況になっているのが、東京都区部である。世帯数の伸びはすでにコロナ前の水準まで戻り、来春は史上最高の流入が見込まれる。なぜなら、最も流入の多い23歳の新卒採用世代は大卒求人倍率に比例して増えるが、その大卒求人倍率はコロナ後で急上昇し、コロナ期間中に来られなかった溜まり需要も含めて、来年大量に流入してくるからだ。

それに加えて賃貸のストックは徐々に減っていく。毎年同じ戸数着工しているなら、築30年が建物の寿命ならストックの3.3%が、築50年なら2%がストックからなくなることになる。それだけのストックが必要なら、少なくとも30年前、50年前と同じ戸数の新規供給が必要なのだ。

こうして、新規需要は増え、ストックは減るからこそ、新規着工が一定量必要になるわけだ。その数が不充分ならば稼働率は上昇し、100%に接近していくことになる。空室という在庫が少ない状況では、需給逼迫で賃料は上昇する。今はその状況にある。

ならば、新規着工を増やせばいいじゃないかと思うかもしれないが、それがままならない環境でもある。それは建築費の高騰と工期の延長だ。人手不足倒産が最も多い建設業界では着工は増やしたくても簡単には増やせない状況にある。

良質なストック形成に寄与する政策が必要

このままいくと、数年後には賃貸住宅の稼働率が100%に接近する可能性がある。その際には、家賃がどのくらい上がるかは、過去に一度だけ実績がある。

それは、東日本大震災のときで、津波でストックの多くが失われ、家を失った需要が急増し、稼働率が100%になった。物件検索サイトには募集住戸がほぼなくなり、管理会社に直接問い合わせて待ち行列に並ばないと居住することすら難しい状況となった。この際、仙台市で上がった賃料幅は2割だった。同じことが起きたら、家賃水準の高い都心では2割では済まないだろう。

そこまで家賃が上がると、首都圏から引っ越す人が増えるかもしれないし、都会に出てくる人も減るかもしれない。住める家があるところに引っ越すニーズが顕在化し、築古ストックの建て替え延命が起きるかもしれない。

そのためにも良質なストックの形成に寄与する政策が必要と私は考えている。アパートであれば企画から半年、マンションであれば約2年経たないと竣工して人が住めるようにはならない。日本における「家不足問題」はすでに待ったなしの状況にあると思っている。


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(沖 有人 : 不動産コンサルタント)