最新作「バチェラー・ジャパン」シーズン5が8月24日に配信された最終回(10話)以降、歴代トップクラスの好評価を得ている(写真:Amazonプライム・ビデオ)©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

歴代バチェラーと比べると弱いスペック

これほど低空飛行から始まったバチェラーシリーズはなかったかもしれません。最新作「バチェラー・ジャパン」シーズン5は、前回に続いて主役が関連番組の参加者という同じパターンで、しかも誰もが納得するバチェラー像とは少々離れた人選です。見始める前から「何か違う」と思わせがちでしたが、ふたを開けてみれば、8月24日の最終回(10話)の配信以降、歴代トップクラスの好評価を得ています。

では、なぜ巻き返すことができたのでしょうか。理由は大きく3つあると思います。まずその1つ目は、意味のあるマイナーチェンジを図ったことが挙げられます。

バチェラーシリーズは成功する1人の独身男性=「バチェラー」の運命のパートナーの座を巡って、数十名の女性たちが競い合う婚活リアリティー番組です。独占配信するAmazonのプライム・ビデオは、日本の動画配信サービスの中でシェアトップの会員数を持ち、ほかのサービスと比較すると手頃な価格帯という優位性があります。こうした背景を生かしながらバチェラーシリーズは認知度を上げていき、日本で最も成功している配信オリジナルのリアリティー番組の1つであることに間違いありません。

ただし、番組ファンが付いているからといって、どんな中身でも人気を保てるほど甘い時代ではなくなっています。飽きさせない工夫が求められます。今回のバチェラーはリアリティー番組の肝である人選でマイナーチェンジを試みています。


5代目バチェラーの長谷川惠一さんは、元3人制プロバスケットボール選手で、現在は健康・フィットネス関連の会社を経営する37歳。歴代バチェラーとは異色の印象を持たせる(写真:Amazonプライム・ビデオ) ©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

5代目バチェラーに選ばれた長谷川惠一さんは、元3人制プロバスケットボール選手で190センチの高身長、現在は健康・フィットネス関連の会社を経営する37歳。一般的には決して見劣りしない経歴ですが、年収や学歴、家柄といった尺度から有無を言わせぬほど成功者が並ぶ歴代のバチェラーと比べると、弱いことは明らかです。

さらに長谷川さんは公式インタビュー映像で「車は持っていない。歩くほうが好き」と語り、昔、通っていたという地元の焼鳥屋で巨大チキンとおにぎりをうれしそうに頬張る姿まで見せ、はじめから親近感の湧くバチェラーとして打ち出されています。番組内でも女性陣から「好き」と言われるたびに、「ほんと、うれしかったですね」などと素直に喜び、平凡なコメントが続きます。

シリーズ全体で最も多い「星5つ」を獲得

これまでと印象を変えるとなると、既存ファンが番組から離れるようなリスクが伴いがちです。ただでさえ、バチェラーに選ばれた理由の1つが4代目バチェラーの黄皓さんと重なります。長谷川さんは2022年7月に配信された男女逆転版の「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン2に出演し、最後の2人に選ばれながらも、あと一歩のところでファイナル・ローズを逃した参加者でした。

「バチェラー・ジャパン」シーズン5はそれでも失敗に終わらず、Amazonのカスタマーレビューでは「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン1と「バチェラー・ジャパン」シーズン1に次ぐ高評価です。現在のところ「3.6/5」の評価を得ています。さらに、シリーズ全体で「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン1と並んで最高点「星5つ」を最も多く集めています。

ちなみに3代目バチェラー・友永真也さんのシーズンは最も話題になった割にシリーズ全体でその数値は最も低く、カスタマーレビューだけで成功したかどうかは判断できないことを物語っていますが、少なくとも今回のマイナーチェンジは失敗に終わらなかったと言い切れます。

巻き返すことができた理由の2つ目は、平凡そうに見えるバチェラー長谷川さんに対して、よくできた女たちという構図がうまいこと作られていたことにあります。


約100倍の競争倍率で勝ち抜いた全16名の女性たちは今回、バチェラーのパートナーの座を巡って意外にも絆を深めていく(写真:Amazonプライム・ビデオ)©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

今回、約1700名の応募者の中から、厳正なる審査を経て16名が選ばれています。約100倍の競争倍率で勝ち抜いた女性たちはメイク講師に、社長秘書、現代美術家、飲食店経営者、ヨガインストラクター、舞台俳優、モデルなど。職業上の多彩な顔触れに限らず、よくできた女たちという印象が強かったのは、トラブルメーカーがいなかったからです。

場合によっては、あざとさやライバル心むき出しの女性がいたほうが盛り上がるものの、今回は頼りなさまで露わにしたバチェラー長谷川さんだけで十分です。癖の強い女性たちのバトルよりも、メキシコを舞台に共同生活で絆を深めた女性たちの友情劇が見どころになっています。

MCが「続きを見たくなるような小休止」として機能

刺激が足りない部分は、レギュラースタジオMCの今田耕司、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、指原莉乃らのトークが補っていたように感じます。最近のリアリティー番組は共感力を意識しすぎた無難なスタジオトークが多く、炎上防止策としては異論ありませんが、傷つけない程度の気楽なコメントがあってもよさそうです。

配信直前に行われた7月25日の番組イベントで今田が自身について「ぺらぺらな考察をしている」と話していましたが、たまに欲しいのはまさにそれ。一度振り返り、また続きを見たくなるための戦略的な小休止として機能しています。


トーク力が際立ったレギュラースタジオMC陣。左から藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、今田耕司、指原莉乃(写真:Amazonプライム・ビデオ)©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

リアリティー番組は、先がまったく読めないことが醍醐味です。今回、終盤に入ってそれが顕著に表れました。平凡なバチェラーの旅だと、高をくくりがちでしたから、不意をつかれた分、勢いづけたと思います。巻き返すことができた3つ目の理由はこれです。

(以下、ネタバレを含みますので、まだご覧になっていない方はご注意ください)

焦点が当てられた女性は2人。「オトコマエな女友達は卒業します」をキャッチフレーズに持ち、大分県出身、元建設会社広報で26歳に見えないぐらいに落ち着いた西山真央さんと、「魔性のまじめ」をうたい、三重県出身、飲食店経営者として成功している28歳の大内悠里さんです。


「オトコマエな女友達は卒業します」をキャッチフレーズに持つ、大分県出身、元建設会社広報で26歳の西山真央さん(左)は早くからローズを手にしていた(写真:Amazonプライム・ビデオ)©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

「ガチさを厭わない参加者」が評価のカギ

当初からローズを受け取り、バチェラー長谷川さんとお似合いそうに見える西山さんに対して、大内さんは元キャバ嬢であることを明かしたり、感情をつねに素直に表現したりとタイプはまったく違います。どちらを長谷川さんが選ぶのか、最後の最後まで悩んでいるのかどうかさえ、わかりそうでわかりにくく、人生最大のモテ期が来たようなバチェラー長谷川さんの高みの見物ができます。


三重県出身、飲食店経営者として成功している28歳の大内悠里は「魔性のまじめ」で勝ち進む(写真:Amazonプライム・ビデオ)©2023 Warner Bros. International Television Production Limited

最終的には恋愛モードのアクセルを上げた相手を選んだ長谷川さん。あまりの勢いから最終回は祝福ムードいっぱいで着地します。「私は大丈夫です」と選ばれなかったほうの凜とした強さまで加わって、後味までよく、全体を通した満足度が跳ね上がっていったように思います。

マイナーチェンジしたバチェラーとよくできた女たちの構図、そして終盤の勢いのすべてに共通するワードは人選です。バチェラーシリーズを手掛ける吉本興業のチーフプロデューサー村本陽介氏が以前、アジア最大級の香港フィルマート(2023年3月13日から16日)に登壇したときに「本当に真剣に参加してくれる方を選ばせてもらっている」と、リアリティー番組の成功の秘訣を語るなかで話していた言葉が印象的でした。ガチさを厭わない参加者が評価のカギを握っているように思います。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)