東京ロボティクス、モバイルマニピュレータ型ロボット「Torobo GTP」で物流倉庫でのピッキング自動化に参入 人との共存ではなく完全自動を狙う
ロボットスタートアップの東京ロボティクス株式会社が、モバイルマニピュレータ型のロボット「Torobo GTP(トロボ・ジーティーピー)」で物流業界に本格参入しようとしている。バキューム付きのアームを使って、棚から箱単位で商品を取り出し、人のもとまで運べるGTP(Goods to Person)タイプのロボットで、ピッキング作業の一部を自動化する。
棚の高さは3.3mまで対応。棚間は90cmあれば通行できる。自動倉庫等と違って現場を一新せずに既存倉庫に導入できるため初期投資を抑えることができる。逐次投資、すなわち部分的な自動化にも対応する。
幅90cmあれば自律走行してピッキング作業が可能。棚は最下段から3.3mまで対応可能
特徴は最大走行速度を5m/sとしている点。これは「人との共存」ではなく、箱単位のピッキングについては完全自動を視野に入れているため。東京ロボティクスではロボットを使うことで作業効率は3倍、保管効率2倍、坪あたりコストは他社の同様ソリューションの1/2程度で済むと概算している。
既存の棚のまま、箱単位ピッキング作業を自動化可能。AMRのように人との共存を前提とするのではなく、完全自動化を想定して5m/sで移動できるスペックを持たせている
販売方法その他の詳細は未定だが、東京ロボティクス代表取締役の坂本義弘氏によれば、既に本格展開に向けてアパレルECや3PL(サードパーティー・ロジスティクス)、宅配など4社と実証実験を行い効果検証を進めている。坂本氏は「もっともっと色々な現場を見たい」と考えているとのこと。話を伺った。
5月からアパレルECや3PLで実証実験を開始予定
●力制御に強みを持つ東京ロボティクス
■ 動画:
2015年創業、早稲大大学発ベンチャーの同社は、これまでロボットの関節にトルクセンサを使って人と積極的にインタラクションができるインピーダンス制御や力制御ができる研究用ロボットや、3Dビジョンセンサなどを展開してきたが、新たに開発した「Torobo GTP」で本格的に物流向けに参入を検討する。
東京ロボティクスは最先端の人型ロボットの開発と、ソリューションロボット開発の2軸で研究開発を進めている。同社の力制御可能な24軸の全身人型ロボット「Torobo」は、「ムーンショット目標3」の早稲大大学AIRECプロジェクトでも使われており、第10回ロボット大賞 優秀賞(研究開発部門)を受賞している。柔らかい制御と片腕で12kg持てる剛性の両方を兼ね備えており、バイラテラル遠隔操作や日常的な作業ができる汎用ロボットの研究に用いられている。またヤマハ発動機とも提携し、産業用ロボットも開発している。
このような先端ロボット開発で培った技術を切り出してソリューションとするのが同社のもう一つの方向性で、現在は製造業や物流、インフラなどを対象としている。たとえば野村不動産の物流に係る企業間共創プログラム「Techrum
」にも参加している。
GTPに乗り出すきっかけとなったのは2022国際ロボット展で出展していたパレタイジングロボット「モバイルグリッパ」から。リード顧客と議論するなかから、より人手を必要とするピッキング領域のソリューションを開発しようとなったという。
■ 動画:
●真っ暗な倉庫で複雑な絵柄の箱もピッキング可能
1本腕モバイルマニピュレータ「Torobo GTP」試作Ver.1。今は既に4代目まで開発しているとのこと
「Torobo GTP」は、台車の上にアームを付けた、いわゆる「モバイルマニピュレータ」型のロボットだ。まだ試作段階だが、試作機の本体幅は620mmで、適用可能な通路幅は90cm。ロボットはアーム先端のカメラを使って商品(箱)を認識して、吸着式ハンドを使って本体のお腹の部分に積んでいく。1箱あたりの重さは10kg-15kgを想定している。
デモの様子。実際には真っ暗な状態でピッキングできる
「Torobo GTP」は真っ暗な状態で24時間動かすことができる。たとえば靴箱のような箱単位の商品を棚から取り出して移動ラックに入れたり、逆に移動ラックに入れた商品を棚に戻したり、コンベアのソーターに投入したりできることから、夜間に入ってきたオーダーについてはロボットだけで作業させておき、所定のピッキングステーションに商品を準備した状態にしておいて、朝に人が出勤してきたら出荷用の棚に集まっている商品から出荷作業を行うといった活用も想定している。
なお、人による作業場(ピッキングステーション)での箱の吐き出しについては、一個一個をアームで取り出すのではなく、一気に吐き出す方法も検討して、処理速度を上げたいと考えているという。
また、黒い箱や複雑な絵柄、光沢ある箱の認識は一般に難しいが、深層学習を使うことで、それらも問題なくピッキングできることを確認している。
●人協働しないことで生産性を上げる
最大移動速度は5m/s。「かなりビュンビュン走る」という
もう一つの特徴は最大5m/s(時速18km程度)と高速移動できるところ。前述のように、これはAMRのような人との協働作業ではなく、「無人化による完全自動」を想定しているため。「人協働だと生産性が低すぎる」というのが坂本氏の考えだ。
「箱搬送」と割り切った仕様にしているのも、スループットを上げるためだ。保管効率もシャトルには負けるが3.3mまでの棚には対応できる、ピッキング用AMR(人協働ロボット)のように逐次導入が可能など、省人化効果、処理速度、保管効率、初期費用などの各要素で「程よく全体的に優れている」のが「Torobo GTP」の利点だという。
実際に走行させると「かなりビュンビュン走る」そうで、これまでに6社と話をし、そのうち4社と実証実験を行えているなど「食いつきはいい」そうだ。
なお高速移動のため独自のマーカーを棚に張っている。特殊な1次元のマーカーで、棚に貼っているN個のマーカーをステレオカメラで見ることでIDが分かり、そこから位置がわかる。文様のようなので「忍者マーカー」と名付けている。
独自の「忍者マーカー」を棚に貼ることで安定した高速移動を可能に
●日本初のGTPソリューションを盛り上げたい
倉庫内ピッキングのグローバル市場規模
このほか、ハードウェアだけではなく、効率良い出荷のために、どのような順番でオーダーをさばくと効率的に作業できるのか、そのためのアルゴリズム開発なども進めている。
「Torobo GTP」は5月から実地での検証を行い、来年の4月くらいからの順次導入を行いたいという。大雑把に計算すると、1000坪程度のフロアに12台のロボットを導入することで概ね10人のピッキング作業員の省人化が可能だという。コストに関しては未定だが、今のところは売り切り+サポート費用で考えているとのこと。
物流倉庫の自動化については、様々なソリューションがあるが、どれも一長一短ある。東京ロボティクスでは、「一気に自動化へ踏み切る勇気はなかなか出ない」というところ向けに部分的な自動化による逐次導入を提案していきたいという。
坂本氏は「荷主・自社物流、3PL、物流コンサルなど、まとまった作業者の作業を自動化したい人や新しいソリューションに興味がある人は是非ご連絡いただけると嬉しい。我々としては現場を見せてもらって繋がりを作りたい。そして日本初のGTPを盛り上げたい」と語った。
棚の高さは3.3mまで対応。棚間は90cmあれば通行できる。自動倉庫等と違って現場を一新せずに既存倉庫に導入できるため初期投資を抑えることができる。逐次投資、すなわち部分的な自動化にも対応する。
幅90cmあれば自律走行してピッキング作業が可能。棚は最下段から3.3mまで対応可能
特徴は最大走行速度を5m/sとしている点。これは「人との共存」ではなく、箱単位のピッキングについては完全自動を視野に入れているため。東京ロボティクスではロボットを使うことで作業効率は3倍、保管効率2倍、坪あたりコストは他社の同様ソリューションの1/2程度で済むと概算している。
既存の棚のまま、箱単位ピッキング作業を自動化可能。AMRのように人との共存を前提とするのではなく、完全自動化を想定して5m/sで移動できるスペックを持たせている
販売方法その他の詳細は未定だが、東京ロボティクス代表取締役の坂本義弘氏によれば、既に本格展開に向けてアパレルECや3PL(サードパーティー・ロジスティクス)、宅配など4社と実証実験を行い効果検証を進めている。坂本氏は「もっともっと色々な現場を見たい」と考えているとのこと。話を伺った。
5月からアパレルECや3PLで実証実験を開始予定
●力制御に強みを持つ東京ロボティクス
■ 動画:
2015年創業、早稲大大学発ベンチャーの同社は、これまでロボットの関節にトルクセンサを使って人と積極的にインタラクションができるインピーダンス制御や力制御ができる研究用ロボットや、3Dビジョンセンサなどを展開してきたが、新たに開発した「Torobo GTP」で本格的に物流向けに参入を検討する。
東京ロボティクスは最先端の人型ロボットの開発と、ソリューションロボット開発の2軸で研究開発を進めている。同社の力制御可能な24軸の全身人型ロボット「Torobo」は、「ムーンショット目標3」の早稲大大学AIRECプロジェクトでも使われており、第10回ロボット大賞 優秀賞(研究開発部門)を受賞している。柔らかい制御と片腕で12kg持てる剛性の両方を兼ね備えており、バイラテラル遠隔操作や日常的な作業ができる汎用ロボットの研究に用いられている。またヤマハ発動機とも提携し、産業用ロボットも開発している。
このような先端ロボット開発で培った技術を切り出してソリューションとするのが同社のもう一つの方向性で、現在は製造業や物流、インフラなどを対象としている。たとえば野村不動産の物流に係る企業間共創プログラム「Techrum
」にも参加している。
GTPに乗り出すきっかけとなったのは2022国際ロボット展で出展していたパレタイジングロボット「モバイルグリッパ」から。リード顧客と議論するなかから、より人手を必要とするピッキング領域のソリューションを開発しようとなったという。
■ 動画:
●真っ暗な倉庫で複雑な絵柄の箱もピッキング可能
1本腕モバイルマニピュレータ「Torobo GTP」試作Ver.1。今は既に4代目まで開発しているとのこと
「Torobo GTP」は、台車の上にアームを付けた、いわゆる「モバイルマニピュレータ」型のロボットだ。まだ試作段階だが、試作機の本体幅は620mmで、適用可能な通路幅は90cm。ロボットはアーム先端のカメラを使って商品(箱)を認識して、吸着式ハンドを使って本体のお腹の部分に積んでいく。1箱あたりの重さは10kg-15kgを想定している。
デモの様子。実際には真っ暗な状態でピッキングできる
「Torobo GTP」は真っ暗な状態で24時間動かすことができる。たとえば靴箱のような箱単位の商品を棚から取り出して移動ラックに入れたり、逆に移動ラックに入れた商品を棚に戻したり、コンベアのソーターに投入したりできることから、夜間に入ってきたオーダーについてはロボットだけで作業させておき、所定のピッキングステーションに商品を準備した状態にしておいて、朝に人が出勤してきたら出荷用の棚に集まっている商品から出荷作業を行うといった活用も想定している。
なお、人による作業場(ピッキングステーション)での箱の吐き出しについては、一個一個をアームで取り出すのではなく、一気に吐き出す方法も検討して、処理速度を上げたいと考えているという。
また、黒い箱や複雑な絵柄、光沢ある箱の認識は一般に難しいが、深層学習を使うことで、それらも問題なくピッキングできることを確認している。
●人協働しないことで生産性を上げる
最大移動速度は5m/s。「かなりビュンビュン走る」という
もう一つの特徴は最大5m/s(時速18km程度)と高速移動できるところ。前述のように、これはAMRのような人との協働作業ではなく、「無人化による完全自動」を想定しているため。「人協働だと生産性が低すぎる」というのが坂本氏の考えだ。
「箱搬送」と割り切った仕様にしているのも、スループットを上げるためだ。保管効率もシャトルには負けるが3.3mまでの棚には対応できる、ピッキング用AMR(人協働ロボット)のように逐次導入が可能など、省人化効果、処理速度、保管効率、初期費用などの各要素で「程よく全体的に優れている」のが「Torobo GTP」の利点だという。
実際に走行させると「かなりビュンビュン走る」そうで、これまでに6社と話をし、そのうち4社と実証実験を行えているなど「食いつきはいい」そうだ。
なお高速移動のため独自のマーカーを棚に張っている。特殊な1次元のマーカーで、棚に貼っているN個のマーカーをステレオカメラで見ることでIDが分かり、そこから位置がわかる。文様のようなので「忍者マーカー」と名付けている。
独自の「忍者マーカー」を棚に貼ることで安定した高速移動を可能に
●日本初のGTPソリューションを盛り上げたい
倉庫内ピッキングのグローバル市場規模
このほか、ハードウェアだけではなく、効率良い出荷のために、どのような順番でオーダーをさばくと効率的に作業できるのか、そのためのアルゴリズム開発なども進めている。
「Torobo GTP」は5月から実地での検証を行い、来年の4月くらいからの順次導入を行いたいという。大雑把に計算すると、1000坪程度のフロアに12台のロボットを導入することで概ね10人のピッキング作業員の省人化が可能だという。コストに関しては未定だが、今のところは売り切り+サポート費用で考えているとのこと。
物流倉庫の自動化については、様々なソリューションがあるが、どれも一長一短ある。東京ロボティクスでは、「一気に自動化へ踏み切る勇気はなかなか出ない」というところ向けに部分的な自動化による逐次導入を提案していきたいという。
坂本氏は「荷主・自社物流、3PL、物流コンサルなど、まとまった作業者の作業を自動化したい人や新しいソリューションに興味がある人は是非ご連絡いただけると嬉しい。我々としては現場を見せてもらって繋がりを作りたい。そして日本初のGTPを盛り上げたい」と語った。