現在70代、テレビドラマを中心に現役スタイリストとして活躍する西ゆり子さん。明るいカラーがトレードマークの西さんですが、約3年前に66歳という若さで夫をなくし、当時はそのショックから暗い色の服しか着られなくなってしまったそうです。

伴侶を失った悲しみから立ち直ったきっかけについて、西さん初のフォトエッセイ、『Life Closet 服と共に生き、服と共に笑う』より抜粋して紹介します。

【写真】西さんの気持ちを変えた「1000円のピアス」

暗い気持ちで、ファッションも楽しめなくなったとき…

2019年の秋に亡くなった夫は寡黙で穏やかな人。おしゃべりで喜怒哀楽が激しい私とは対照的な性格でした。愛称はよっちゃん。彼の病気がわかったとき、「仕事をやめようか?」と聞いた私に「やめたら、今後の生活が困るだろう」と言ってくれました。その言葉のおかげで、私は今でも好きな仕事を続けられているのです。

「でも、こんなに早く逝ってしまうなら、せめて1年くらいは仕事を休んで、そばにいてあげればよかった」

●泣いてばかりだった日々を変えたもの

夫が亡くなってからしばらくは、朝も夜も、泣いてばかりの毎日でした。毎朝、ベッドの中で目を覚ましたときに、ちょっぴり甘えて、夫の脚に頭を乗せるのが好きだったなぁって。これまで私に与えてくれたさりげない優しさやたくさんの思いやり――夫を失ったあとにあらためて気づいたかけがえのない幸せを思い出すたびに、涙がこぼれてしまうような日々でした。

当時は、手に取るのも黒い服ばかりで、アクセサリーをつける気にもなりませんでした。たまには違う色の服を着ようと思っても、どうしてもダークな色の服を選んでしまう。そんなある日、夫が亡くなってから1年ほどたった頃でしょうか。

「パールのピアスをつけてみようかな」

ふと思い立ち、落としても悔やまぬように1000円のピアスを買ってつけてみたところ、沈んでいた顔がパールの輝きで照らされて、少しだけ気持ちが明るくなりました。そして、そのことをきっかけに、

「もう一度、前を向いて歩こう」

という意欲が徐々に湧いてきたのです。時間が癒やしてくれたのかもしれませんが、アクセサリーや服の力は本当に大きいと思います。1000円のピアスのおかげで、まさに喪が明けたような瞬間を得ました。それから、カラフルな服を着るのが楽しいと再び感じられるようになったのです。

●60代は目立つ、70代はとんがる

もう一度、前を向けるようになったとき、これからの人生をもっと楽しく生きていくにはどうすればいいのかと考えました。そして、それには、やっぱり服の力を借りるのがいちばんだと気がついたのです。

30〜40代でコーディネートの基礎を学び、50代のときは個性的なデザインの服を着ていたこともありました。ベーシックな服からアーティスティックな服まで一通り経験したので、だったら60代からは自分が好きな服だけを自由に着ていこうと決めました。バラエティ番組のスタイリングに携わり、「派手な服なら、西ゆり子」と言われたときの感覚を思い出し、「目立って、なんぼ」の服を着ることを存分に楽しんでいこうって。

そして、70代からはさらにとんがる! 夫を亡くして1人になった私の心の奥から、

「一度きりの人生。やらずに悔やむより、やりたいことはどんどんやっちゃえ!」

という声が聞こえてきました。この年齢になったら、どんな服を着ようと周囲は大目に見てくれます。花柄のワンピースだろうが、ヒラヒラのフリルがついたブラウスだろうが、裸で道を歩かない限り、他人に迷惑をかけることもないですからね。

好きな服を着ることは自分自身を表現することだと思います。この先もますますとんがって、これからの私がどんなふうに変わっていくのか楽しみでなりません。新しい服に袖を通すたびに未知の自分に出会える――そんな希望が胸いっぱいに膨らんでいます。