この夏、4年ぶりに舞台に出演する女優の原田美枝子さん。作品に対する思い、約50年にわたって活躍し続けている女優業について、そして日々の暮らしの中で大切にしていることなどを伺いました。

女優・原田美枝子さんインタビュー。60代になって見えてきたもの、感じていること

――出演作品の「桜の園」は、ロシアの劇作家アントン・チェーホフが1903年に執筆した作品で、チェーホフ4大戯曲のひとつとしても挙げられる名作。原田さんが演じるヒロイン・ラネーフスカヤは、“桜の園”と呼ばれる、美しい土地を所有する領主です。しかし一家は没落してしまい、借金返済のため、土地は競売にかけられることに。そんな過酷な状況でも、どこか優雅さを忘れないラネーフスカヤに対して、原田さんはどんな印象を持ったのでしょうか?

【写真】凛とした雰囲気の原田美枝子さん

原田美枝子さん(以下原田):かわいらしい部分もあれば、ときには周りに対してひどいことを平気で口にしてしまう。それでも彼女の振る舞いは、なぜか許されてしまったりするんですよね。矛盾もひっくるめて、面白い女性だと思いました。そしてさまざまな葛藤を抱えながら、生きてきたのがラネーフスカヤという人間なのだと感じています。

●葛藤の無い人生は、つまらないかもしれない

――前時代の価値観にしがみついているラネーフスカヤと、新しい時代を生き抜こうとする周りの登場人物たちとのやり取りも、作品の見どころ。「120年以上前からある古典的名作」というと難しそうなイメージを持ってしまいますが、ESSE読者の世代からすれば、“家のリサイズ”、“親世代のとの片づけの価値観の違い”についても思いを馳せられるお話かもしれません。

原田:そうかもしれませんね。ラネーフスカヤは、栄華を誇った家の末裔。豪華だった暮らしを変えねばならぬ現実についていけず、どうしたらいいのか分からない。劇中ではそんな彼女と、未来を見据えて行動していく人たちとの思いが、交錯していきます。
本当は、だれもが生き方や時代に合わせて身軽にリサイズをしていけば、この物語のような葛藤は起こらないし、現実の世界でも、家の住み替えだったり、親子間での片づけの意識の差からくる悩みは起こらないのでしょうけれども…。でも、もしかしたら、それはそれでつまらないかもしれませんよ(笑)。生きていく中で、葛藤やドラマが、まったく起こらないわけですから!

――と、思わずはっとするような見解を伝えてくださった原田さん。ちなみにご自身が、長い間大切に守りたい“もの”などはありますか?

原田:執着心は薄い方ですけれども、気に入ったものは長く使いたいと思いますね。たとえば今、乗っている車は、もう随分前から運転していて。走らなくなるまで乗り続けたいと思っています。その都度、新しい車に買い替えるのも悪くないとは思いますが、私は『もうちょっと一緒にがんばろうね』という気持ちで、大切にしています。

●子育てを卒業後、乗馬をスタート。年齢や性別を問わず挑戦できるのが魅力

――1974年に女優デビューして以来、約50年近く、第一線で活躍中。今、忙しい日々の中で大事にしている時間は、「馬に乗るひととき」とも言います。

原田:乗馬を始めたきっかけは、映画の撮影でした。馬に乗って走るシーンがあって、事前に3回ほど練習をしたんですけれども、本番では、乗りこなすレベルにはとても到達できなくて。こういうことって、時間をかけないとできないのだなと痛感しました。

――ちょうどその頃、お子さんたちの子育てがひと段落したのも、よいタイミングだったとか。

原田:自分の自由になる時間が増え、体を動かしたいとも思っていた時期でした。そこからコツコツと馬に乗る時間をつくり…。今では、本当に小さいのですが、大会にも出場しています。

乗馬のよいところは、動物と一緒に出来る唯一のスポーツであること。馬と私とのタイミングが合うと、なんとも言えない爽快感があります。馬は賢く、しかもいろんな性格の子がいて、愛おしいですね。もしかしたら彼らは、私のことを“リンゴやニンジンをくれるおばさん”としか思っていないかもしれませんが(笑)。

それから、年齢や性別を問わずに挑戦できるのも乗馬のいいところですね。前に競技大会で4位を取ったことがあるのですが、3位は、小学生の男の子でした。とてもかわいかったけれど、同時に『彼に負けてしまって悔しい〜!』という思いも芽生えました(笑)。そうやって、色んな垣根を超えて楽しめる生涯スポーツなので、あと10年ぐらいは、続けていこうと思っています。

●肩ひじを張らなくていい、と思えるように

――60代を超えた今、女優としても新たな景色が見えるようになってきたそう。

原田:60代に入るまでは、与えられたトラックを全力疾走していたような感覚がありました。でも最近は、メイントラックから少し外に出て、全体を俯瞰して見られるような余裕が出ています。お仕事の現場で若い方々から刺激を受けつつも『がんばってるね』、『そこを抜けたら、また楽しいことがあるよ』と、言ってあげたい気持ちでいっぱい。肩ひじ張らなくても大丈夫よ、って。…と感じられるのも、プライベートで母親を看送ったり、人生の最終コーナーから逆算して、生きることを眺められるようになってきたからかもしれません。

●年齢を重ねるのは楽しいこと

――「そんな今の自分も、10年後に振り返ったら“まだまだコドモ”かもしれませんね」と、チャーミングに笑う姿は、ますます魅力的です。

原田:若い頃は、年を取るって、つまらないことだと思っていました。でも実際に年齢を重ねていくと、そんなことはまったくない。次々と見える場所が変わってきて、おもしろいことや新たな発見の連続だったりします。

<公演情報>

PARCO劇場50周年記念シリーズ「桜の園」

作=アントン・チェーホフ
英語版=サイモン・スティーヴンス
翻訳=広田敦郎
演出=ショーン・ホームズ

8月7日(月)〜8月29日(火)PARCO劇場始め、宮城、広島、愛知、大阪、高知、福岡など各地での公演予定あり

チェーホフの不朽の名作を気鋭の演出家、ショーン・ホームズによって上演する話題作。ヒロインの女主人・ラネーフスカヤを演じる原田さんを始め、彼女を慕う実業家役に八島智人さん、ラネーフスカヤの娘に影響を与える学生役に成河さん、養女役に安藤玉恵さんなど、豪華なキャスト陣にも注目。

衣装:ブラウス¥93500(セブンティ ヴェネツィア)、スカート¥62700(アルファ ストゥディオ)/ともにサン・フレール ピアス¥165000、リング(薬指)¥462000(シンティランテ)、イヤーカフ¥82500、リング(人さし指)¥253000(レスピロ バイ シンティランテ)/すべてイセタン サローネ東京ミッドタウン シューズ/スタイリスト私物

問い合わせ先:サン・フレール 03-3265-0251
イセタン サローネ東京ミッドタウン 03-6434-7975