金利が上昇、アメリカの市場は不安定な状態に。強気派が再び台頭するのはいつになるのか(写真:ブルームバーグ)

アメリカの金利がグローバルな金融市場で再び主役になっている。9月下旬には10年金利が4.7%近辺まで上昇し、約16年ぶりの高水準に到達したことで、株式市場は打撃を被っている。

金利上昇については、しばしば「『良い金利上昇』と『悪い金利上昇』がある」などと区別される。前者は景気回復を伴ったもの、後者は財政不安に由来するなどとされているが、株式市場にとって金利上昇はすべて「悪」であると理解したほうがいいだろう。

それは取りも直さず、金利上昇(債券価格は下落)は株式の相対的な魅力を減じるからである。たとえ景気回復に裏付けられた金利上昇だったとしても、世界で最も安全とされるアメリカ国債を保有しているだけで現在のように約4.7%などという利回りが事実上無リスクで得られるなら、わざわざリスクをとって株式を保有・取得する必要性は薄れてしまう。

より本質的な「株価と金利の関係」とは?

一方、金融緩和が株価上昇を促す説明としては「金利低下によって企業の利払いが減り、企業業績が改善するから」「低金利で借り入れが可能になるため、設備投資が加速するから」などといったものをしばしば目にする。だが、より本質的には債券との相対価格が重要だ。

そのアメリカ金利上昇の背景にあるのが、FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ観測の後退だ。ここで9月20日に発表されたFOMC(連邦公開市場委員会)の結果を振り返っておくと、まず政策金利は市場予想通りに据え置きとなり、FF金利(誘導目標レンジ上限値、以下すべて同じ)は5.50%とされた。

また声明文や記者会見も従来から大きな変化はなく、ジェローム・パウエルFRB議長は、ひたすら「データ次第」である旨を繰り返した。もっとも、3カ月に一度公表される経済、政策金利見通しは事前の予想対比でかなりタカ派的な内容となり、筆者も驚きを禁じえなかった。

FOMC後の2026年までの政策金利見通し(ドットチャートの中央値)を確認していくと、まず2023年末は5.75%と前回から不変であった。追加利上げを支持した12人の参加者は、実際に利上げをするかは別として、インフレ再燃に備え、利上げの余地を残しておきたいと考えていたと思われる。

反対に7人の参加者は現状水準での据え置きを支持した。筆者は、次のFOMC(10月31〜11月1日)までに蓄積されるデータが現在の基調とさほど変化しなければ、先の12人のうち、数人が据え置き派に転向することで、全体として据え置き派が多数になるとみている。

たしかに、直近の原油価格上昇は不確定要素である。だが、極端な値動き(例えば指標となるWTI原油先物価格が1バレル=100ドルを突破する)にさえ発展しなければ、次回FOMCまでの約2カ月間、平均時給の増勢が鈍化する下で、FRBが重視するコア・インフレ率は緩やかに低下基調をたどると判断され、利上げ見送りを支持するだろう。

何が足元の長期金利上昇に拍車をかけたのか

今回のFOMCで驚いたのは2024年末の値だった。6月FOMCの段階では4.75%であり、2023年末の予想である5.75%から4回分(1回25bp・ベーシスポイント)の利下げが想定されていた。だが、今回は5.25%へと上方修正され、2回分の利下げとなった。

これはFRBが以前から繰り返してきた(政策金利を)高く・長く(higher for longer)据え置く姿勢そのものであり、来年前半の利下げを見込んでいた筆者を含む市場参加者に、予想の変更を迫るものであった。この部分が長期金利上昇に拍車をかけたのは明らかだ。

さらに、2025年末については4.00%と、2024年末対比で5回分の利下げが想定された。だが、それでも2.5%と推計されている中立金利(インフレを加速も減速もさせない金利水準)を明確に上回る引き締め領域であることに変わりはなく、2026年末ですら3.00%と中立金利に回帰しない形状となった。

この間、物価見通しは2023年がプラス3.3%、2024年がプラス2.5%、2025年がプラス2.2%、2026年がプラス2.0%とされ、2%に収束していく姿が示されたが、FOMC参加者が認識するリスクは上振れ方向に傾斜した状態が続いた。またGDP(国内総生産)成長率は2023年がプラス1.8%、2024年がプラス1.5%、2025〜2026年がともにプラス1.8%とされた。前回対比で見ると、2023〜2024年の成長率見通しが大幅に引き上げられたのが特徴的だった。

最後に中立金利であるが、8月にNY連銀が問題提起していたことで注目されていたものの、今回は2.5%で中央値は不変だった。

中立金利は自然利子率(景気への影響が緩和的でも引き締め的でもない、景気に中立的な実質利子率)と中長期的なインフレ率などから算出され、厳格な値は存在しない。FRBが2.5%としている理由は、一般的に自然利子率がプラス0.5%程度であり、そこに物価目標であり中長期的なインフレの平均値でもある2%程度を足したものであると理解されている。

この自然利子率については、8月にNY連銀のスタッフが「実際はもっと高い水準にあるのではないか」という議論を巻き起こし、話題となった。その疑念は、多くのFOMC参加者が案じているとみられるが、現時点でドットチャートの形状に大きな変化はみられなかった。もっとも、中立金利の平均値は2.75%へと2回連続で上方修正(3月:2.58%→6月:2.66%)されており、2.5%に疑いを持つFOMC参加者が次第に増えつつあることが垣間見える。

もし、コロナ期前後の経済構造の変化が、インフレの発火点を引き下げたのであれば、それに伴って中立金利は高くする必要がある。今後、この議論は利下げが始まる際、政策金利がどこを目指して低下していくのかを考察する時に非常に重要になることから、12月12〜13日のFOMCにおける更新も注視する必要がある。

アメリカの長期金利は低下するのか

仮に中立金利が上方修正されるようだと、短期金利の期待値(たとえば今後10年の短期金利の平均値)が上昇し、長期金利の上昇要因となる公算が大きい。こうした高金利の常態化は、金利(債券価格)と株式の相対感を踏まえると、株式市場にとって厄介な問題であろう。

それではアメリカの長期金利が低下するにはどんな条件が必要になるだろうか。もちろんそれはインフレ率の低下であるが、その実現には労働市場の正常化、具体的には労働参加率の上昇による人手不足解消を通じた賃金インフレの沈静化が必要になってくる。

幸い、8月の雇用統計では労働参加率がはっきりと上昇し、平均時給も緩やかな鈍化傾向を維持した。9月雇用統計(6日発表)以降も続けば、FRBはインフレ沈静化に自信を深め、金融引き締めの度合いを一段緩めると想定される。

そうなれば長期金利は低下に向かい、株式市場の流れは大きく好転すると期待される。反対に、金利上昇の恐怖が強い状況では、株式に慎重な姿勢が望まれる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(藤代 宏一 : 第一生命経済研究所 主席エコノミスト)