「腸チフス」という感染症はご存知ですか？症状や感染経路を解説！
腸チフスとは、チフス菌（SalmonellaserovarTyphi）の感染による全身性疾患です。
39℃を超える高熱が1週間以上も続き、比較的徐脈・バラ疹・脾腫・下痢などの症状を呈し、腸出血や腸穿孔を起こすこともあります。
腸チフスがどのような感染症なのか・どのような症状か・感染した場合にどのような治療を行ったらいいか・感染したときの届け出など、腸チフスについて知識を持っていれば恐れる事はありません。
ここでは、腸チフスの症状や、治療法について説明します。このQ＆Aを読むことで腸チフスにかかっても、慌てず落ち着いて治療を受けることができます。
腸チフスの原因や症状
腸チフスとはどのような病気ですか？
腸チフスは、チフス菌（Salmonella Typhi：サルモネラの一種)が原因の感染症です。日本国内での発症はあまりありません。主に発展途上国で感染する可能性があります。通常、細菌を含んだ食べ物や水を介して広がります。一度チフス菌（Salmonella Typhi）が食事などによって体内に入ると細菌が増殖し、血流に乗って広がります。死に至ることもあるのです。
また、感染の原因となる菌量が他のサルモネラによる胃腸炎より少ない量でも発病するといわれています。感染の原因の食品として、カキ等の貝類の生食や豆腐、サラダなどがあげられます。
腸チフスの原因や感染経路を教えてください。
先ほども書きましたが腸チフスは、細菌を含んだ食べ物や水を介して広がります。チフス菌が体内で、増殖し血流に乗って広がります。腸チフスは都市部の密集した住居地や不十分な上下水道設備を通して、簡単に広がるのです。最近の都市化や異常気象により、腸チフスの世界的な脅威を増大させる可能性があります。
腸チフスの潜伏期間はどのくらいですか？
潜伏時間はチフス菌で3日～3か月（通常7～14日）で高熱・頭痛・疲労感などの症状を発症します。38℃以上の高熱を伴って発症するのですが、特徴的な症状がみつからないため、診断が難しい場合も少なくありません。どのような症状が出るのですか？
腸チフスに感染すると、血液と腸管で細菌が運ばれます。主な症状は、遷延する高熱・疲労感・頭痛・嘔気・腹痛・便秘・下痢などです。患者の一部には、淡い発疹がでることもあるのです。重症の患者になると、重篤な合併症を起こし、死に至ることさえありますが抗菌薬で適切な治療を受ければ死亡率は低くなります。腸チフスは、血液検査で確かめることができるのです。
危険のある地域を教えてください。
アフリカ・アメリカ・東南アジア・西太平洋地域の発展途上地域では、この疾患が公衆衛生上の問題が続いているのです。危険のある地域に渡航する場合、渡航前に予防接種が推奨されることがあります。一方、先進工業国は、向上した生活条件や抗生物質の発達により、腸チフスの発生率や死亡率は劇的に減少しています。
腸チフスの診断や治療法
腸チフスはどのように診断されますか？
臨床診断は遷延する発熱などの臨床症状の他に、過去2ヵ月以内の発展途上国などへ危険性のある海外渡航歴を問診で調べます。そして、血液や便・尿・胆汁・骨髄などから、チフス菌がいるのかを調べる細菌検査を行うのです。血液や培養検査では判断が難しく、疑わしい場合には、何度も培養検査を行うことがあります。培養検査とは、患者さんが持つ菌を増殖させ、病気の原因となっている菌の種類や効果のある薬を調べる検査になります。侵襲（外科手術などによって人体を切開したり、人体の一部を切除する行為や薬剤の投与によって生体内に何らかの変化をもたらす行為）を伴いますが、骨髄培養では比較的検出率が高いです。
これまでの感染リスクや熱が上昇する日が続く症状があれば感染の可能性があるため、臨床診断を行うことがあるのです。
治療法を教えてください。
腸チフスは前述のとおり抗生物質で治療することができます。フルオロキノロン類を含む抗生物質に対する耐性が出現するにつれて、感染領域にはセファロスポリンやアジスロマイシンなど、より新しい抗生物質が使われるようになりました。腸チフスは、さまざまな種類の抗生物質への耐性が増え、治療が複雑になってきていますが抗生物質で治療できます。なお、アジスロマイシンに対する耐性は散発的に報告されていますが、まだ一般的ではありません。
感染する前に予防することも大事です。一番の予防方法は、手洗いを徹底することです。特にトイレの後・料理・食事の前などです。また、腸チフスの流行している地域に渡航した際には生野菜・フルーツ・生水・氷などの飲食をしないように心がけることも重要になります。
腸チフスの予後や届出
腸チフスの予後について教えてください。
腸チフスの予後は、医師の指示に従い、適切な治療を受けることが重要といえます。なぜなら患者の年齢・一般的な健康状態・早期の治療・感染の重症度などに影響を受けるからです。腸チフスは、抗菌薬を使用しない場合の死亡率は約12％です。早期に治療を開始した場合の死亡率は1％まで下がります。栄養不良患者・乳児・高齢者が死亡例の大半を占めるのです。
合併症は主に治療を受けない患者と治療が遅れた患者に発生します。腸チフスに感染した疑いがある場合、早期治療が有効です。
腸チフスの致死率について教えてください。
推定で1,110万～2,000万人が腸チフスにかかり、毎年12.8万～16.1万人が腸チフスで死亡しています。腸チフスにかかったら届け出が必要ですか？
法第12条第1項の規定による届出が必要であり、腸チフスは全数報告対象（3類感染症）で、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。厚生労働省では次のように定められています。患者(確定)の場合は、医師は臨床的特徴を持った患者を診察し、症状や所見から腸チフスの疑いがあるとき。かつ、既定の検出検査方法から腸チフスと診断した場合。無症状病原体保有者の場合は、医師は診察した者が臨床的特徴はみられないが既定の病原体の検出検査方法により、腸チフスの無症状病原体保有者と診断した場合。
感染症死亡者の場合は、医師は臨床的特徴のある死体を検案した結果、症状や所見から腸チフスが疑われるとき。
かつ、既定の病原体の検出検査方法により、腸チフスにより死亡したと判断した場合感染症死亡疑い者の死体の場合は、医師は臨床的特徴のある死体を検案した結果、症状や所見から腸チフスにより死亡したと疑われる場合いずれの場合でも、検査材料は検査方法ごとにそれぞれ血液・骨髄液・便・尿・胆汁のいずれかを用います。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
腸チフスは日本で感染することが少ないため、怖いと感じるかもしれません。しかし、早期に適切な治療を行うことで治せる病気ですので心配ありません。とはいえ、腸チフスを予防することはとても大事です。普段からの手洗いや海外へ出かけるときは、細心の注意を払いましょう。
編集部まとめ
腸チフスについてのまとめです。
腸チフスは、チフス菌（Salmonella Typhi）を原因とし、生命を脅かす感染症です。通常、細菌を含んだ食べ物や水を介して広がります。
推定で1,110万から2,000万人が腸チフスに罹り、毎年12.8万～16.1万人が腸チフスで死亡しているのです。
症状には、遷延する高熱・疲労感・頭痛・嘔気・腹痛・便秘・下痢などがあります。患者の一部には、発疹も現れます。重症の患者になると、重篤な合併症を起こし、死に至ることさえもあるのです。
腸チフスは、さまざまな種類の抗生物質への耐性が増え、治療が複雑になってきていますが抗生物質で治療できます。
発病してもあわてず、医師の治療を受けましょう。
参考文献
腸チフス （ファクトシート）（厚生労働省検疫所 FORTH）
腸チフス（厚生労働省）
チフス菌・パラチフスとは（NIID 国立感染症研究所）
