台風シーズンはリフォーム業者などのセールスが増えるが、自然災害に便乗した詐欺や悪徳商法も多い(写真:buritora/PIXTA)

毎年夏から秋にかけ、日本にやってくる台風。今年も8月中旬、ちょうどお盆近くに台風6号、7号が接近し、甚大な被害をもたらした。9月入ってからも相次いで台風が発生している。 また近年の気候変動も影響してか、記録的な豪雨による水害や土砂災害など予想しない被害に遭遇するケースも少なくない。そもそも自然災害の多い日本では、大小問わず多くの地震も頻発している。

「お宅の屋根が傷んでいるようです!」

このような自然災害の後、リフォーム業者などのセールスが増える。突然訪問した業者に「台風の影響で屋根瓦が傷んでいるから修理したほうがいい」「屋根瓦が破損しているかもしれないから、無料で点検する」といわれた経験を持つ人は多いのではないだろうか。

多くの場合は自然災害に便乗した詐欺や悪徳商法であるため、戸建てにお住まいの方は注意が必要だ。

同様のご相談を受けるケースが当社、さくら事務所も増えている。例えばあるお客様は、「お宅の屋根が傷んでいるようです。確認のため、急いで点検したほうがいいですよ」と突然の訪問を受けたそうだ。

話の主は屋根の修理を手がける屋根業者で、飛び込み営業ながら語り口もソフト。すっかり信頼してしまい、「点検くらいなら……」と任せてしまったのだという。

実際に点検を実施後、業者の下した結論は瓦本体の修理ではなく、下葺き材であるルーフィングや桟木の交換を促すものだった。屋根の工事に加え、別途塗装も必要になるという。業者から400万円ほどの工事費用がかかると告げられたそうだ。

この金額は木造2階建て30坪、一般的な戸建て住宅の屋根修理費用としては大きな額といえる。当然ながら工期も1週間以上、場合によっては1カ月以上かかる内容だ。

ところが実際の工事は1日で終了。業者から工事の証拠として提示された写真(画像)は、自宅の屋根と酷似しているものの、正確にはいつどこで撮影したのかわからないようなアングルで撮影されていたそうだ。「もしかして詐欺ではないか?」と心配になったお客様が、私たちや消費生活センターに相談されたという事例である。

チャイムが鳴っても対応しない、話も聞かない

このケースで注目すべきポイントは2つある。1つ目は飛び込みや訪問など「こちらが依頼してもいないのにやってくる」業者は信用ならないという点だ。コミュニケーション能力に長け、腰の低いセールスマンが多いため、「話くらいは聞いてあげよう」と思ってしまうかもしれない。

しかし彼らもプロだ。迷っている顧客に対し懸命にアプローチするのは営業手法でもあり、セールスマンの人柄で判断するのは難しい。「チャイムが鳴っても対応しない」「ドアを開けて話を聞かない」ことを念頭に置いておこう。

もう1つは、リフォーム業者が来るタイミングである。台風や災害などに見舞われた後は、テレビなどメディアでさかんに被害が報告される。瓦が飛び、屋根が破損する映像など全国各地の被害が映し出されるのを見ていると、「そういえば最近メンテナンスもしていないし、うちは大丈夫だろうか」と考え、不安になるのは当然だ。

弱っている心につけ込んでたたみかけるやり方は、はたして健全な営業手法といえるだろうか。また営業を受ける側も、自らに焦りや不安があると認識し、すぐに決断しないような心がけが大切になる。

では、自分たちで屋根の状態を確認するにはどうしたらいいのだろうか。当社のインスペクションでは、屋根の調査は安全を期して屋根に登らず長い棒の先にカメラを設置して撮影したり、遠方から双眼鏡などで対応している。もちろん高所カメラやドローンならより詳細な様子がわかるが、少し離れれば目視でもトラブルのチェックは可能だ。

屋根の状態は目視で自己点検できる

実は屋根瓦は、剥がれなどのトラブルがあった場合は瓦の角度が変わっていたり、ずれたりするなど見た目である程度は判別できる。双眼鏡やスマートフォンのズーム機能を活用し、離れた場所から自宅の屋根を見てみるといいだろう。なるべく遠くへ離れ、自宅周辺をぐるりと周回してみよう。思いもかけない角度から屋根の様子が確認できることも少なくない。

またスマートフォンに自撮り棒・セルカ棒と呼ばれる長めのスティックを固定し、2階のバルコニーやベランダから屋根に向けて伸ばす方法もおすすめだ。一般的な陶器瓦ではなく、板状のスレート瓦、ガルバリウム鋼板など金属素材の屋根でも剥がれなどのトラブルがあれば、見た目で確認できる。

まずはできる範囲で自己点検を行うことが大切だ。その上で訪問業者から指摘を受けた場合やもう少し詳しい状態を知りたい時に、あらためて専門家に相談するのも一案だろう。


冒頭のお客様の事例に話を戻そう。消費生活センターに相談したところ、1日で工事を終えた業者が「まだ工事途中だった」と態度を翻してきたという。この後、400万円分の工事を再度手がけるとのことで、厳密に「詐欺」とは言い切れず、対応に苦慮しているという。ただ、幸いにして工事費用の支払いは行っていないそうだ。

訪問販売の場合、契約段階であればクーリングオフが利用できる。8日以内なら無条件で契約の申し込みを撤回や解除ができる制度で、訪問販売で活用可能なしくみだ。

一方で一度費用を支払ってしまうと、返還を求めるのは難しいのが現状だ。リフォーム業者や工事内容に不審な点があるのであれば、消費生活センターをはじめとする第三者機関に相談してほしい。国民生活センターのHPに消費者ホットライン(全国統一番号)188(いやや)をはじめ、各相談窓口が紹介されている。

「火災保険でお得にリフォームできる」巧みな言葉

お伝えしたケースとは別の事例となるが、実際には使えないにもかかわらず、「火災保険でお得にリフォームできる」「保険の申請代行を無料で行う」との言葉で契約を促すリフォーム業者もいるそうだ。保険の適用対象となるかどうかについても、まずは保険会社に確認することを心がけたい。

もし、保険の対象にならない劣化などのリフォームを火災保険で申請することがあったら、それは保険会社を騙す行為だ。特に高齢者世帯は狙われやすいのでより注意が必要となる。離れて暮らす高齢の家族にも突然のリフォーム業者の訪問には「対応しない」よう伝え、できれば隣近所にも一声かけておくと安心だ。

屋根は大体10〜15年に1回のスパンでメンテナンスを行うのがおおよその目安となっている。しかし台風をはじめとする強風や突風、また震度6弱以上の比較的大きな地震に見舞われた場合は、トラブルのリスクも高まる。

メンテナンス時期ではなくとも、目視などによる点検を自主的に行うことも重要になる。加えて日頃から住宅について安心して相談できる専門業者を見つけておくのも、悪徳業者から身を守る術となるだろう。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))