中国経済の不振はやはり不動産市場にありそうだ。どこまで深刻なのだろうか(写真:ブルームバーグ)

ちょっと記憶にないくらい暑い8月がやっと終わった。この夏は今年限りの異常気象なのか、それともこれが「ニューノーマル」であって、これから先、夏はこれくらい暑いのが当たり前になってしまうのか。台風や線状降水帯による被害も多かっただけに、来年以降の夏がちょっと心配である。その前に、9月も暑そうだけどねえ。

今年のアメリカの成長率は景気後退どころか上方修正へ


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他方、7月末時点と8月末時点を比べると、世界経済を見る目がずいぶん変わったような気がしている。

端的に言えば、1カ月前まではこんなにアメリカ経済がスゴいとは思っていなかったし、こんなに中国経済がヤバいとも思ってはいなかった。

論より証拠、7月25日に公表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しを振り返ってみよう。

ほんの1カ月前、IMFのエコノミストたちは日米中の経済を以下のように見ていたことになる。

(成長率) 2022年 2023年 2024年
アメリカ  2.1%  1.8%  1.0%
中国    3.0%  5.2%  4.5%
日本    1.0%  1.4%  1.0%

何しろアメリカ経済は、昨年3月以降で5%以上もの利上げを行っているのだから、年後半には景気後退局面に陥るだろう。とまあ、それは市場のコンセンサスであった。大統領選挙の日程を考えると、むしろ早めにマイナス成長に陥って、年末くらいから回復するくらいの方がいいんじゃないか、なんて見方もあったくらいだ。

ところが2023年の同国経済は、第1四半期は2.0%成長、第2四半期が2.1%成長(8月30日発表の改定値)であった。

そして第3四半期(7〜9月期)はまだ期中であるけれども、アトランタ連銀が提供している「GDP Now」を参照すると 、なんと5.6%の高成長と試算されている(8月31日公表分)。これらを足し合わせると、どう考えても2023年の同国経済が2%以下の成長で収まるとは思われない。10月にIMFの新たな予測が登場するときには、おそらくは上方修正されることになるだろう。

それでは一体、いつになったら同国経済は後退局面を迎えるのか。ひょっとすると、「ソフトランディング」どころか、このまま「ノーランディング」で突っ走ってしまうのではないか。こんなに利上げの「効き」が悪いということは、中立金利(景気に対してニュートラルな金利水準)が上昇しているのではあるまいか。

いや、それではFRB(連邦準備制度理事会)はなかなか利下げに転じてくれないから困ったことになる、などと妙な思惑まで生じるに至っている。

中国経済はリベンジ消費どころか物価が下落中

これとはまったく対照的なのが中国経済だ。去年は「ゼロコロナ政策」の結果、低成長に甘んじていたわけだから、今年は当然、良くなるはずである。政府目標の5%成長くらいは軽いだろう、と思っていたら、どうも調子が違うのである。

公式発表では、今年の中国経済は第1四半期4.5%、第2四半期6.3%成長である。ただし中国政府発表の場合、これは前年同期比であるから、去年のロックダウンの時期に比べて高く出るのは当たり前。普通の先進国の統計のように「前期比」に置き換えてみると、第1四半期は2.2%、第2四半期は0.8%と減速していることになる。

さらに驚くのは、7月のCPI(消費者物価指数)が前年比▲0.3%とマイナスに転じていることだ。おいおい、世界中で物価が上がって皆がヒイヒイ言っているときに、中国では物価が下落しているぞ。どうなってるんだ、これは。

世界中が「コロナ明け」となり、過去3年間に積み上がった家計貯蓄を使って、ここぞとばかりに「リベンジ消費」をエンジョイしている。外食やツーリズムは当然だが、エンタメ関係はとくに目覚ましい。超人気ポップ歌手、テイラー・スウィフトさんのコンサートは、チケットが最低価格4万ドルで転売されるばかりか、ホテルを満杯にして宿泊料金を吊り上げ、行く先々でインフレを招くから「スウィフトフレーション」と呼ばれているという。

「人が大勢集まっちゃダメ」という時期が続いた反動があるだけに、この勢いはしばらく止まらないだろう。どちらかといえば消費性向の低い日本人でさえ、この夏は「4年ぶりの夏祭り」や「花火大会」を楽しんでいるではないか。ところがなぜか中国では、コロナ明け後も人々は消費を手控えて地味に貯金を増やしているのである。

その謎解ときは不動産市場にあり。中国の1級都市、つまり北京や上海ではなおも住宅価格は上がっている。2級都市(重慶など)ではおおむね横ばいである。問題は3級都市と呼ばれるその他の地方都市だ。この「その他大勢」の住宅価格が盛大に下げている。

中国における不動産は、家計が保有する最大の財産である。GDPに占める不動産業のウェイトは12%と言われるが、波及効果を加えると25%にもなるという。

そして中国では、初めて住宅を取得する平均年齢が27歳と言われている。日本では40歳前後であるから、タイミングが極めて早いのだ。これは「男が家を用意しないと、嫁が来てくれない」から。なにしろ今の中国の20代人口は、男性が9100万人で女性が7900万人。「あぶれる」男が出ることは確実な情勢で、年頃の男の子がいると、親族郎党が寄ってたかって家を買わせてしまうのだそうだ。

もっともすでに人口減少が始まっている中国においては、27歳人口も今後は減り続けることになるから、不動産業の未来はもともと明るくはないのである。

恒大集団が債務不履行になっても、銀行経営は揺るがず

この問題がいかにややこしいか、例の恒大集団の内情から説明するのがよさそうだ。8月28日付の日本経済新聞に、「中国恒大、22兆円の開発用地が重荷 債務超過拡大も」という記事がある。ここに今年6月末時点の恒大集団のバランスシートが掲載されていて、その中身がまことに興味深いのだ。

恒大集団は総資産が1兆7440億元で、総負債は2兆3882億元。締めて6442億元の債務超過であり、普通の企業ならばこの時点でゲームセットである。1元=20円なので、総資産が34兆円で総負債が48兆円、バランスシートに14兆円の穴が空いている!と考えるとわかりやすいだろう。

それでは総負債の内訳はどうなっているのか。借入金は6247億元だから、せいぜい13兆円程度である。この程度であれば、恒大集団がデフォルト(債務不履行)したとしても、中国4大銀行(すべて国有銀行)の経営が揺らぐことはあるまい。

福本智之大阪経済大学教授によれば、中国は1990年代の日本における不動産バブル崩壊の過程を研究していて、「住宅価格の下落が不良債権問題を通じて金融不安を招く」怖さをよく理解している。だから不動産デベロッパーも、銀行からの借り入れは少ない。それは結構なことである。

だったらどこから金を借りているのか。まず、未払い金が1兆0565億元もある。これすなわち20兆円である。つまり恒大集団から、金を払ってもらえないカスタマー(たぶん建設会社や製鉄会社や運送会社など)が存在していることになる。普通だったら、果てしない連鎖倒産を生みかねない規模である。

ところが、である。おそらくは恒大集団に対して売掛金を立てている企業群は、ほとんどが国有企業であって、たぶん党本部から「余計なことするな」というお達しが出ているのであろう。ゾンビ企業を助けるために、周囲も一緒にゾンビになる、という恐怖のメカニズムである。これが20兆円規模だというから恐れ入る。

もっと罪深いのは、6039億元の「契約負債」があるということだ。この正体は何かといえば、中国では家が完成する前に3割程度の手付金を払うことになっている。ところが恒大集団に仕事を発注した消費者の多くは、金は払ったけれども家はできていない。それが12兆円規模、と考えるといかにも恐ろしい。

いくら中国が民主主義国家ではないとはいえ、さすがにこの問題をスルーするわけにはいかないだろう。ちゃんと家を完成させて買い主に引き渡すか、あるいはお金を返すべきである。とはいえ、そんなややこしい話が簡単に進むはずがない。

バブル崩壊の被害を企業と個人がもろにかぶるのが中国

どうも中国経済は、「金融システムに累が及ばないように」制度設計したのはいいけれども、バブル崩壊の被害を企業と個人がもろにかぶるようになっているのではないか。いくら日本の経験に学んでいても、バブル崩壊はやっぱり容易なことではないのである。

普通の資本主義経済とは違い、中国の場合は政府が不動産供給を絞ることができる。財政的な余力もあるので、いざとなれば打つ手はある。とはいえ、もともと「共同富裕」を掲げる習近平政権が、「住宅は住むものであって投機対象ではない」とバブルつぶしを始めたのが発端だったという経緯もあり、対応はついつい後手に回っているように見える。

ともあれ、「スゴすぎ」アメリカ経済と「ヤバすぎ」中国経済のコントラストは、秋以降の日本経済にも確実に影響してくるだろう。引き続き注視していこう(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先は競馬コーナーだ。いよいよ夏競馬もオーラスを迎える。新潟競馬場の長い直線も、しばしの見納めということになる。

9月3日に行われる新潟記念(第11レース、芝2000メートル、ハンデ競争、G3)では、4歳馬のサリエラと3歳馬のノッキングポイントが人気になっている。

新潟記念は7歳馬のマイネルウィルトス本命

しかし筆者が狙っているのは、7歳馬のマイネルウィルトスだ。長期休養明けの函館記念で、4着に入って地力を見せた。勝てば重賞初制覇だし、「サマー2000シリーズ」の優勝も転がり込んでくる。ここはひとつ、見せ場を作ってほしい。

鞍上はミルコ・デムーロ騎手。なんと新潟記念では、過去10年で1着2回、2着3回と好成績を収めている。新潟競馬場は実はコーナーがキツイ。しばしば大外枠の馬がコーナーリングを利かせて勝利するが、これを得意としているのがデムーロ騎手というわけ。

対抗にはプラダリア、穴馬にイクスプロージョン。とっても暑かった今年の夏競馬、これで有終の美をりたいものである。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)