ますます増大が予想される貨物トラック輸送の抜本的な代替策が検討されるなかで、かつて検討された「首都圏大深度地下物流トンネル」なるものが再び注目されています。都内の地下を貫く総距離約55kmのトンネル構想とは、どのようなものだったのでしょうか。

「自動物流道路」の手本になるような計画があった

 国土交通省は2023年10月31日、道路政策を話し合う有識者審議会「国土幹線道路部会」での議論を踏まえ、将来的な「高規格道路ネットワークのあり方」の中間とりまとめを公表しました。このなかで、道路空間を活用した貨物専用の「自動物流道路」を今後10年で実現していくことが重要であると記されています。


かつて調査された「首都圏大深度地下物流トンネル構想」のルート(平成21年度 首都圏大深度地下物流トンネル構想に関する調査報告書/国土交通省の審議会資料より)。

 自動物流道路は、貨物専用のインフラを作り、そこに小型の自動運転車両などを走らせ、トラックなどで運ぶ貨物の一部を転換させるための新たな陸上の物流形態を構築するというもの。その参考として、現在スイスで計画が進む総延長500kmの「地下物流トンネル」が挙げられています。スイスはこれにより、今後ますます増大が予想される大型貨物車の交通量を40%削減する見込みを立てているそうです。

 この自動物流道路の議論では、他にも外環道トンネル工事の土砂運搬用に活用されているベルトコンベアなど、様々なシステムが参考事例として検討されました。その中の一つに、2007年から2009年度にかけて調査が行われた「首都圏大深度地下物流トンネル構想」があります。

「首都圏大深度地下物流トンネル構想」は、東京臨海部、青海の中央防波堤外側コンテナふ頭と、内陸の青梅市に位置する圏央道の青梅IC付近までの約53.5kmをほぼ直線的に、地下40mより深い大深度トンネルで結ぶという壮大なものでした。

 しかも、道路ではなく「鉄道」です。自動運転による軌道輸送システムにより、国際海上コンテナを搬送するという構想でした。トンネル断面を抑えるべく、頭上に架線を張る形ではなく、地下鉄銀座線のような「第三軌条」方式による集電とし、ルート上には大井ふ頭、国立府中IC付近、立川にもコンテナの搬出入拠点を設けるとされました。

 利用料金を東京港〜青梅IC間の一般道を用いたトレーラー運送料金のマイナス20%とした場合、コンテナ流動量は1日あたり1333個、圏央道の外側で発着するコンテナがこのシステムを最大限利用するとした場合は、1日あたり5537個とまで試算されていました。この数字は単純に考えれば、道路から削減できるトレーラーの数と言い換えることもできるでしょう。

港のインフラをそのまま地下に延長?

 この調査研究は、現在の一般財団法人エンジニアリング協会内に有識者と官庁、企業からなる委員会が設置され、3年をかけて行われたものです。

 システム構築の目的は、東京港で荷揚げされた海上コンテナを、トレーラーが都市内を通過して郊外に搬出することで、首都圏の道路渋滞や環境の悪化、物流の速達性低下などに影響を及ぼす点を是正することにありました。これは当時、外環道や圏央道といった環状道路の整備が進んでいなかった状況が原因とされていました。

 また、国際海上コンテナが40フィートから45フィートへと大型化するなかで、国内の道路が45フィートに対応できる仕様になっていないことから、それにも早期に対応し、45フィートコンテナの国内流通を普及させるのも目的の一つとして明記されていました。貨物船の大型化に対応しきれない国内港湾の世界的な競争力を維持・向上させる側面もあったのです。

 整備費用は当時の額で2600億円と試算され、費用対効果も良好で、比較的実現性が高いとも記されていましたが、調査後半の2009年度に民主党政権へ交代。調査報告書でも、いわゆる「事業仕分け」で集中投資を行う対象港湾を絞りこむ声明がなされたことが明記されています。構想が実際の事業化に至らなかったのは、そうした背景もあるのかもしれません。


自動物流道路の参考とされるスイスの地下物流システムのイメージ(国土交通省の審議会資料より)。

 前出したスイスの地下物流システムは、小型の自動運転カートなどが24時間体制で荷物を運ぶシステムにより、陸上交通から貨物の一部を転換させることが目的です。これに対し、「首都圏大深度地下物流トンネル」は、海上コンテナごとまるごと運ぶシステムで、混雑する首都圏を一気にスルーし、そこからコンテナをトレーラーで各地へ運ぼうという発想。陸のインフラというだけでなく、港湾設備の延長線という見方もできるでしょう。この意欲的な構想は、今後再び顧みられることはあるのでしょうか。