博多大吉さんがパーソナリティを務める『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』は、今年3 月、11年の歴史に惜しまれながら幕を閉じた『たまむすび』(TBSラジオ)のイズムを受け継いだ番組だ。水曜日パートナーとして、メインパーソナリティの赤江珠緒アナと伴走した大吉さんらしく、番組は『たまむすび』のエッセンスを含みながらも、大吉さんの魅力たっぷりの内容に。5月某日、番組収録後の大吉さんに番組の経緯や想いを詳しくうかがった。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:牛島フミロウ)

 

●博多大吉(はかた・だいきち)/1971年03月10日福岡県生まれ。趣味:プロレス、プロレスの知識(福岡県大会2位)、ゲーム

 

ラジオとポッドキャストは別物

──先ほど番組収録を見学させていただきました。非常にリラックスして臨まれていたように見えましたが、お気持ち的には『たまむすび』とはまた違うものですか

 

博多大吉(以下、大吉)「全然違います。ポッドキャストを始めた当初は変な感じでしたね。『たまむすび』だとリアルタイムで聴いている方がいらっしゃるので、僕とか赤江(珠緒)さんが喋っている内容についてすぐにリアクションが届くんです。Twitterだったり、卓越しのスタッフのリアクションがあるけど、ポッドキャストでは何にもない。スタッフさんも『たまむすび』の方は5、6人いたけど、ポッドキャストでは基本2人しかいないですしね。だから、内輪ネタの扱い方は“大丈夫かな”と考えながらやってますね」

 

──というのは?

 

大吉「ラジオって身内のメディアだと思ってるんです。リスナーさんは、番組の裏側のような自分たちだけがわかる話題ってお好きだと思うんです。その“内輪ネタ”のさじ加減が、リアルタイムのリアクションがないと難しくなるんだっていうのは感じますね。相変わらず勉強です」

 

――リアクションがないとやりにくさがありますか?

 

大吉「やりにくいっていうか、不安ではありましたね。NHKで『あさイチ』をやってますけど、あっちもリアルタイムで反応が来る番組なので、それに体が慣れてるんでしょうね。この番組のように少人数のスタジオで、今日録ったものを何日か後に配信するっていうのは初めてなので」

 

――逆に収録ならではのやりやすさはあったりしますか?

 

大吉「編集が入るから、失敗しても噛んでもいいっていうのは、すごく気楽ですよね。特に今日なんかは勝手知ったるメンバーなので(注※見学したのは元『たまむすび』スタッフをゲストに招いた回)もう喫茶店で喋っているような感覚でしたね。これが、あんまりお会いしたことがない方とかだと、こっちも心構えがいると思うんですけど」

 

大吉さんのラジオ愛

──このポッドキャストは、『たまむすび』の元プロデューサー、阿部さん(通称“アベコP”)からご提案があったとか?

 

大吉「そうです。“ポッドキャストをやります”ということは、アベコちゃんから言ってもらいました。『たまむすび』が終わるって発表があってからだから今年2月とか、その頃やと思います。実は、僕も頭の中でポッドキャストとかできないのかなとは思ってたんですよ」

 

──大吉さんもポッドキャストを考えてらっしゃった?

 

大吉「考えてました。だから『え、やらせてもらえるの?』みたいな感じでした」

 

――ちなみにどんなことをしたいと考えていたんですか?

 

大吉「『たまむすび』を続けたいっていうのはもちろんあったし、赤江さんの居場所を作っておくという理由もあるんですけど、僕が好きなラジオを続けたかったんです。『たまむすび』を11年間やって、ラジオって本当に楽しいなって思ったんですね。本当に多くの方がおっしゃるんですけど、 芸人ってやっぱりラジオをやりたいんですよ」

 

――確かに皆さんそうおっしゃいます。それはどういった理由なんでしょうか?

 

大吉「僕ら芸人って、エピソードトークをしたり、リスナーさんのメールとかハガキを読んで臨機応変に喋ったりする練習をまずやるんですね。ラジオ番組風に30分喋る“電波のないラジオ”を、デビューした頃にやらされます」

 

──トークスキルの練習みたいなものでしょうか?

 

大吉「そうです。会議室で(博多)華丸と2人で向き合ってやったって、面白くもなんともないですよ。でも、実際初めてラジオの仕事をいただいた時に、会議室で練習したのと全く違う面白さに気づくんです。だから僕、『ラジオは結構です』っていう芸人はあんまりいないと思うんですよね。みんな本当に喉から手が出るほど欲しい仕事はラジオだと思います」

 

──練習との一番の違いというのは何でしょうか?

 

大吉「やっぱりリスナーさんとのコミュニケーションでしょうね。単純に笑ってくれる方もいれば、こんなこともありますよっていう反対意見ももちろん来る。ちゃんとお客さんがいるっていう状況はなんでもそうですけど、その繋がりが醍醐味です」

 

──先ほどおっしゃったリアクションという点も含め、ラジオはお客さんと繋がれる魅力があるんですね。

 

大吉「ラジオがなくなるっていうのは、自分の中でもどうしたものかなと。たとえば相方の華丸は、役者という軸が漫才師以外で1個あるんですよ。僕は漫才師以外の自分自身の軸がラジオだったので、それがなくなるのはすごくしんどい。今後のことを考えたら、これは何かやっとかんと大変なことになるんじゃないかな、と思ってました。なので、このポッドキャストの話がなかったらYouTubeをやろうと思ってましたから」

 

――そういったお考えがあったんですね。

 

大吉「僕もポッドキャストを考えていたとは言っても、お話がないからには、こっちからやらせてよっていうのはちょっと違うかなと思ってたので、TBSラジオから言っていただいて良かったです」

 

――じゃあこのポッドキャストはまさに大吉さんの軸足というわけですね。

 

リスナーからの反響に驚く

――第8回で特集されていましたけど、4月12日配信の第1回で、大吉さんがリスナーに番組のBGMやテーマ曲を募集したところたくさん来すぎちゃった、ということでした。このリスナーの反応をどう感じていますか?

 

大吉「良くも悪くも予想外でしたね。こんなにみんなが食いついてくれるとは正直思ってなかったんです。博多大吉がポッドキャストを始めるんだってことで、『たまむすび』の残り香があるぞと、多少なりともお客さんは来てくれると思ったんですよ。でも、こんなにも多くのリスナーさんが来てくれるとは思いませんでした」

 

──テーマ曲の募集というのも良かったのかもしれませんね。リスナーが制作陣と一緒に番組を作り上げていく、といったワクワク感もあります。

 

大吉「そうですね。僕のひとり喋りでやることも考えたんですけど、『たまむすび』は僕一人のものじゃないので、ゲストやリスナーとうまい具合に半々でやっていこうと思ったんすよ。赤江珠緒の『たまむすび』は月から木まで4曜日あって、僕はそのうちの一つの曜日のパートナーなので、僕一人でやるっていうのはある意味おかしな話ですから」

 

――大吉さんらしいお考えだと思います。

 

大吉「『たまむすび』の雰囲気を残しつつ、赤江さんがいつか来てくれたらいいなみたいな感じで、好きなプロレスの話したりとか、お笑いの話したりとか、そういうことをやっていこうと思ってたんです。で、ほんとに軽い気持ちでテーマ曲を作ってくれませんかと話したらもうドーンと来たので……あ、これはうかうか自分の好きなノア(プロレス団体)の話とかできないぞと(笑)」

 

――リスナーの多さと熱さに驚いた、みたいな(笑)。

 

大吉「そうですね。これも、リアルタイムならノアの話をして、Twitterのハッシュタグを見れば、そんなに盛り上がってないなとか、盛り上がってるなとかが分かるんですけど、ポッドキャストだとないので、おっかなびっくり話してますね」

 

――番組開始から約2か月経ちますが、ほかに何か反応はありましたか?

 

大吉「業界内でというか、芸人さんや、スタッフさんレベルでも、“ポッドキャストやるんだね”とかはすごく言われました」

 

――第1回配信で、『たまむすび』にゆかりがある方々の出演を募集してますとおっしゃってましたけど、その後なにか動きは?

 

大吉「具体的にはないかな。みんな恥ずかしいのかな(笑)。まあ、プチ鹿島さんとかはもういつでも! っていう感じでスタンバイはしてくれてます」

 

――プチ鹿島さんが来たら、マニアックなプロレス話になりそうですねー。

 

大吉「そうなんですよ、だからまだお呼びするのは早いかなと、今は止めてます(笑)」

 

――今日の収録中にも、「まだ始まったばかりなんだからゆっくりやろう」と大吉さんがおっしゃってましたね。

 

大吉「そうなんですよ。ポッドキャストを聴いてもらっている方は物足りないと思うかもしれないですけど、“いやいや、まだ基礎工事の段階だから”と。家づくりで例えたら、赤江さんが来るのは餅まきの日。今はまだコンクリートを固めて土台を作ってるところですから、ここで手は抜けないぞって思います」

 

あのゲストはいつくる?

――『大吉ポッドキャスト』の今後について伺いたいのですが、考えている企画だったり、こんなことしてみたいなというのはありますか?

 

大吉「このポッドキャストはすごく長いスパンで考えてるんです。番組でも言いましたけど、10年後(にもう1回『たまむすび』をやる)っていうのを一応の目処にしてるんです。だから、“これから10年あるからな”っていう意識はあります。もちろんこれから1個ずつやっていこうと思ってるんですけどね」

 

――なるほど〜。

 

大吉「僕が言うこっちゃないかもしれないですけど、ポッドキャストってビジネスモデルとしてまだ確立してないので、ゲストを呼ぼうとしても、予算なりスケジュールで誰かが無理をしないと作れないんです。僕がどこまで口出しできるかわかんないですけど、発起人のアベコちゃんとか、ディレクターの御舩くんと考えながら、必要とされればイベント的なものをやるのが最初になるのかなと思いますね。公開録音じゃないですけど、そういうのは僕自身がやってこなかったことなので」

 

――逆に言うと、アイデアがあればいろんなこと挑戦できそうな気もします。

 

大吉「そうなんですよね。おそらくリスナーから一番期待されてるのが、やっぱりピエール瀧さんとか、赤江さんがいつゲストに来るのかっていうことだと思うんです。それも視野に入れながら、でもそれが当たり前になると、じゃあなんで『たまむすび』が終わったんだってなりますし」

 

――確かにその通りです。

 

大吉「ポッドキャストだから、時間に自由がきくからできるっていう面もあるでしょうし、だからこそ、あんまり先にも引っ張れないとも思います。皆さんの“ゲストに来るのはいつだ”っていう気持ちを」

 

――大吉さんのポッドキャストには、『たまむすび』にゆかりがあった方が登場されるということで期待されているリスナーも多いかと思います。まぁでも焦ってやってもですね。

 

大吉「そうなんですよ、だってまだ10年ありますから」

 

――最初の1年で燃え尽きたんだなとなってもいけないですもんね。

 

大吉「だから、年内に1回は来てほしいかなと思いましたけど、メッセージだけでもいいかなとか。赤江さんも別に引退したわけじゃないし、きっとどこかのメディアには出てるでしょうから」

 

――じゃあ皆さんの登場は期待しつつちょっと首を長くして待つ、という感じですね。

 

大吉「(カンニング)竹山とか、山ちゃん(山里亮太さん)とかもね。そう、春風亭一之輔師匠はぜひって言ってくだってるみたいです」

 

――楽しみですね。著名な方や文化人のゲストも当然面白いのですが、番組スタッフさんとかへのインタビューもいいですよね。普通の人って言ったら失礼かもしれないですが、人間誰もが持ってる歴史やドラマを大吉さんが聞き出すと、ちゃんとコンテンツ化するなっていう印象があります。

 

大吉「本当ですか。そう言っていただけるのはすごく嬉しいですね。今のポッドキャストの段階では、ゲストに来た人を片っ端から私が事情聴取する(笑)っていうのをひとつの柱にしようと思ってたので。『あさイチ』で、ゲストとのプレミアムトークのコーナーはもう6年やってますからね、そこで鍛えられたのかもしれません」

 

ポッドキャストで大事にしていること

――ラジオとポットギャストでは、話す内容とかも変わったりしますか?

 

大吉「変えるのもかっこ悪いなとは思ってるんですけど、そこまで気にはしなくなりましたね。この話題どうかなとか、これを言ったら各所で問題が起こるかなとかいうのは、あまり気にせず気兼ねなく言えるようにはなりました」

 

――編集もあるし、ポッドキャストの方がラジオよりも若干緩いところがあるんでしょうか?

 

大吉「だぶんそうだと思います。たとえば、第8回で話した『THE SECOND』についても(注※取材の数日前に放送があった)、仮に今も『たまむすび』が続いていたとしたら、『THE SECOND』について一言って振られても、答えられなかったと思いますね。でも、ポッドキャストだったらいいかって感じです」

 

――大吉さんがそうやってリラックスした感じでお話しされると、ゲストの方もいろんな話をしやすいかもしれないですね。

 

大吉「はい。お互い様なんで、ゲストにもいっぱい喋ってもらって」

 

――ラジオとポットキャストで共通して大吉さんが大事にしていることは何でしょうか?

 

大吉「どちらも聴いてくれている方がいるからできてることなので、その方々をおざなりにしないことですね。だから、さじ加減が難しいんですけど、内輪ネタのラインの引き方であったりとか、『たまむすび』から続く“モヤモヤお焚き上げ”のコーナーもやってますけど、来たお便りをあんまり真面目にやっても重くて面白くなくなっちゃうんで、最終的にどこかで着地点作ったりするのを、しっかりやらないといけないなと思いますね」

 

――リスナーあってのラジオであり、ポッドキャストであると。

 

大吉「ポッドキャストだとリアルタイムな反応がないから、“こんなとこでいいか”で終わらせず、“こんなとこかな”からもう2段階ぐらい考えて喋るようにはしてるつもりです」

 

――リスナー目線を大事にされているんですね。

 

大吉「でも、あまりにもリスナーさんを重視すると、こっちがやりたいことができなくなるので、そのバランスは考えてます。それこそ“赤江さん出せ”“瀧さん出せ”って言われても、できないもんはできませんし“いや、まだです”と言うしかない。その辺はうまいことやらなければいけないと思ってます。お互いあうんの呼吸で、聞いてくれてる方とそういう関係を作れるように、頑張りたいですね」

 

――多くのリスナーが「大吉先生がやってくれて良かった」と言っているのは、そういった姿勢でいてくれるからですね。

 

「やりたいんならやればいい」

大吉「意志を継いでいくって、もう本当に余計なお世話なのはわかってましたけど、でも『たまむすび』があと1回ぐらいやってもいいんじゃないとは思ってますね。オンエアでも言いましたけど、甲本ヒロトさんがおっしゃった『やりたきゃやりゃいいじゃん』っていう言葉がすごく心に残ってて」

 

――いろんなこと考えちゃいますからね、邪魔なんじゃないかとか。

 

大吉「そうそう。でも、なんかしら場所があったほうがもう1回やりやすい。なんもなしで10年後……たとえば再来年ぐらいでもいいんですけど、『たまむすび』が復活しますとか言ったところで、そんなに機運は盛り上がるのかな、赤江さんも出てくれるのかなって。じゃあ、赤江さんに会いたければ会えばいいじゃないって思いますから、会える場所は残しておきたいですからね」

 

――ポッドキャストをやると発表された際も「赤江さんがいつでもフラッと帰って来られる場所をつくる」とおっしゃってました。

 

大吉「大切な空き地があったとして、何も手をつけなくてそこにマンションが建ってしまったとしたら、もうその場所で会えないじゃないですか。だから、この空き地にだけはポンっとポストを1個置いとこうっていう感じです」

 

――聖火じゃないけど、ずっと火をともし続けていく気概が感じられます。

 

大吉「ちゃんとそれで煮炊きもやってますんで(笑)」

 

――いろんな名番組、伝説的な番組がありますけど、そういった再建に向けてのアクションをしたという話はなかなか聞かないですよね。

 

大吉「おそらくいろんな事情で、やりたくてもやれなかったことが多かったと思うんです。今回はたまたま図々しいアベコと僕と御舩くんっていう3人がいたっていうだけだと思いますけどね」

 

――『たまむすび』が終わって心に空洞ができたまんまの「たまロス」の方も多いと思います。そんなリスナーを救ってくれた大吉さんとスタッフさんたちに感謝しないといけないですね。

 

大吉「いやいや、感謝するのは僕のほうでございます」

 

――これからも頑張ってください、配信楽しみにしています!

 

大吉「ありがとうございます!」

 

どこまでも謙虚に、言葉を選んで話してくださった大吉さん。ポッドキャスト開始時は「恩返しのつもりだったが出しゃばってしまったかな」と不安を漏らしてもいたが、リスナーから番組に届くメッセージを聴くにつけ、大吉さんの英断にエールを送りたくなる。コンテンツがすごいスピードで大量消費される時代に、作ったコンテンツを守る、意志を継いでいくっていうのは言うほど簡単ではないはずだ。

 

リスナーにも作り手にも愛されるコンテンツがどんなものかを知りたい方は、ぜひ『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』を聴いてみてはどうだろう。

 

【番組情報】

TBSラジオ『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』
毎週水曜17時頃配信
Spotify、Amazon Music、Apple Musicほか、各プラットフォームで配信中!

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