世界的に推進されるカーボンニュートラルなどの観点から、日本政府は2035年以降、新車販売を電動車のみとする方針を示しています。そこで企業として一早く動いたのが、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和ハウスグループの大和リビング。すでに全国で70台ものEVを社用車として稼働させている同社に、これからの未来を見据えた取り組みについて聞きました。

 

2026年までに、約350台すべての社用車をEVにする

 

大和リビングは、大和ハウスが建設した全国約63万戸の賃貸住宅「D-ROOM」の管理会社。入居募集から家賃の回収・管理まで、主に物件オーナーの経営をきめ細かくサポートしています。事業所は全国に138箇所(2023年4月時点)あり、同社はそこで使用する約350台の社用車を、2026年までにすべてEVへと切り替える、と宣言。早くも、一部の営業所で切り替えが実現しています。

 

グループ内でも先陣を切って社用車のEV化に踏み切った背景について、同社・事業本部エネルギー事業推進部次長の柴田孝史さんに聞きました。

 

「大和ハウスグループでは、環境長期ビジョン『Challenge ZERO 2055』に基づき、創業100周年を迎える2055年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。その中期的な行動計画となる『エンドレスグリーンプログラム2026』を推進するなかで、各事業所が使用している電力、社用車のガソリンといったエネルギー消費をいかに削減するかという課題がありました。このうち電力は、2023年度中に大和ハウスグループの再エネ発電所由来の再生可能エネルギーによる『RE100』を達成する見込みです。

一方の社用車は、2026年度までに約350台のリース車をすべてEV化していく目標を掲げています。今回はその初年度の目標として、『RE100』達成済みの事業所から36箇所を選出し、2022年度(2023年3月)中に、70台の社用車を再エネで充電できるEVへと切り替えました」(柴田さん)

 

↑大和リビングの社用車として採用された「SAKURA」

 

約350台のうち、2割にあたる70台をEVに切り替える初年度計画が具体化したのは、2022年6月。それは今回導入された日産のBEV(バッテリー式電気自動車)「SAKURA」の発売と同時期であり、まさに急ピッチでの導入でした。

 

「まずは走り出すことを優先した結果。賃貸住宅の管理業務を行う弊社では、他のグループ会社と比べても多くの車両を使用します。我々が率先してEV導入に踏み切ることに意義があると考え、初年度目標の達成に重点を置きました」(柴田さん)

 

グリーンをキーカラーに使用したグラフィカルなラッピングが目を引く「SAKURA」。取引先や街中でも人々の関心を惹きつけているそう。

 

「各営業所で顧客対応に使用する社用車は、従来から狭い住宅地で走りやすい軽自動車を使用してきました。その使用感や利便性を損なわず、なおかつ年度内に70台という目標を達成できる車種が、日産の『SAKURA』でした」(柴田さん)

 

↑ボディには「We Build ECO」といったグループ挙げてのメッセージなどが描かれています

 

「もちろん、今後は車種の選択肢も増えていくと思います。そもそも、350台の社用車は業務に使用される車両のほんの一部に過ぎません。このほか社員が業務に使用している約1250台の自家用車についても、今後EVに切り替えていくことを見据えて、社内のマイカー手当等の制度を整えていく予定です」(柴田さん)

 

↑大和リビング株式会社 エネルギー事業推進部 次長 柴田孝史さん。大和リビングが推進する『エンドレスグリーンプログラム2026』の達成を目指し、今回の社用車EV化を主導

 

充電スタンド設置へのハードルは営業所によってさまざま

 

今回、取材班が訪れたのは、東京・足立区にある大和リビング足立営業所。敷地内の駐車場には6つの充電スタンドが備えられ、「SAKURA」が6台停まります。同営業所所長の森永友章さんによると、営業所でのEV導入においては、この充電スタンドをいかにスムーズに設置できるかが大きなポイントになったのだとか。

 

「今回選ばれた36の拠点は、大和リビングが管理している賃貸物件に我々がテナントとして入っている営業所のみになります。つまり、建物のオーナー様との信頼関係がすでにできていることが前提条件でした。特に足立営業所は1階にあり、建物前面の駐車場はすべて弊社で借りているため、オーナー様にも説明をしやすい環境が整っていたといえます」(森永さん)

 

↑大和リビング足立営業所所長の森永友章さん。足立営業所では、初年度における最多となる社用車6台をEV化。エネルギー事業推進部へのフィードバックも担っています

 

賃貸物件のオーナーから理解を得るために、具体的にどんなハードルがあるのでしょうか?

 

「主に施工の段取り的な部分ですね。EVの充電スタンドに使用する電気は、建物の中から分岐させて供給するか、それとも目の前の電線から直接引き込んで使用するかの2択なんです。やはり今後の拡張性などを考えると後者になりますが、電線を充電スタンドまで引き込むには、舗装されたアスファルトを剥がすといった工事が必要になります。また、駐車スペースのうちどの部分に導入するかは、各駐車場の状況によってオーナー様の考えもまったく違いますし、その後の運用を含めて検討していく必要があります」(柴田さん)

 

「EVが普及していない今の段階で、オーナー様が設備の劣化や今後の管理について不安を抱かれるのは当然のことだと思います。そういった現状も踏まえ、こちらで想定しうる限りのアンサーをご用意して対話に臨みました。なおかつ今回は、導入にあたっての施工費もすべて大和リビングが負担しています」(森永さん)

 

「自社負担に関しては、コストより導入までの時間を最優先したかった事情もあります。EV導入に対しては手厚い助成金も使えますが、今回はこちらが施工したいタイミングと、都の許認可が降りるタイミングを一致させることが制度上、難しかったんです。ですから、70台という初年度の目標達成を重視する一方で、肝心の充電器にかかるコストはできるだけ最小化する必要がありました」(柴田さん)

 

DIYで大幅なコスト減!? 足立営業所独自の充電スタンド

 

「日々の業務で使用する社用車ですから、駐車場への充電スタンド設置は必須でした」(柴田さん)

 

EVの充電設備にはいくつかの種類がありますが、共用に多く導入されているのが、駐車スペースに設置した充電器側に制御回路を内蔵し、大きな充電ケーブルが備え付けられている『モード3』タイプ。ところが、足立営業所の充電スタンドには充電ケーブルが見当たらず、非常にシンプルな見た目をしていました。

 

EV用充電設備の種類

・モード1……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行って電力供給を行う。普通充電器は家庭用電源を使うため、導入時のハードルが低いのがメリット。

・モード2……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行う。ケーブル間に設置されたコントロールボックスで制御を行いながら電力を供給する。

・モード3……充電ケーブル付きの普通充電器から充電。充電器に制御回路を搭載し、充電制御を行う。

・モード4……高圧の直流電源を用いた急速充電器で充電。短時間で充電できるのがメリットだが、導入コストは高い。

 

「一般によく用いられる『モード3』のタイプは、スタンドとコントローラーだけで数十万円。これに電線引き込み工事費をプラスすると、1営業所で数百万レベルのコストがかかってきます。そのようなタイプを導入した営業所もありますが、足立営業所が今回導入したのは『モード2』タイプの3kWの充電コンセントでした。駐車スペースに設置するスタンドにはコンセントのみがあり、取り外し可能な充電ケーブルの方に制御回路が内蔵されています。汎用品のポールに、パナソニック製のコンセントが入った既成のBOXを取り付けたいわば『DIY充電器』。『モード3』に比べるとかなり割安で設置できました」(柴田さん)

 

このDIY充電器の制作は、『D-ROOM』のインターネット設備工事を手掛けているグループ会社『D.U-NET』が手がけたのだそう。

 

「そもそも『モード3』の充電器は、たった1台の社用車のために設置するにはオーバースペックなのではないかという見方もあります。充電ケーブルが据え置きなので、かえって管理しにくい側面もあるかもしれません。一方の『モード2』なら充電ケーブルは車に置いておけますし、作りがシンプルなので、今後6kWの普通充電へのアップデートも容易だと考えています」(柴田さん)

 

運用のカギは安定した夜間充電。創意工夫から見つけたベストな形

 

コスト削減のための創意工夫が、結果的に利便性へとつながった形。一方で、肝心のEVの乗り心地や使い勝手はどうなのか、誰もが気になるところです。

 

「社用車は車両ごとに使用者を決めており、今のところ運用に問題はありません。実は、ガソリン車の軽よりも今の『SAKURA』の方が乗りやすいという声が圧倒的に多いんです。最新のクルマなので標準装備でも従来の軽自動車よりハイスペックですし、EVならではの安全装置も充実しています。弊社では公共交通機関で出勤する若い世代の社員が社用車を使用するケースが多いのですが、若い世代ほどEVの乗り味をスムーズに受け入れられているのかもしれませんね。足立営業所の場合、1日の走行距離は30km程度。航続距離はカタログで180kmとありますが、エアコンをフルで使用していると、安心して走れるのは100kmくらいかなという体感です」(森永さん)

 

↑ “日本の美を感じさせるデザイン” がコンセプトのひとつとなっているSAKURA。良い意味で社用車らしからぬ遊び心も盛り込まれています

 

導入は2023年の2月から。電力消費が多い暖房を特に多用する時期だったこともあり、バッテリーの持ちを不安視する声もあったそう。

 

「EVはとにかく充電に時間がかかります。そこで、夜間充電をどうするかは当初の大きな課題でした。夜間充電をしておかないと営業に間に合わないので許可自体は出していましたが、『モード2』の場合、充電ケーブルが取り外し可能なので簡単に抜けてしまうんですね。いたずらでケーブルそのものが盗まれたりする懸念もありました」(森永さん)

 

「街の急速充電スタンドで使えるEモビリティカードも支給していますが、急速充電とはいえ30分はかかります。業務に影響を与えないためにも、夜間の基礎充電は非常に大事。そこで、独自の鍵を設置するなど安心して夜間充電をしてもらうための対策も進めています」(柴田さん)

 

EVの草創期だからこそ、導入の形に正解はなく、さまざまな試行錯誤をすることにこそ価値がある。それが大和リビングの考え方。

 

「今回の取り組みから得た知見は、やはり大きかったです。設備にしても高機能なものをつければいいというわけではないですし、どんな形がベストかはケース・バイ・ケース。それがEVを導入していく難しさでもあり、同時に可能性でもあると思っています。今後はEVのカーシェアなども増えていくでしょうし、弊社が手がける賃貸住宅『D-ROOM』にも、そういったサービスと連携することで新たな付加価値が生まれていくはずです。いずれにしても、大和リビングはこれからもEVに対して前向きな取り組みを継続していきます」(柴田さん)

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」