ストライキによる臨時休業となった池袋西武を背に、デモ行進を行ったそごう・西武労組(記者撮影)

厳しい残暑となった8月31日、東京・池袋駅の周辺は異様な空気に包まれていた。池袋駅東口のシンボルと言える西武池袋本店(池袋西武)が同日ストライキを実施、全館臨時閉館となっていた。

開店時間である午前10時を過ぎても、店のシャッターは下りたまま。店の前はストライキの様子を気にする見物客やマスコミで混雑し、事情を知らない通行人が困惑する様子も見られた。

セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下の百貨店、そごう・西武の労働組合は31日、予告通知していた池袋西武でのストを決行した。前日30日には池袋西武で働く組合員約900人に対し、同店の終日閉館に伴う自宅待機などを要請。31日のスト当日は、うち約300人がデモ行進やビラ配りなどに参加した。

「池袋スト」と「セブン取締役会」が同時進行

午前11時、池袋サンシャインシティの裏側にある東池袋中央公園に、デモ行進に参加するそごう・西武の組合員が集合した。


デモ出発地の東池袋中央公園に集合した組合員(記者撮影)

そごう・西武労組の寺岡泰博委員長は報道陣に向け、「取締役会での決議と株式譲渡契約書への捺印が終わるまでは、各ステークホルダーや消費者の皆様にわれわれの思いを伝えていきたい。そしてこの思いが何とかして(セブン&アイ)HDの経営陣にも届いてほしいということで、これからデモを始めます」と宣言した。

午前11時半ごろからデモ行進が開始。「西武池袋本店を守ろう」「池袋の地に百貨店を残そう」などと唱和しながら池袋駅周辺を行進した。

デモ隊は東池袋中央公園を出発し、六ツ又交差点を左折して明治通りを進んで行った。デモ行進ルートの都合上、池袋西武の目の前を通過することはなかった。だが東口五差路交差点で後方に池袋西武が見えると、臨時休業となっている池袋西武を振り返って見つめる組合員もいた。


池袋東口周辺をデモ行進(記者撮影)


臨時休業中の池袋西武の前で横断幕を掲げた(記者撮影)

デモ行進と並行し、池袋西武前ではビラ配りや横断幕の掲出などが行われていた。組合員らは「臨時休業でご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません」などと呼びかけつつ、そごう・西武の現状を街行く人々に訴えた。

足を止める通行人も多く、ストライキの様子を見ていた60代女性は「池袋西武を応援する気持ちで来た。臨時休業は決して迷惑ではない。ぜひ百貨店として存続してほしい」とエールを送った。

一方、東京・千代田区二番町。31日午前9時からセブン&アイHD本社で臨時取締役会が開かれた。そごう・西武の売却が最終局面を迎える中、翌9月1日にアメリカの投資ファンドであるフォートレスに売却することが決議された。

そごう・西武の雇用は「まだ不透明」

9月1日、セブン&アイHDはそごう・西武の売却を完了したと発表した。セブン&アイHDは当初、そごう・西武の企業価値を2500億円としていたが、8月31日のリリースでは「そごう・西武の『事業の継続』及び『雇用の継続』に最大限配慮したリニューアルプランについてフォートレスに要請した結果、そごう・西武の企業価値について300億円の減額を行い」(セブン&アイHD)と触れ、最終的な企業価値は2200億円となった。

また、セブン&アイHDがそごう・西武に貸し付けていた約1659億円の貸付金のうち、約916億円は放棄することも明らかにした。その他、グループ会社の有利子負債や運転資金の調整などのうえ、そごう・西武の実質的な譲渡価額を8500万円と見込んでいる。

そごう・西武を買収したフォートレスも31日にリリースを公表。家電量販大手ヨドバシカメラを傘下に持つヨドバシホールディングスと連携し、そごう・西武の複数店舗にヨドバシカメラ新規出店の誘致を検討していることや、渦中の池袋西武には200億円以上を投じて改装や設備投資を行っていくことを強調した。


池袋西武は池袋駅東口のシンボルとして、長年多くの利用客に愛されてきた(記者撮影)

そごう・西武労組側は、セブン&アイHDの決議およびスト実行の意義をどう受け止めているのか。

デモ行進を終えたそごう・西武労組の寺岡委員長は、「交渉を通じて労組は(そごう・西武売却の)契約日変更を訴え続けてきた。ストは労組の“最後の武器”で、それを行ってもなお何も変わらなかったという事実はある。だが、そごう・西武のお客様や取引先、世間に訴えかけることの意義はあったと強く感じている。やれるだけやった」と、東洋経済の取材に対して語った。

池袋西武の事業計画を不安視

しかし妥結前にセブン&アイHDが売却を決議したことで、そごう・西武従業員の雇用問題は宙に浮いたままだ。

寺岡氏は「直近行われたセブン&アイHDとの団体交渉で、そごう・西武の雇用について今後数年間のシミュレーションを見せてもらった。だが、そもそも池袋西武が事業計画通りになるかまだわからないため、シミュレーションだけで雇用が守られると判断するのは難しい」と問題視する。

大手百貨店では約60年ぶりとなるストライキにまで発展した、そごう・西武の売却問題。9月1日以降は、新たに親会社となったフォートレスと労使交渉を行うことになる。池袋西武の大改装はどう進むのか、不安を抱えながら従業員は店頭に立ち続ける。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)