ローソンで大ヒット中の韓国コスメ「アンドバイロムアンド(&nd by rom&nd)」。若年層の獲得を狙った戦略が当たった(撮影:尾形文繁)

わずか3日間で2カ月分の在庫30万個が売り切れ――。3月31日にローソン限定で販売された、韓国コスメ「ロムアンド(rom&nd)」の新ブランド「アンドバイロムアンド(&nd by rom&nd)」。7月中旬頃に再入荷してからも口コミを中心にファンは増え続け、リピートと新規購入客ともに人気を集めている。まさに異例の大ヒットとなっている。

&nd by rom&ndは、ロムアンドとローソンとの共同開発品。商品展開を担当したローソンの浅岡陽子氏は「想定を大幅に上回る売れ行きで、増産対応を進めてきた」と嬉しい悲鳴を上げる。

ロムアンドは、韓国で活躍する美容クリエイターのミン・セロム氏とアイファミリーSC(iFamilySC)社が、2016年に協同で立ち上げたブランド。大手ブランドでもない韓国コスメを、全国のローソン約1万4000店舗に一斉展開する決断は、かなり思い切った試みだ。

Z世代を開拓したい

浅岡氏は「(ロムアンドは)Z世代に人気のブランドとして口コミサイトなどでもランキング上位にあり、トレンドに合わせた継続的な商品展開にも魅力を感じた。すでにバラエティショップなどでの実績があることも後押しになった」と語る。

資生堂のメイクブランド「インテグレート」など、今までもローソンは化粧品を展開していたが、30〜50代の客層が中心だった。若年層向けブランドを導入することで、新たな来店客の開拓を狙った。700円前後と比較的安価かつ少量であることから「色々な種類の化粧品を試したい」という若者のニーズと、コンビニで買えるという手軽さがピッタリはまった。

ロムアンドに限らず、ティルティルやミシャといった韓国コスメの知名度は年々高まっている。日本化粧品工業会によると、2017年に約200億円だった韓国から日本への化粧品の輸出額は、2021年には600億円を超えた。アメリカや中国を抑え、フランスに並ぶトップ輸入元となっている。

メイクはスキンケアと違い、トレンドの移り変わりが早い"ファストコスメ”だ。特徴的な発色や形状など、目新しいメイク商品が次々と発売されている。韓国コスメはSNSでの話題づくりなどマーケティングにも強く、著名人などを起用しながら幅広くファンを増やしてきた。

このトレンドを嗅ぎ付けたドラッグストアも、取り扱いを増やし始めている。低価格帯のセルフメイク市場において存在感は高まっている。

韓国コスメの躍進に欠かせないのが、メーカーを生産面で支える”黒子"の存在だ。ロムアンド含む多くの化粧品会社は、OEM・ODM(設計・製造受託)を活用している。韓国最大のOEM・ODM企業であるコスマックスは、2022年度の売上高が約2500億円。中国やアメリカでも受注を増やし、ロレアルなどの欧州企業や、マンダムなど日系大手とも取引実績がある。

同業の日本最大手は日本コルマーだが、国内外で取引があるものの、コスマックスには売上高で4倍以上の差をつけられている。

コスマックスは、5番目の海外法人となる日本法人を2021年12月に設立。2025年に茨城県の新工場が稼働予定だ。韓国コスメの巨大製造元が日本へ本格進出することになり、業界内では緊張感が高まっている。

トレンドに敏感な通販企業へアプローチ

コスマックスの日本上陸に期待を寄せるのが、国内に数多く存在する化粧品のファブレスメーカーだ。


コスマックスジャパンの魚在善社長は化粧品会社出身。マーケティングや卸会社など人脈は広い(記者撮影)

日本の中小化粧品メーカーの多くは自社工場を持たず、製造をOEMに委託することで商品企画やマーケティングに特化している。コスマックスジャパンの魚在善社長は「トレンド商品をスピーディーに展開したいメーカーは、(日本の)既存OEMに限界を感じている。われわれが商談に行くと『待ってました』と喜ばれた」と語る。

取引相手として期待を寄せるのが、売上高100億円前後の通販系企業という。新商品の開発に積極的で、広告運用のノウハウを武器にEC上で規模を拡大させていく気概が強い。今後は日本の化粧品メーカーも、韓国コスメの得意分野を積極的に取り込むようになるかもしれない。

世界で820人の研究員を持つコスマックスは、処方(製造のレシピ)の独自性を強みとする。蓄積してきたノウハウを生かし、受託から納品までの期間を他社の半分以下まで短縮することも可能。通常、化粧品製造のリードタイムは半年程度とされるが、コスマックスは冒頭のロムアンドの新ブランドを3カ月程度で納入した。これは業界内では異例の早さだ。

魚社長は「韓国コスメが海外で売れた理由は、革新的な商品を世の中に素早く広めたから。信頼感に優れたメイドインジャパンの品質に、こうした武器が加われば、国内外問わず強い波及力がある」とみる。K(韓国)コスメは日本や中国でブームを起こしているが、日本メーカーと取引を増やすことで「J(日本)ブーム」を世界で起こしたいと力を込める。

背景には、海外取引先からの「メイドインジャパン」への根強い需要がある。中国企業の中には「メイドインジャパン」を、ローカルブランドとの差別化要素に掲げるブランドがある。今後、日系メーカーが海外展開する際は、こうした会社もライバルになるかもしれない。

EC支援まで踏み込む

コスマックスは製造受託にとどまらず、取引先の販路開拓からマーケティング支援まで一貫してサポートする方針も打ち出している。ECサイトの開発企業やマーケティング会社との連携を想定し、化粧品メーカーのEC展開を後押しする準備を進めている。

EC販売が軌道化すれば、小売店にも展開しやすくなる。高価格帯シャンプー「ボタニスト」のI-neや、クレンジングバーム「デュオ」のプレミアアンチエイジングは、ECの実績が評価されたことで小売店での取り扱いが広がった。

海外企業からも日本市場での流通支援のニーズは強い。特に中国では日本の小売店で流通していることが実績として評価される傾向にあり、それが中国人の購買動向にも影響を与える。訪日中国人客が増加することを見据え、日本の小売店で配荷を進めたいと考える中国企業は数多い。

2025年の新工場稼働に向けて、積極的に商談を増やしているコスマックス。&nd by rom&ndに続く、スマッシュヒットが出てくるのか。日本の化粧品メーカーにとってチャンスにも脅威にもなる巨大な“黒子”の上陸が、大きな刺激になることは間違いない。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)