(漫画:©︎三田紀房/コルク)

記憶力や論理的思考力・説明力、抽象的な思考能力など、「頭がいい」といわれる人の特徴になるような能力というのは、先天的に決められている部分があり、後天的に獲得している能力は少ないと考える人が多いのではないでしょうか。

その考えを否定するのが、偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠氏です。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当の西岡氏は、小学校、中学校では成績が振るわず、高校入学時に東大に合格するなんて誰も思っていなかったような人が、一念発起して勉強し、偏差値を一気に上げて合格するという「リアルドラゴン桜」な実例を集めて全国いろんな学校に教育実践を行う「チームドラゴン桜」を作っています。

そこで集まった知見を基に、後天的に身につけられる「東大に合格できるくらい頭をよくするテクニック」を伝授するこの連載(毎週火曜日配信)。連載を再構成し、加筆修正を加えた新刊『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売後すぐに3万部のベストセラーとなっています。第83回はチームドラゴン桜の東大生、布施川天馬氏が「百ます計算」など子どもの基礎学力の向上に取り組む隂山英男氏に「詰め込み教育の是非」について聞きます。

丸暗記するにも理解が必要

布施川:本連載は漫画『ドラゴン桜』のワンシーンを紹介しながら、後天的に頭がよくなる方法を伝えています。そして『ドラゴン桜』の中では、詰め込み教育は肯定的なとらえられ方をしています。

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(漫画:©︎三田紀房/コルク)




(漫画:©︎三田紀房/コルク)



(漫画:©︎三田紀房/コルク)

布施川:一方で、「丸暗記では考える力はつかない」との批判が多いのもまた事実です。先生は「百ます計算を徹底的にやらせる!」とか「丸暗記するまでやる!」と、反復練習を推進していらっしゃいますが、幼児教育の時点から「考える力を養うトレーニング」は可能だと思いますか。


隂山:私としては「覚える」と「考える」を相反するものだとするほうが不思議です。そもそも丸暗記するにも、理解が必要になります。「覚える」と「考える」の間にそこまでの違いはないんです。

丸暗記しようとすると理解せざるをえませんし、知識はあるほどに考えることが可能になります。

布施川:つまり、物事を「考える」ためには、知識や理解が必要で、そのために丸暗記や反復練習が必要ということでしょうか。

隂山:そうです。『考える』こととは、蓄えられた多くの情報から、共通性や相違点について気が付くこと。ですから、そもそも知識がないと考えることができないんです。

覚えることをテストに強制されている

布施川:昨今の「丸暗記」や「反復練習」に対する批判は的外れであると?

隂山:それは少し違います。なぜ丸暗記や反復練習が悪だと言われるのかといえば、覚える能力が高められない状態で、覚えることをテストに強制されているから。効果的な暗記法を習得していない状態で勉強している場合が多いというのが問題なのではないでしょうか。

例えば、漢字の書き取りは間違った方法論がはびこっていますね。実は、同じ字を何回も書くことによって、逆にどんどん覚えられなくなるんです。

布施川:えっ、そうなんですか!?

隂山:はい。たしかに、書いて覚えることは可能ですし、方法論として完全に間違っているわけではありません。しかし、何を、どのように、どれくらい書くのかを考察してみると、書くことによって「ああ、この漢字はにんべんなんだな」と覚えようとしている人はとても少ないのです。

「100回書いて覚えるぞ!」と考えるのは、書くこと自体が目的になっていて、覚えようという意識が少なく、逆に覚えられなくなってしまうんですよね。

布施川:なるほど。「丸暗記」や「反復練習」も、効果的に実施しなければ逆効果になってしまう可能性があるんですね。

隂山:そうです。それで行くと、『ゆっくり丁寧にやってみよう』なんていう反復練習のアドバイスは完全に逆効果だといっていいと思います。

「ゆっくり丁寧」より「雑に速く」

布施川:勉強ができない子によく言いますよね。「とにかく、時間をかけてゆっくり、丁寧にやってみよう」と。でも、それも先生としてはよくないとお考えなんですね?

隂山:はい。逆効果だと思いますね。考えるときって、思考を巡らせるから、速度が大事なんですよ。頭の回転なんかも、『速い』と形容されますよね。時間をかけたって、いい考えは降ってきません。子どもの考える隙の消失にもつながりかねない。ゆっくり丁寧ではうまくいかないんです。それよりもまずは、「雑に速く」です。

布施川:雑に速く! つまり、クオリティーにこだわらずに物事を考えてもらうのですね。

隂山:そうです。字のきれいさを考えたり、丁寧に問題を考え込んだりなんてことをせずに、とにかくスピーディーに物事を考える習慣をつけさせたほうが、思考がうまくできるようになりやすいと感じます。

布施川:たしかに、東大生を取材していると、字がきれいな学生よりも字が汚い学生が多いです。あれは、思考のスピードに手が追いついていないのかもしれませんね。

隂山:「書いて覚えよう・ゆっくり丁寧に考えよう」みたいな間違った「丸暗記・反復練習」がはびこってしまっているというのはとても悲しいことです。だからこそ多くの人が本当の『丸暗記・反復練習』の効果を知らずにいる。

きちんと効果的なやり方が伝われば、多くの子どもたちにとってもプラスに必ずなるのに、そうではない方法論が跋扈していることが問題なのではないかと考えています。

速度を求めて頭にガンガン負荷をかけていく

布施川:東大進学率の高い学校を訪問すると、小テストやちょっとした問題を解くのでもかなり時間を短く設定している場合が多いですね。英語の単語テストでも、100問を3分半で解かせていたりします。

また、レスポンスの速さを求めて、授業中にも「これわかる?」「えーと」「はい、遅い!」といったやりとりをしている学校もあるくらいです。

隂山:指導としてかなり正しいと思います。速度を求めて、頭にガンガン負荷をかけていくことで、頭がよくなっていくと思います。

(布施川 天馬 : 現役東大生)