2023年9月6日発表・受注開始した新しいセンチュリー。価格は2500万円〜(写真:トヨタ自動車

トヨタ自動車の高級車「センチュリー」にSUVのような車種が追加されることは、以前から噂があった。

今年6月にはメーカーのトヨタ自動車自身が、「アルファード」「ヴェルファイア」の発表会のプレゼンテーションで、最後にそのシルエットをチラ見せしたことで、憶測は確信に変わった。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

しかしそれが、9月上旬に発表されるとは思わなかった。アルファード/ヴェルファイアの発表会では年内としていたからである。

車名はセンチュリー。SUVとは言っていないし、サブネームもつけていない。公式発表ではセンチュリーの新モデルであり、従来のセダンも販売が続けられる。

理由の1つは発表会で明かされたように、日本専用だったセダンとは違い、グローバル展開されるためだろう。海外市場にとってはこれが初のセンチュリーなのだから、たしかにサブネームはいらない。

これからの「センチュリーの主役」に

発表会場では、トヨタの関係者が既存の車種をセダンと呼んでいたので、今後は今回発表したボディが主役になり、セダンは脇役という位置づけになりそうだ。

とはいえ今回の新型、まったく新しいジャンルというわけではない。センチュリー同様、国家元首が乗るロールス・ロイスは、ひと足先に「カリナン」を出しているし、2500万円という価格が近い車種で言えば、ロールスと同じ英国のベントレーが送り出した「ベンテイガ」がある。


ロールス・ロイス カリナン(写真:Rolls-Royce Motor Cars)


ベントレー ベンテイガ(写真:Bentley Motors)

3台のボディサイズを紹介すると、センチュリーの全長×全幅×全高は5205mm×1990mm×1805mmで、カリナンは5340mm×2000mm×1835mm、ベンテイガはロングボディもあるが標準ボディは5125mm×2010mm×1710mmだ。

全幅は3台とも、約2mでほぼ同じ。全長と全高は「カリナン>センチュリー>ベンテイガ」という順になる。ただし、ホイールベースはセンチュリーが2950mmでもっとも短く、ベンテイガ2995mm、カリナン3295mmとなる。シルエットが違って見えるのは、この数字のためだろう。

カリナンのプラットフォームはフラッグシップセダンの「ファントム」がベースで、フロントにエンジンを縦置きし、後輪を駆動するFRパワートレインをベースに4WD化したものだ。FRベースということもあり、前輪の位置はエンジンの中心より前寄りとなっている。

ベンテイガは、アウディ「Q7」、ポルシェ「カイエン」などと共通のプラットフォームを持ち、アウディでおなじみの「縦置きエンジンの4WD」パワートレインを活用する。そのため前輪の位置は、エンジンの中心より後ろ寄りになる。


エンジン搭載位置と前輪の位置関係にレイアウトが表れている(写真:トヨタ自動車

センチュリーは、アルファード/ヴェルファイアやレクサス「RX」などと同じGA-Kプラットフォームを使う。つまり、パワートレインは横置きで、後輪は専用モーターで駆動する4WDであり、前後輪を結ぶプロペラシャフトがない。

セダンのプラットフォームを活用しなかった理由については、グローバルカーとしての環境性能を重視するために、プラグインハイブリッド車(PHEV)としたことを理由として挙げていた。


プラグインハイブリッド・パワートレイン(写真:トヨタ自動車

そんな成り立ちから、センチュリーの前輪の位置はエンジンより後ろになる。なお、レクサスRXには、すでにPHEVの「RX450h+」をラインナップしており、英国産の2台ではベンテイガにPHEVがある。

継承する「センチュリーらしさ」

プラットフォームの成り立ちについてはベンテイガに近いが、ベントレーはEWBと呼ばれるロング版を除けばドライバーズカーという位置付けであり、曲面を多用したフォルムはよりダイナミックだ。

センチュリーの直線基調のフォルムはカリナンに近いが、ディテールにはセダンから継承したものも多い。ルーフラインのピークがリアシートの頭上あたりにあること、「几帳面」と呼ばれる凝ったキャラクターラインがキャビンからリアにかけてゆったり下がっていくことなどだ。


几帳面(きちょうめん)と呼ばれるキャラクターライン(写真:トヨタ自動車

こうしたラインは、多くのSUVとは明らかに違う。リアドアがフロントより長めであることを含めて、ベンテイガはもちろんカリナンと比べても、ショーファーカーとしての位置付けを明確にしていることが伝わってくる。

それだけにキャビンへのアクセスについては、もう一歩踏み込んでほしかった。

新しいセンチュリーのタイヤサイズは225/55R20が標準で、225/55R18のセダンより明らかに大径だ。背の高いボディとのバランスを考えた結果と思われる。ちなみに、カリナンとベンテイガはさらに径が大きい。

ただし、大径タイヤを組み込んだためもあり、最低地上高は185mmとセダンの135mmより50mmも増えた。フロアも高めで、乗り降りにはステップを要する。こうした部分を指摘されて、SUVと言われるのは仕方のないことだ。


フロアは高く明確なステップを持つ(写真:トヨタ自動車

ショーファーカーにこだわるなら、英国生まれの2台も装備するエアサスペンションを用い、停車時には自動的に車高を下げるなどの仕掛けがあったり、フロア構造を工夫して「ジャパンタクシー」並みの乗降性を提供したりしても良かったのではないだろうか。

セダンと大きく違うのはフロント/リアまわりで、灯火類は前後とも上下2段になり、片側4灯ずつのランプを埋め込んだ。センチュリーならではの品格を大事にしつつ、威厳や風格を加えたとのことで、バンパーを含めてかなり力強い印象だった。


押し出しの強さを表現する4灯ヘッドライト(写真:トヨタ自動車

ショーファーカーならではの室内

インテリアでまず目が行くのは、やはりリアシートだ。センターコンソールで隔てられたセパレートであり、背もたれは休息時のために最大77度まで倒れるほか、座面チルトやオットマンなど、多彩なアレンジを実現。荷室との間に隔壁を設け、快適性を高めている点も特徴だ。


リアドアより後方にシートがあることからも、荷室より後席空間を重視していることがわかる(写真:トヨタ自動車

操作系では、セダンも装備していたフロントシート間のタワーコンソールのほか、アルファード/ヴェルファイアのそれに似た、スマートフォン風のタッチ式コントローラーも用意される。

それに比べてインパネがシンプルに見えるのも、ショーファーカーならではの仕立てで、リアシートで過ごすオーナーが煩雑に感じないことを第1に考えたためという。インストルメントパネルを水平基調として、スイッチ類はなるべく下のほうに集めたとのことだった。


インストルメントパネルはあえて主張を抑えたデザインとしている(写真:トヨタ自動車

エンブレムは彫金加工とし、塗装は色塗りと3回の水研ぎを行う4工程で、バンパーなどの樹脂部分も磨き上げを入れるなど、ディテールへのこだわりも特筆できる。このあたりは、国内以上に海外市場で評価されるのではないだろうか。

ちなみにセンチュリーという車名は、初代が豊田佐吉の生誕100周年にあたる1967年に発表されたことにちなんでいる。現行セダンがデビューしたのは2018年だから、56年間で2回しかモデルチェンジしていない。


新しいセンチュリーの発表会場に展示された初代センチュリー(写真:トヨタ自動車

それがわずか5年で新しいモデルを出してきた理由の1つに、現行セダンと同じ年にカリナンがデビューし、3年前に登場していたベンテイガにPHEVが追加されたことは無関係ではないだろう。

カリナンもベンテイガも、そこにマーケットがあるから生まれた。読みは成功しており、後者は昨年のベントレーの販売の4割以上を占めている。センチュリーをグローバルカーとして、そしてブランドとして進化させていくのに、このボディは必然だったと思っている。

(森口 将之 : モビリティジャーナリスト)