「丹後あおまつ号」は予約不要の観光列車 城下町の面影を残す京都・久美浜で見つけた名物
日本海を眼前にする京都府の北側。そこは内海を囲む歴史深い小さな町。湾内でのカキの養殖で知られ、冬はもちろん日本海のカニづくし。ひと駅先は兵庫県という北西の町、久美浜への旅。温泉にゆっくり浸かり、食べて飲んで、時々鉄道に乗って…。
のんびり列車に揺られて海の京都へ
京都府北部と兵庫県北東部を走り、日本海側のエリアを結ぶ京都丹後鉄道。そこを走る1両編成の観光列車はのんびりと旅を楽しむには最高の雰囲気。普通運賃のみで気軽に乗れる水戸岡鋭治氏デザインの観光列車「丹後あおまつ号」に乗って久美浜駅を目指します。
久美浜は古くは細川忠興の重臣・松井康之が治めた戦国時代の城下町で、今もあまり変わらない町家の地割や、鍵曲や武者止めといった敵襲に備えた街づくりの面影が残るのが特徴です。江戸時代は幕府の直轄地で代官所が置かれ、明治時代には県庁所在地だったことも。
豪商・稲葉本家の屋敷で名物の「ぼたもち」をいただく
この地に鉄道が敷かれたのは昭和4年のこと。町の名士、稲葉家13代当主の稲葉市郎右衛門が私財を投じて久美浜-豊岡間を開通させています。町の近代化の立役者である稲葉家は、400年ほど前に移り住んできた美濃の稲葉一族の末裔といわれており、糀(こうじ)製造や廻船業の交易で莫大な富を築きました。久美浜湾の手前にある目抜き通りが町の中心部で、約700坪の敷地を持つ稲葉一族の邸宅『豪商 稲葉本家』もここにあります。国登録有形文化財でもある吹き抜け天井の見事な母屋ほか、郷土資料やギャラリー、工房などに活用されている邸内を見学することができます。
邸内を一通り見学したら奥座敷の喫茶処『吟松舎(ぎんしょうしゃ)』へ。こちらでは稲葉本家にゆかりの深い名物〈ぼたもち〉と丹後名物の〈ばら寿司〉が用意されています。なぜ“ぼたもち”なのか。それは大飢饉の際や明治元年に久美浜県が発足した際に稲葉家が地域の人々にぼたもちをふるまい、また、13代当主の銅像が建てられた際は地域の人々がぼたもちをついて祝ったことに由来するとか。長年手づくりしてきた昔ながらのぼたもちは、つぶあんと、つぶあん入りきな粉の2種類。甘さ控えめの素朴な味わいで、毎日丁寧に炊かれるもち米の食感も絶妙です。
〈ばら寿司〉はサバを甘く煮付けたそぼろを散らす丹後地方ならではのごちそう。「京丹後エリアでは鯖寿司が有名ですが、鯖を加工した郷土料理としてこういう食べ方もするんです」と教えてくれたのは稲葉本家の支配人・水原倚声(よりひろ)さん。酢飯に稲葉本家特製のサバそぼろ、かまぼこ、しいたけ、大葉に錦糸卵があしらわれたハレの日のお味です。
海が見える花の寺『如意寺』へ
久美浜湾の周囲を巡ると湾に面したお寺があります。関西花の寺二十五カ所霊場の第七番札所で、海の見える寺としても知られる『宝珠山・如意寺』です。毎年4月上旬に1万株の自生ミツバツツジが境内と山肌をピンクに染める姿が有名ですが、境内には200種余りの草花が植えられておりいつ訪れても可憐な花々が迎えてくれます。
十一面観世音菩薩を祀った本堂や不動堂、六角堂を抜けて境内の裏手に行くと四季の山野草を植えた「珠山千年石の庭」が現れます。
「庭の草花の多くは境内周囲の山に自生する山野草を移植したものです。土も合うようで元気に花を咲かせてくれていますね」と語るのは、草花が大好きで「花説法」も評判の住職・友松祐也さん。
草花の脇には小さく名札が付けられており、朝ドラの植物博士じゃなくても花の名前は一目瞭然。ちょっと見学のつもりがじっくり見入ってしまう、植物園のような見ごたえのある緑豊かなお寺です。
……後編へ続く。
豪商 稲葉本家
住所/京都府京丹後市久美浜町3102
電話/0772-82-2356
営業時間/9:00〜16:00
休館日/水曜
宝珠山 如意寺
住所/京都府京丹後市久美浜町1845
電話/0772-82-0163
編集/エディトリアルストア
取材・執筆/渡辺美帆、成田孝男
写真/児玉晴希
※情報は令和5年5月28日現在のものです。