子どもの語彙力や表現力が乏しい結果、意図せずに周囲を傷つけてしまったり、誤解を招いてしまうこともあるようです(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)

「ヤバい」「ウザい」「ガチで」「キモい」……子どもたちと接していて、語彙力の低下を感じたことのある人は少なくないでしょう。語彙力や表現力が乏しい結果、意図せずに周囲を傷つけてしまったり、誤解を招いてしまうこともあるようです。

この記事では『マンガで笑って、言葉の達人! 超こども言いかえ図鑑』著者の一人である小川晶子氏が、調査結果から見える子どもの語彙力・表現力の現状を分析しつつ、「言葉を選ぶ力」の大切さについて語ります。

うちの子の語彙力が心配!

「うちの子、何でもヤバいヤバいと言っていて、語彙力がないんです」

子どもの語彙力・表現力を心配する声をよく聞きます。

「ヤバい」は、もともとは危険なこと、不都合なことを指して言う俗語でしたが、いまは「面白い」も「うれしい」も「かっこいい」も何でも表現できる便利な言葉ですね。便利だから多用しがちですが、こればかりになってしまうと当然ながら語彙力や表現力は広がりません。

語彙力が低いと何が問題なのでしょうか。私は教育現場での取材や、教育に携わる人への取材をすることがありますが、語彙力の低さがトラブルにつながるという話は何度も聞きました。自分の気持ちをうまく伝えられず、意図せず過激な言葉を使って誤解されるなど、コミュニケーションに問題が起こりやすくなります。

言葉は思考の前提でもあり、コミュニケーションのツールですから、手持ちの言葉が少ないほど困難を抱えるというのは想像に難くありません。学力の問題以前に、生きづらさにもつながる深刻な問題です。

今回、小中学生の保護者500名に「子どもの気になる言葉」についてアンケート調査をしたところ、たくさんの具体的エピソードやお子さんを心配する切実な想いが集まりました。まずは生のコメントを紹介しましょう。

気になる理由やエピソードについて、保護者の心配する声

1位「ヤバい」に関するコメント

・たいしてヤバくもない、ちょっとした出来事でも「やっば!」と言いがちなので、塾の先生に「ヤバいは禁止」と注意されています。(小3女子 千葉)

・うれしい時も、切羽詰まった時も、やばいと連呼しているのを見て、自分の気持ちを言葉にする技術や技能が育たないのではと心配になる。(中1男子 静岡)

2位「ウザい」に関するコメント

・最近子どもたちの間で流行になっているそうですが、「ウザい」と言われたら大人であっても非常に気分が悪くなります。(小1女子 兵庫)

・娘がスマホでクラスメイトたちと会話しているのを聞いていると、ことあるごとに「ウザい」「ウザっ」と連呼している。特定のクラスメイトに向けた言葉のようで「笑える」という言葉の代わりに使っているようだけど、相手を傷つける言葉だよって、電話を切った娘に言ったら「ウザい」って言われた。(中1女子 茨城)

3位「キモい」「きしょい」に関するコメント

・口癖のように「キモい」と言うので気になっています。とくに女の子の友達との会話中にも連発するので、言葉に悪意がないとしても傷つけている可能性があるので心配です。(小2男子 沖縄)

・塾の先生に、対面で叱られたときに「マジでキモい」と言ったらしくてびっくりしました。きれいな言葉が使える子に育てたつもりなのでショックでした。(小5女子 東京)

5位以下へのコメント

・気に食わないことがあると、すぐ「死ね」と言う。語彙が少なく、だいたい最後は死ねになってしまうため、がっかりする。(小4男子 長野)

・歌の影響か、小言を言うと「うっせーわ」と強い口調で言うようになり、注意するとみんな言っているもんというのが気になります。(小5女子 埼玉)

・返事をすべて「それな」で返していたことがあり、やめさせました。(小6男子 大阪)

・息子がひろゆきさんの真似をして、こちらが真面目に怒っていても「それってあなたの感想ですよね?」と言ってくるのでたまに本気で頭にくる。(小4男子 埼玉)

・道徳の授業参観で、娘と同じクラスの女の子がある物語について先生から「この時の主人公の気持ちは」と問われ、「やったーマジ神!」と言っていたのを聞いて、なんだか拒否感を覚えました。(小5女子 千葉)

コメントを見て、いかがだったでしょうか。


(小中学生「子どもの気になる言葉」トップ10)

子どもの言葉遣いや若者特有の言葉が気になるというのは、いつの時代もあることですが、心配になるのはやはり「語彙が少なく、自分の感情をきちんと言語化できないこと」「意図せず人を傷つける言葉を言ってしまうこと」でしょう。

自分の感情に無頓着なので、周囲の感情にも無頓着

ある児童養護施設の指導員の方から聞いた話です。

小学4年生のAくんは、数名の男子と一緒に遊びながらイライラしている様子でした。Aくんのイライラが伝わって、一緒にふざけ合っていた友だちもイライラし始めました。「なんだよ」と小突いたり、壁を蹴ったりするのです。放っておけば大きなケンカになりそうな雰囲気です。

様子を見ていた指導員の方は、Aくんに「イライラしているみたいだけど、何かあった?」と聞きました。Aくんの答えは「ウザいから」。それしか言いません。諦めず丁寧に聞いていくと、真相はこうでした。

明日は学校の遠足があり、楽しみでたまらない。早く行きたい。そのソワソワした気持ちをどう表現していいかわからず「ウザい」と言っていたのです。

「それはウザいではなく、楽しみでソワソワしているということだと思うよ」

そう伝えるとAくんは落ち着いたそうです。

「今の子どもたちは本当に語彙が乏しく、感情が未分化だと感じます。テンションが上がれば『ヤバイ』、下がれば『ウザい』。自分の感情に無頓着なので、もちろん相手や周囲の感情にも無頓着です」

指導員の方はそんなふうに語っていました。

このケースでは、よく観察して言葉を引き出してくれる大人が近くにいたから大きなトラブルにはなりませんでした。

しかし、子どもたち同士では簡単にトラブルになります。大きなケンカになって、「どうしてケンカになったの?」とあとから聞いてもよくわからないことが多いのです。

「なぜ殴ったの?」

「Aがウザいって言ったから」

「じゃあ、Aくんはなぜウザいって言ったの?」

「ウザいから」

「何がウザいの?」

「……。とにかくウザいって思ったから」

これではまったくわかりません。本人たちもよくわかっていないのです。「ウザい」が、まさか遠足が楽しみなソワソワした気持ちだとは気づかないでしょう。

中学1年生のB子さんは、クラス内で仲間外れにされ、不登校になってしまいました。

仲間外れにされたきっかけは、B子さんが「キモい」という言葉をよく使っていたからです。B子さんにとっては、否定的な反応=「キモい」でした。

「前髪切りすぎちゃった、最悪」「あはは、キモ」

「来年マラソン大会あるらしいよ」「キモい」

という感じで、何でも「キモい」が当たり前でした。お母さんは心配して「キモいって傷つく言葉だからやめなさい」と何度か注意したそうです。でも、小学校ではB子さんのキャラクターとして定着しており、何も問題はなかったので本人は直そうと思わなかったのでしょう。

中学校に入ってクラスの大半が知らない子になると、B子さんの「キモい」は受け入れられなかったようです。「あいつすぐキモっていうからウザい」と言われて無視されるようになり、それがショックで学校へ行けなくなってしまったのでした。

B子さんは「キモい」という言葉が人を傷つけたり、不快にさせるということに無頓着でした。これはそういう言葉を使った本人が不登校になってしまった事例ですが、もちろん逆の例もあります。軽い気持ちで言った「キモい」「ウザい」「死ね」などの言葉が相手を深く傷つけ、相手が学校に来なくなってしまったという例です。そして相手から「いじめられた」と言われ、驚く子も多いと聞きます。「そんなつもりはなかった」のです。

このように、特定のコミュニティー内ではセーフでも、新たな人間関係の中ではアウトになることはよくあります。うまく使い分けられればいいのですが、語彙が少なければ使い分けもままなりません。

大事なのは言葉を選ぶ力

「ヤバい」「ウザい」などの言葉自体が悪いわけではないでしょう。便利で言いやすいので、大人も使うことがあると思います。むしろ、大人が使っているのを見て子どもたちがマネしている面もあるのではないでしょうか。今回の調査では「ユーチューバーの言葉をマネしている」というコメントが複数見られました。

ある程度良識のある大人なら、使っていい場とそうでない場とで言葉をちゃんと使い分けているはずですが、子どもにはそれがわかりません。問題は、子どもたちが「時と場合を選ばずに、何でもこの言葉ですませてしまう」という点です。調査結果にも、事例にもそれがよく表れていると思います。

大事なのは、言葉を選ぶ力です。

いやな感じがしたから「ウザい」と言いたいけれど、もっと相手に伝わる表現を探す。仲良しグループでは「キモい」と言い合っても大丈夫だけれど、それ以外の場所では考えて言葉を選ぶ。友だちには「ワンチャン」と言うのが面白いけれど、親や祖父母の世代には違う言葉で伝える。そんなことができるのが、語彙力のある子と言えます。

逆に、言葉を選べない子が、コミュニケーションにトラブルを抱えがちです。自分の気持ちに自分で気づくことが難しかったり、誤解されやすい表現を使ってしまったりして、精神的に追い詰められることがあります。

言葉を知っていれば、「言いかえ」ができる

言葉を選べるようになるためには、当然ですが言葉を知っていなければなりません。

たとえば「キモい」。他にどういう表現があるでしょうか。


拙著『超こども言いかえ図鑑』の中には、こんなシーンがあります。学芸会に向けて、劇の練習をしている小学5年生の登場人物たち。「特殊メイクで魔女役をやるぜ!」と、顔にいろいろ塗りたくったヤバオくんに対し、マジカさんが「キモいって!」と言います。

デキルくんは「ちょ、ちょっとグロテスクじゃないかな?」

式部さんは「うっ、おどろおどろしいですわね」

1つのシーンに対し、いろいろな言い方をするキャラクターたちが出てきます。

ほかにも、「おぞましい」「不気味」「ぞっとする」などの言い換え表現があります。

いま言おうとした「キモい」は、どういうキモさなのか。さまざまな表現を知っていれば、ちょうど良い言葉を使うことができるようになるでしょう。

子どもたちには、さまざまな言葉を知って「言葉を選ぶ力」をつけていってほしいと思います。

調査期間:2023年6月23日〜6月27日
調査方法:インターネット調査
調査対象:小中学生の保護者500名
有効回答数:小学生370、中学生135
*きょうだいがいるため回答数は500を超える
形式:自由記述式、複数回答あり
調査主体:『超こども言い換え図鑑』編集部

(小川 晶子 : ブックライター、絵本講師)