日本風力開発の創業社長だった塚脇正幸氏(写真は2008年、撮影:今井康一)

期待の再生可能エネルギー、洋上風力をめぐる不祥事の余波は続く。独立系再エネ企業「日本風力開発」の塚脇正幸氏が9月1日、社長および取締役を辞任した。

日本風力開発は、三井物産出身の塚脇氏が1999年に設立した風力業界の老舗企業。業界団体「日本風力発電協会」の代表理事を同社の副会長が務めるなど、業界での存在感が大きかった。

塚脇氏が辞任を申し出た理由を東洋経済が問い合わせたところ、同社は明らかにしなかった。ただ、塚脇氏辞任の理由は、秋本真利(まさとし)衆議院議員への贈賄疑惑にあるのは間違いないだろう。

会社側の発表と一連の報道によると、自由民主党(8月5日に離党)で再エネ政策を推進してきた秋本議員に、塚脇氏は約3000万円を渡したとされる。塚脇氏の自宅や日本風力開発の本社は、すでに東京地検特捜部の家宅捜査を受けている。もはや立件は秒読みという見方が強い。

秋田県知事は定例会見で怒り心頭

長年、塚脇氏が経営手腕を振るってきた日本風力開発の前途は多難というほかない。

「私は(洋上風力の入札から)外れてほしいです」

怒り心頭なのが、秋田県の佐竹敬久知事だ。8月21日に開かれた定例会見で、日本風力開発へのコメントを求めた記者に対し、このように返した。

さらに「日本風力開発からかは別にして」としつつ、「ベンチャー系(再エネ関連)企業からね、国会議員に相当プッシュがあったという話はあった」と述べた。

秋田県は、風力発電に適した風の吹く場所として全国でも指折りの「洋上風力立地県」だ。県は2011年に「秋田県新エネルギー産業戦略」を策定、洋上風力を産業活性化策の柱の一つと位置づけている。

秋田県の試算では、4つの洋上風力プロジェクトによる県内への経済波及効果は約3600億円、雇用創出効果は約3万5000人となる。洋上風力にかける期待はどこよりも強かった。

その甲斐もあって、洋上風力の大型プロジェクトの事業者公募では、全3海域のうち2海域が秋田県から選ばれた。その落札結果が2021年12月に公表され、圧倒的に安い売電価格で「総取り」を果たしたのが三菱商事などの企業連合だった。

入札やり直しから翻弄された約1年半

この圧倒的な落札結果を受けて、三菱商事に敗退した企業からは公募入札ルールを見直すべきだとの「物言い」が入った。その一つが日本風力開発によるものだった。

多額の賄賂を受け取った秋本議員が永田町で「物言い」の一端を担ったのではないか。それが塚脇氏や秋本議員にかけられている疑惑だ。

「物言い」の結果、すでに入札が始まっていた秋田県八峰町・能代市沖のプロジェクトはやりなおしが決定。入札ルールを見直すことが決まる。経産省と国交省による洋上風力に関する審議会で見直しについて議論が進められ、見直し案は2022年10月にまとまった。


その後、秋田県の2海域を含む合計4海域の入札が始まり、今年6月末に締め切られた。早ければ2023年内にも落札結果が公表される見通しだった。

だが、日本風力開発と秋本議員をめぐる捜査が明らかになって以降、振り出しに再び戻ろうとしている。見直された公募入札ルールの再検証や、すでに締め切られた入札のやり直しを行うべきだとの声が取りざたされているからだ。

日本の洋上風力の先行きはまったく見通せない状況だ。佐竹知事からすれば、さぞ腹立たしい状況だろう。

塚脇氏の後任は、8月から社長代行をしていた松島聡氏が務める。日本風力開発設立と同時に取締役となった古参幹部だ。「ステークホルダーの皆様からの信頼回復」のため、松島新社長による経営体制で臨む。さらに、ガバナンスや贈賄に関する事実関係などについて調査を行うべく、外部専門家による調査委員会を設置する予定としている。

8月4日時点では贈賄を全否定

ガバナンスでは、日本風力開発の主要株主である「JWDホールディングス3」の動向も気になる。登記で確認できた8月31日時点で塚脇氏は、JWDホールディングス3の代表取締役だった。2021年にベインキャピタル日本法人代表の杉本勇次氏に代わって代表取締役に就いたが、同社でも塚脇氏の辞任は避けられないだろう。

日本風力開発は2003年に東京証券取引所マザーズ市場に上場。その後、東証2部に市場変更したものの、2015年にアメリカの大手ファンド・ベインキャピタルと合同でMBO(経営陣による買収)を行い上場廃止した経緯を持つ。今後、JWDホールディングス3、ベインはどう動くのか。

もう1つの注目点は、8月4日に出した会社コメントだ。「当社が、国会議員ほか公務員に対し贈賄をした事実は一切なく、この点を立証できる客観的な証拠が数点存在しています」と、コメントしていた。

報道によればその後、塚脇氏は贈賄の容疑を認めているという。東洋経済は日本風力開発に、8月4日のコメントに関して内容に変化はないのかなどを質問したが、期日までに回答はなかった。

先述したように日本風力開発が設置する調査委員会は、事実関係の調査や再発防止策の提言を行うとしている。当初、まったくの潔白と強気の主張をしていた会社がなぜ、再発防止策の提言が必要になってしまったのか。日本風力開発の急旋回ぶりに周囲は翻弄され続けている。

(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)