外務省の元調査員、シアトルのコーヒーについて本を書いたらアマゾン全米1位…大の英語嫌いからの逆襲/女子アナ日下千帆の「私にだけ聞かせて」
岩田さん(左)と日下アナ
日本で生きていくぶんには、外国語ができなくてもまったく困ることはありませんが、もしも外国語ができたなら、これほどまで世界が広がるという体験談をお伺いしました。英語で本を執筆し、アマゾン全米ランキング1位を獲得した岩田リョウコさんです。
岩田さんは、兵庫県生まれの名古屋育ち。昔から英語が苦手だったのですが、アメリカでコーヒーのトリビア本『Coffee Gives Me Superpowers』を出版したことで人生が大きく変わったといいます。いったいなにがあったのでしょうか。
――中学生時代は、英語が大の苦手だったそうですね?
「そうなんです。英語がわからなすぎて、中学3年生までは英語のテスト中に震えがくるくらいでした。BE動詞の活用も勘で選ぶほどで、親にもバレてしまい、塾に行かされましたが、それでも “I school go” なんて言っていました」
――そんなに嫌いな英語をどのようにして克服したのですか?
「高校2年生の夏に、母が『カナダの夏は涼しくて楽しいらしいよ』と言ってきたので、友人と一緒にホームステイに行きました。それまで、英語は勉強するものという、ネガティブなイメージしかなかったのですが、このカナダ滞在により、英語は勉強するものではなく、伝えるためのツールなのだと認識が変わりました。
最初は、“Thank you.” しか話せなかったので、言いたいことも言えなかったのですが、目的が変わってからは、音楽や映画などのエンタメを通じて文化に触れながら、自然と英語を覚えるようになっていきました。すると、嫌いだった学校の英語も自然と成績が上がってきたのです」
――スイッチが入ったら、その後の上達は早かったのですね。
「はい。名古屋外国語大学を卒業した後は、ワシントン州やイリノイ州に留学し、コロラド大学の大学院を出て、現地の大学で日本語を教えるまでになりました。2009年からは、外務省の調査員としてシアトル総領事館に勤務しました」
――アメリカで本を出したきっかけは?
「シアトルにいたとき、毎朝、たくさんの人がコーヒーを買うのに行列しているのを目撃し、どうしてあんなにコーヒーが人気なのだろうか、こんなに人気なら一度くらい飲んでみようかと思ったのです。
それまで30年間、一度もコーヒーを飲んだことがなかったのですが、生まれて初めて飲んでみました。それがめちゃくちゃ美味しかったのです。
実はシアトルって、映画『トワイライト』やドラマ『ツイン・ピークス』の舞台なんですが、暗くて雨ばっかりで、どんよりしているんです。だから、コーヒーくらい飲まないとやっていられないんですよ(笑)。
それで私もコーヒーにはまってしまい、自分のためにイラスト入りでコーヒーの基本やトリビアを解説するブログ『I LOVE COFFEE』 を書き始めました。
このブロブが予想以上の反響を呼びました。一度バズると、他のニュースでも取り上げられるようになり、2カ月で月間150万PVを超えたのです。それで、2015年に書籍化が実現し、Amazon ランキング全米1位のベストセラーになりました。
ブログは英語で発信していたので、私が日本人であることを読者は知らなかったと思います。その後、韓国・中国・ロシア・台湾・日本の5カ国で出版され、今でもたまに、アメリカの口座に印税のお小遣いが入ります」
――コーヒーのトリビアとは、どのようなお話ですか?
「たとえば、日本に初めてコーヒーが入ったのは、江戸時代初期、長崎の出島からでした。しかし、当時は苦みのせいであまり受け入れられませんでした――といった豆知識です。
あるいは、コーヒーの消費量が多い国ランキングなどです。ベスト3をあげると、1位フィンランド、2位ノルウェー、3位アイスランドの順です。フィンランドの1人あたりの年間消費量は、12.2キロ。日本は3.5キロなので、3倍以上の消費量です」
――岩田さんにとって美味しいコーヒーとは?
「淹れてくれた人の思いが詰まったコーヒーを、『淹れてくれてありがとう』と思いながらいただくと、美味しく感じます」
――現在は日本で活動されているそうですが、いつ、どのようなきっかけで帰国されたのですか?
「2017年、アメリカで出版した本の日本語版が出たので、プロモーションのため、一時帰国したのです。
そのとき、たまたまサウナに行く機会がありました。そうしたら、一度でサウナのよさにはまってしまい、このまま日本にいようと決めたのです。すぐにシアトルに戻って車と家具を売り払い、12年間のアメリカ生活に終止符を打って日本に戻ってきました。
まだ日本でサウナが流行り始める前のことでした。サウナと水風呂に交互に入ると、まるで瞑想をしたかのように、細かいことはどうでもいいと思えるようになります。一度はまると、徹底的に追求するタイプなので、サウナで有名なフィンランドにも行き、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も取りました。
その後、フィンランド観光局公認のフィンランド・サウナアンバサダーに任命され、サウナの本を2冊出したのです。
フィンランドは、先にも言いましたが、コーヒー消費量も世界一なんです。フィンランドの秋から春は、寒くて暗〜い時期がずっと続くんです。そんな場所では、やはりコーヒーこそが元気になれる必需品なんです」
――興味を持つと、集中して取り組まれるのですね。すぐに海外に飛べるのは、やはり英語という武器をお持ちだからでしょうか?
「そうですね。英語に興味を持ったことで、私の人生は大きく変わりました。英語がわかると、人・国・文化を深く理解できるようになり、視野も広がって、新しい出会いにつながるのです。
英語は、私をいろいろなところへ連れていってくれました。英語は、まさに新しい扉を開くためのツールです。みなさんにも上手に使ってほしいと思います」
確かに英語ができると仕事の幅も広がりますし、友人や遊びも国際色豊かになります。それでも英語が苦手という方は、岩田さんの本『直訳やめたら英語が一気にできるようになった私の話』を読んでみてはいかがでしょう。
いずれにせよ、岩田さんのように、一度好きになったら徹底的に極めるというやり方は、プロとして活躍できる場を広げ、人生の選択肢を増やせる賢い生き方ですね。
■英語習得の心得3カ条
(1)恥ずかしいと思う気持ちを捨てましょう。外国語なのだから、間違えて当たり前です
(2)失敗を恐れない。失敗すれば学びます。できない自分を受け入れましょう
(3)わからないことは、躊躇せずに聞きましょう
日下千帆
1968年、東京都生まれ。1991年、テレビ朝日に入社。アナウンサーとして『ANNニュース』『OH!エルくらぶ』『邦子がタッチ』など報道からバラエティまで全ジャンルの番組を担当。1997年退社し、フリーアナウンサーのほか、企業・大学の研修講師として活躍。東京タクシーセンターで外国人旅客英語接遇研修を担当するほか、supercareer.jpで個人向け講座も