Netflixシリーズ新作「離婚しようよ」は宮藤官九郎と大石静による共同脚本も話題の1つ。主演の仲里依紗が「あまちゃん」ならぬ「巫女ちゃん」でブレイクしたという女優を演じる(画像:Netflix

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

松坂桃李と仲里依紗が夫婦役

ダークやシリアス系が多めのNetflix 日本発シリーズですが、6月22日から全世界配信された新作「離婚しようよ」は、とことん軽いコメディタッチで離婚をめぐる夫婦を描いています。Netflix 公式ランキングで1位をマークし、国内人気は確かなもの。非英語TV番組の中でグローバルTOP10ランキング入りも果たし、好調です。ただし、無敵の韓国ラブコメ作品をなかなか超えられない理由もあります。

まずは国内人気の理由から解説すると、何より話題には事欠かせない作品です。人気も演技力もある松坂桃李と仲里依紗が主人公の夫婦役となって、色気ダダ漏れの役どころで元ジャニーズ俳優の錦戸亮まで登場し、山本耕史や尾美としのり、板谷由夏、古田新太ら演じる強烈なキャラクターが彩ります。超ヒットメーカーの宮藤官九郎と大石静の2人がタッグを組む異例の体制でオリジナル脚本を手掛けた挑戦作でもあります。


「選挙が終わったら、離婚しよう」と、松坂桃李(左)と仲里依紗が離婚の危機を迎えた夫婦役を演じる(画像:Netflix

そんな豪華な面々で、全9話のうち前半戦はキャラクター紹介が中心です。松坂演じる夫の東海林大志は与党の世襲議員という設定で、女子アナウンサーとの「路チュー」不倫報道をすっぱ抜かれても、「女子アナの行く先って脱ぐか政治家の2択ですよね?」と失言を重ねても、能天気。同情の余地がないキャラクターですが、松坂のニヤケ顔の表情は絶妙です。

一方、仲演じる妻の黒澤ゆいはCM契約数6社、SNSのフォロワー数100万人の国民的な支持を集める人気女優。愛媛を舞台にした連続ドラマ「巫女ちゃん」から大ブレイクした設定も盛り込まれ、これは言うまでもなく、NHK朝ドラ「あまちゃん」の本家パロディですから、宮藤官九郎作品ファンを楽しませるものになっています。ゆいの担当弁護士、石原ヘンリーKに扮する古田新太に至っても宮藤官九郎作品の常連俳優として期待通り、冒頭から言動すべてを笑いに変えていきます。

共同脚本家の大石静ワールドももれなくついてきます。それは、ゆいの危険な恋の相手、加納恭二との耳当たりのいい酔いしれた会話に集約されています。すぐに明かされる恭二の正体は東大中退の学歴を持ち、パチンコで生計を立てる自称アーティストというもの。受け取り方次第でカッコ良くもカッコ悪くもあり、次第にギャグのような存在にも見えてもきますが、演じる錦戸亮の色気だけは揺るぎません。

ゆいと恭二の甘いシーンは、女優と自称アーティストによるスキャンダラスな不倫とも言えるわけですが、わざわざメロドラマ調で見せているのが痛快です。「忙しい、ゆい、きれい」や「ゆいに電話したくて、スマホ買ったんだ」「ゆいを心の中で抱きしめている」といった直球の言葉選びで遊びを持たせています。

グローバルの視聴者は早い段階で脱落?

それぞれのキャラクター設定に好みが分かれるのは仕方のないことですが、このキャラクター合戦に費やした前半戦の何よりもったいない点は、話がそう進まないことにあります。結婚5年目の夫婦が離婚を踏みとどまる理由はキャリアのため、踏み切る理由は浮気と、割とありきたりなものです。芸能人や政治家のスキャンダル報道を再現したかのようなネタは面白さに繋がってはいるものの、グローバルの視聴者は早い段階で脱落となりそうです。


色気ダダ漏れの役どころで元ジャニーズ俳優の錦戸亮が登場。酔いしれた台詞の数々は大石静が作り出した(画像:Netflix

余計に惜しくも思います。「選挙が終わったら、離婚しよう」と、4話以降はテンポよく物語が展開していくからです。結婚生活のもろさを表す大志とゆいの不満と葛藤、衝突はより感情的に表現されていき、コメディ路線は変わらないまま政権交代が叫ばれた衆院選を軸に選挙の裏側まで見せ、面白みが増していきます。強力な対立候補、想田豪役として登場する山本耕史の憎たらしい演技も見どころです。

また世間に対する痛烈な批判を含んだ台詞からは、メッセージ性を感じます。国会シーンで大志が「子育て支援、何ひとつ進んでない」と切り出し、「失敗を恐れるなって言いたいの。人は間違える。勢いで結婚するし、勢いで離婚するし。別れるとね、文字どおり戸籍にバツが付くんですよ、バツが。ねえ?よくないよ、あれバツ。寛容になりましょうよ」と言い放つ言葉は作品全体の方向性を象徴しています。

それゆえに後半にこうした問いかけが集中しているのが、やはり残念に思ってしまいます。韓国ドラマの場合、作品の核となる言葉を冒頭に一度詰め込み、関心を引き寄せた後、徐々に解きほぐしていく傾向が高いです。このわかりやすさから、国内だけでなくグローバルの視聴者も逃さないのです。

「離婚しようよ」のこれまでの成績はというと、配信開始2週目でNetflix公式グローバルランキング(非英語TV番組)10位に滑り込み、7月9日現在のグローバルランキングではこれが最高値です。日本国内では2週連続で週平均1位を記録し、海外では唯一、台湾で週平均9位をマークしました。かたや、ジャンルや配信日が近い韓国ドラマの「キング・ザ・ランド」や「生まれ変わってもよろしく」は30カ国前後でトップ10入りし、これらと大きく引き離されているのが現実です。

そもそも韓国で製作されたNetflixオリジナルシリーズの数は、日本のそれと比べて桁違いに多く、経験の差があると思います。イギリスの調査会社Omdiaによると、韓国では自国製作のNetflixシリーズを視聴する割合は68%も占めています。日本の場合は、19%程度と低く、作品数に比例しています。


宮藤官九郎ワールドらしい強烈なキャラクターが次々と登場する。写真は左から板谷由夏、松坂桃李、仲里依紗、古田新太(画像:Netflix

グローバルに広がらないのがもったいない

日本で製作されるNetflixシリーズの数は増えつつあるといった段階で、「離婚しようよ」はNetflixとTBSテレビの共同製作作品として作られた背景があります。宮藤とは「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」、大石とは「大恋愛〜僕を忘れる君と」など、数々のヒットドラマを手掛けてきたTBSのドラマプロデューサー磯山晶が企画しています。

共同脚本という新たな試みも磯山の案です。複数の脚本家が1話ずつ分担して執筆する連続ドラマは他にもありますが、「それでは共同作業をする感覚が持てない」と、宮藤がそう話したことから、物語の筋道は1話ごとに担当して書くものの、シーンごとに割り振りする方式が採用されたそうです。

面白さを追求した作品に違いなく、世界配信を前提に作る過程で正解を探っている姿勢も感じられます。それでも結果は結果。いま一つグローバルに人気が広がらないのがもったいないと、何度となく繰り返して言いたくもなります。


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(長谷川 朋子 : コラムニスト)