9月以降、日経平均が本格上昇するためのカギは何か。今は11月に向けて流れを見極めるときかもしれない(昨年の米中首脳会談、写真:AP/アフロ)

世界の市場関係者が注目していた、カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール経済政策シンポジウム(Jackson Hole Economic Policy Symposium)、通称「ジャクソンホール会議」(8月24〜26日)が終わった。

「従来どおりの発言」に終始したパウエル議長

同会議での主な焦点は2つだった。昨年の同会議ではFRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長が「経済を犠牲にしてもインフレ対応の必要がある」と発言。その結果、株式市場は大きく下落した。市場は「今年も議長はタカ派的な発言をするのではないか」との警戒感を抱いていた。

もうひとつの焦点は中立金利(自然利子率)の議論だ。今年は会議前に政策金利の目安とされる中立金利の上昇の可能性が取りざたされており、これがもし上昇となれば、金融政策の引き締めも想定された。

だが、講演の結果は、昨年のようなタカ派姿勢は見られず、中立金利の議論も回避された。パウエル議長は講演の冒頭、「インフレ率は、ピークからは下がっているものの、なお高すぎる。適切と判断すれば追加利上げに動く用意がある」と指摘した。また「インフレ目標に向かって持続的に低下していると確信できるまで、景気抑制的な水準に政策金利を据え置く」との考えを示したが、終始タカ派寄りというわけではなかった。

また中立金利に関しても、「中立金利を確実に特定することはできないため、金融政策抑制の正確なレベルについてはつねに不確実性が存在する」「私たちは曇り空の下、星を頼りに航海している」と、中立金利の議論については議論を避けた。

結局、今年の会議では、FRBがこれまでどおり「データ次第」の金融政策運営をすることがメッセージとなった。8月25日の日経平均株価はリスク回避から同日のパウエル議長講演前に3万1624円と前日比662円も下落したものの、イベントの無事通過で週明けの28日は一転買い戻し。同株価は前営業日比545円高の3万2169円と大きく値を戻した。

では、今後のマーケット関係者の注目点は何か。パウエル議長は「データ次第」としているので、まず9月1日に発表される同国の雇用統計、13日のCPI(消費者物価指数)、19〜20日のFOMC(連邦公開市場委員会)となりそうだ。  

こうした中、多くのマーケット関係者は、FRBが次回を含めた3回のFOMC(9月19〜20日、10月31日〜11月1日、12月12〜13日)のどこかで0.25%の追加利上げを1回するとみている。もちろん、データ次第なので「1回も追加利上げなし」「2回以上の利上げ」の可能性もゼロではない。
 
当面、利下げは遠退いたように見える(早くても利下げは来年の前半か)が、もし追加利上げがあっても、「今度こそ最後の利上げになりそうだ」との見方が強まれば、日米の株式市場はポジティブに反応するとみている。

つまり、今後はいつアメリカの利上げが終わる(≒同国の長期金利がピークアウトする)のかを見極める局面になる。もし、9〜12月のどこかで株価が調整していれば、それは絶好の買い場となるだろう。

今秋最大の焦点は「米中関係の改善」

一方、アメリカの利上げと並んで、今秋の市場に最も影響を与えそうなのは米中関係の動向だ。「G7広島サミット」(5月19〜21日)では「リスク低減(de-risking)と多様化が必要」としたが、サミット後は、アメリカが中国との今後の関係を探ろうとするかのように、同国の閣僚など要人の訪中が相次いでいる。主なものは以下のとおりだ。

・6月16日、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が習近平国家主席と北京で会談。王毅共産党政治局員と秦剛国務委員兼外相も同席。

・6月18日、アントニー・ブリンケン国務長官が秦剛国務委員兼外相と北京で会談・夕食会。19日には外交トップの王毅共産党政治局員と北京で会談、さらに習近平国家主席と北京で面会。習氏は軍事対話の再開を拒み、外交儀礼上、異例の席配置で応対し、自らの威光を演出。

・7月7日、ジャネット・イエレン財務長官が李強首相と北京で協議。8日には経済担当の何立峰(ハァ・リーファン)副首相と北京で会談。

・7月17日、ジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)が解振華・気候変動問題担当特使と北京で会談。18日には王穀共産党政治局員や李強首相と北京で会談。

・7月18日、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官(100歳)が軍高官の李尚福国務委員兼国防相と北京で会談。19日には王穀共産党政治局員と北京で会談。20日には習近平国家主席と北京・釣魚台国賓館で会談。

前回の記事「日本株は日銀金融政策決定会合後にどう動くのか」(7月27日配信)でも述べたように、今後の焦点は11月15〜17日にサンフランシスコで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)での米中首脳会談が実現されるかが大きなカギを握っているといえそうだ。

実際、現在は前出のように、6月以降、米中対話が事実上活発になっているのも事実だ。この8月27〜30日もジーナ・レモンド商務長官が中国を訪問、ハイテク分野(半導体・AIなど)を巡る対中輸出規制等について(BRICS首脳会議に出席した)王文濤商務相らと協議した。対抗措置の激しい応酬につながらないように対話ルートの確保をねらうのが目的だが、これで中国を訪問した閣僚の数は4人となった。

米中が対話を重ねているのは、中国景気の低迷も影響していると見られるが、やはりこのことはポジティブに評価すべきだろう。仮にもしAPECで米中首脳会談が実現すると決まれば、日米中3カ国はもちろん、世界経済にとって大きなプラスと見るべきだ。それは、日本株にとっても、ポジティブなイベントになる。

消えない中国リスク、今後は王穀氏の訪米が焦点に

ただし、中国に関わる地政学リスクは低下したわけではなく、予断を許さない状況が続く。その中で、次の注目点は、王穀共産党政治局員兼外相はいつ訪米(ワシントン)するかだ。これが、米中首脳会談実現を見極める大きなポイントになるだろう。

なぜなら、7月25日に中国外相の交代人事があったからだ。56歳の若さで2022年12月に就任したばかりの秦剛国務委員兼外相が就任7カ月で外相を解任され、王穀氏が共産党政治局員兼外相として就任したからだ。

すでに、7月31日、ダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)がワシントンで中国外務省北米大洋州局の楊濤局長と会談した際に、王穀共産党政治局員兼外相をワシントンに招待(時期は未定)すると伝えている。

私は、この約3カ月の米中高官などの会談を見ていて、光が見えてきたと思っている。はたして、11月15〜17日のAPECで米中首脳会談が実現するのか。引き続き、期待をもって見守りたい。 

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)