勉強の戦略を立てる上で大切なのは、学習の「地図」を手に入れること、そして「自分の現在地」を知ることです(写真:asaya/PIXTA)

勉強ができる人は、「自分の今の状況」と「勉強をしてどのようになりたいか」を明確に把握しています。そのうえで、必要な勉強のみを短時間で行うことに長けています。そしてこれは「地図」をイメージすることで、誰にでもマネできます。

こう語るのは、これまで2万人の社会人の勉強に成果をもたらしてきた、スタディーハッカー代表取締役の岡健作さん。岡さんの『勉強の戦略――9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する』から抜粋・編集し、社会人が最短の時間、最高の効率で勉強するための戦略をお伝えします。

「戦略」とは、成果までの“近道”である

なぜ、社会人の勉強には、戦略が必要なのか?

それはひとことで言えば「できるだけ努力をしない」ようにするためです。

テクニックを使ったからといって「魔法のように一瞬で単語が覚えられる」「覚えた内容を二度と忘れなくなる」「寝ているだけで頭がよくなる」なんてことはありません。

なぜなら、それを実行するときにはやはり、本人の行動が必要だからです。

戦略を立てずに勉強してしまうと、本当は自分にとって必要ないことにまで、余計に時間を浪費してしまう可能性があります。

たとえば、英語学習で考えてみましょう。英語の課題は人それぞれです。

「発音」に課題がある人が、ひたすら単語を覚えることは、時間の浪費です。

極端な話ですが、本当は会計士になりたいのに、なぜか秘書検定を学んでいるのと、状況は同じです。どんなに努力したって、方向性が見当はずれだったら、意味がありません。

一方で勉強ができる秀才タイプの人は、必要な勉強にちゃんとフォーカスし、ムダな時間を極力省いているので、しっかりと成果を出すことができています。

そこで、重要になってくるのが、戦略です。

戦略の「略」という字には「近道」という意味があります。つまり、戦略とはその名の通り、「目標に向かって近道をする」こと。

しっかりと戦略を立てることは、ゴールまでの最短距離を見つけておくことでもあります。

勉強を成功まで導くための「地図」

目標までの近道を知るには、まずは「地図」が必要になりますよね。

私の英語スクールでは英語習得の全体像を「登山」に見立てたマップにまとめています。


(図版:『英語の勉強地図』本文より)

このマップに即して、「英語ができるようになる」ことが目標の場合、ゴールになる頂上がまず決まります。

次に、決めたゴールから逆算していきます。英語の場合は、山のふもとから順番に、「単語・文法の基礎知識」から始まり、「リーディング・リスニング」「スピーキング・ライティング」の順番で、山を登っていきます。

一般的には、日本人が「英語ができる」ようになるまでは、この「登山ルート」をたどることになります。多くの人を見てきた経験上、いきなり山頂に行けることはめったにありません。

考えてみれば、当たり前ですよね。

基礎知識のない人が、いきなり読んだり聞いたりはできないでしょう。「単語も文法も知らないけど何故か読める」ということはありえませんね。また、読んだり聞いたりできない人が、自分では正しく文を作り出して、話したり書いたりできるということもありません。立てない人は歩けないし、歩けない人は走れない、みたいなことです。

誤解のないように補足すると、これは「基礎を完璧に仕上げてからリーディング・リスニングに取り組み、それを完璧にしてからスピーキングに取りかかる」ということではありません。

実際には「スピーキングの練習を通した語彙習得」とか、「多読を通した文法理解」はありえます。これはあくまで、ターゲットとするスキルを習得する順番だと考えてください。

一般的には、英語学習の「全体像」は先ほどの図にある要素の組み合わせということになります。

英語以外でも同じです。まずはこのような「全体像」を把握するのが大切。

できる人に話を聞いたり入門書を読んだりすることの本質は、ここにあるのです。

自分よりも多くを知っている人からは、学びたい分野の「地図」を手に入れるようにしましょう。

成果を目指すには、まず「現在地」を知ることから

次に、戦略を立てる上で大切なのは、「自分の現在地」を知ることです。

精密でわかりやすいマップを手に入れたとしても、現在地がわからなければ何の意味もありません。

今の自分が目標地点までどのくらい手前にいるのか、あるいはゴールまでのルートから外れているのか。戦略マップの場合でも、それがわからなければ、結局どこへ進めばいいのかわかりません。

普通の地図なら当たり前の話だとわかるはずです。カーナビがわかりやすいのは、地図上に常に現在地を示してくれるからですね。

ただこれが勉強となると、なぜか「とにかくひたすら歩いていれば、いずれ頂上が見えてくるだろう」と思ってしまう人が多い傾向があります。

もし山道だったら、がむしゃらに進んで、体力をムダに消費していたら遭難してしまいますよね。

幸いなことに山道と同様に、勉強では「自分が今、どこにいるのか?」をきちんと整理する方法が確立されています。

では、どうやって、現在地を見つければいいのでしょうか。

一番良いのは、マップを手に入れるときと同じで、その道に詳しい「第三者」に、自分のことを客観的に見てもらうことです。まずはいったん立ち止まる勇気を持ちましょう。

何かを身につけるという意味では、スポーツと同じです。バッティング練習をしたからといって、すぐにうまくなるわけではありません。2日間、ボールを打ちまくったからと言って、3日目から急にうまくなるわけじゃない。

自分ひとりで自主練をしていると、なかなかうまくならないので、自分が成長しているのかどうか、この練習を続けていいのか不安になります。

このような状態は、落とし穴にはまりがち。自分の状態がはっきりと認識できていなくて不安な状態になると、ついついいろんなことに手を出してしまいます。

たとえば、ネットでは「野球は、やっぱりバッティングよりも守備練習だ!」と言っている人もいる。YouTubeで自己流のバッティングの技術をものすごく熱心に解説している人もいる。すると、「やっぱりその方法を試した方が良いかな……」と心に迷いが生じます。

そこで重要になるのが、「コーチ」のような第三者の存在です。客観的にあなただけのことを見て「今はこれをすべきだよ」と言ってくれる人。コーチや先生の一番の役割はそれなのです。

一方で、「熱血コーチ」には、注意が必要です。熱血すぎて「やれることは全部やれ!」という感じだと、コーチをつける意味がありません。

コーチは、応援団ではありません。

これは、勉強にもまさに当てはまります。生徒をモチベートすることも確かに大切です。しかし、それは高いお金を払ってまで、専門家にお願いすることではない。ときどき部活にきて、差し入れなんかをくれて、励ましてくれるのはうれしいことだけれど、直接上達の役に立っているわけではありません。

ですので、教室や先生を選ぶときには「モチベーター」ではなく、きちんと知識のある「課題発見の専門家」を探しましょう。

先ほどから紹介している「地図をつくって、現在地を把握する」ということは、全体像を把握しているからこそできる技術です。できれば専門家にお願いするのが理想なのです。

ただ、ポイントを押さえれば、ある程度のところまでは、自分で戦略マップを作成できますので、ご安心ください。

勉強の最終目標を「ざっくり」決めるべき理由

自分の現在地を知った後、戦略を立てる前に考えるべきことがあります。

それは「最終目標」です。

「あなたは一体、なんのために勉強しようとしているのでしょうか」 

この答えを言葉にしておくのは、勉強の目標を立てる上での最も大切な第一歩です。

最終目標を決めるときのポイントは、あくまで「ざっくり」と決めておくことです。「いつまでにこのスキルを身につけたい」とか「収入に直結するような仕事をして、年収を○○万円上げたい」という目標では具体的すぎます。

そうではなくて、ここでは、「お金を稼いで幸せになりたい」くらいの粒度の目標でかまいません。

「1週間後までにあれをして、半年後までにこの試験に合格して……」と、初めから細かく目標を決めるタイプの人もいます。意味がないとまでは言いませんが、最初のうちから細かくゴールを設定しても、その通りにいくことはほとんどありません。

むしろ、細かい目標にとらわれすぎると、本当にほしいものを見失ってしまう危険性があります。

たとえば「資格を取りたい」という目標があるとします。その上位には「資格を活かして、収入を増やしたい」のような目標があります。そして、さらにその上位には「お金に不自由せず、ハッピーに暮らしたい」といった、ふわりとした状態の最終目標があるはずです。

下位の目標は、あくまでも上位の目標を達成するための「手段」です。

先ほどの例なら「お金に不自由せず暮らしたい」という上位の目標を達成するために、その手段となる下位の目標をおくだけ。

下位の目標しか見えなくなって、「資格を取ること」そのものが目標になってしまうことは場合によっては回り道になってしまいます。

「ゆるくて大きな目標」と「細かい目標」を決める

「なんのために勉強するのか?」「最終的にどうなりたいのか?」というゴールを見失ってはいけません。

そもそも目標がないと、戦略は立てられません。

戦略を立てるには、目標を決めて、それに対する課題を「精緻化」して、出てきた課題に一つひとつ取り組んでいくことが必要です。

ただ、あまりにも「目標そのもの」に縛られるのはまさに本末転倒。

最初に立てた目標は、未来永劫続く「絶対的なもの」ではなく、その時点で考えていた仮の状態の理想だと考えておきましょう。


途中で目標が変わることは普通のことですし、課題に取り組んでいるうちに「なんか違うな」と感じるのも当たり前です。

設定した目標を達成するために、戦略を立てることは大切です。

その一方で、最初に立てた目標だけに固執して、撤退できない状態になるのは好ましくありません。目標にこだわりすぎて「自分にはこれしかないんだ」と考えてしまうと、かえって遠回りになってしまいます。

勉強の戦略は、あくまで「最短距離」を見つけ出して、なるべくラクをすることにあります。戦略に固執して、ムダな苦労をするのでは意味がありません。

こうした事態を防ぐためにも、目標は「ゆるくて大きな目標」と「今日・明日レベルの細かい目標」の2つをしっかり決めておくといいでしょう。

その中間点となる目標は、自分の現在地を把握しながら、その都度調整するようにします。状況や環境の変化に柔軟に対応できますし、不必要に固執することなんてなくなるはずです。

(岡 健作 : スタディーハッカー代表取締役社長)