4年制大学でも「最短2年」で教員免許…教育現場に与える影響は?
文部科学省は、教員免許状を最短2年間で取得できる教職課程を、4年制大学でも開設できるよう準備を進めています。2022年12月の中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)答申を受けたもので、2023年度中に申請を受け付け、審査を経て2025年度から開設できるようにしたい考えです。教育現場にとって、どんな影響があるのでしょうか。教育ジャーナリストの渡辺敦司さんが解説します。
本来は短大卒を想定した「2種免許状」
まず、教員免許制度について確認しておきましょう。教員になるために必要な教員免許状は都道府県教育委員会が授与しており(全国で有効)、メインである普通免許状は、教職課程を持つ大学などで必要な単位を取得し、卒業することが必要です。
普通免許状は学位の種類によって、専修免許状(修士課程修了程度)、1種免許状(大学卒業程度)、2種免許状(短大卒業程度)に分かれています。必要な単位数は教育職員免許法上、1種が59単位以上、2種が37単位以上です。
最新の文科省の「2019年度 学校教員統計調査」によると、2種免許状の割合は小学校で13.2%、中学校で3.8%となっています(高校は専修と1種に授与が限定)。
「多様な専門性」持った人材を招くのが目的
もともと短大卒を想定していた2種免許状を、なぜ4年制大学にも拡大しようとしているのでしょうか。そのカギは、中央教育審議会答申で「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成」の項目に盛り込まれていることにあります。
答申では、データ活用やSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育、障害児発達支援、日本語指導、福祉、社会教育、語学力・グローバル感覚などで、教師一人一人が「強みや専門性」を高めることが必要だとしています。そうした分野を専門に学んでいる学部の学生にも教員免許を取りやすくして、教員になってもらおうというわけです。
現在、学校では1人1台端末の活用が広がり、使うごとに蓄積される豊富な学習ログ(履歴)を生かして指導を充実させる「教育データ利活用」が喫緊の課題になっています。人工知能(AI)をはじめとした科学技術・イノベーション(革新)の進展に対応するにも、理工系を意味するSTEMに人文的な教養(Art)も含めたSTEAMの素養を持つ人材が求められます。
一方で児童生徒は多様化が進んでおり、普通教室に在籍する発達障害や外国をルーツとする子どもたちに対応するためにも、多様な専門性が必要だというわけです。
「やりがい詐欺」に陥らない条件整備が不可欠
答申の当該項目には明記されていませんが、2年制教職課程の導入が、近年深刻化している教員採用倍率の低下や「教師不足」の解消策としても期待されていることが透けて見えます。
懸念もあります。保有する免許状が何であろうと「指導可能な範囲に違いはありません」(文科省ホームページ「教員免許状に関するQ&A」)が、公立学校の場合、給与には初任時から差が付けられています。そのため教育職員免許法では2種の保持者に、一定の勤務年数と追加の単位取得の上で1種を取得する「上進」を努力義務としています。しかし現状でも日常の忙しさなどから、なかなか上進をしない教員が少なくありません。
大学で教育以外の分野を専門に学んだ優秀な人材を学校現場に入りやすくしながら、「ブラック職場」ともいわれる現場の処遇を改善しないままでは、将来を担う子どもたちのために尽くしたいという人の「やりがい詐欺」にもつながりかねません。教員養成課程を経た人と同様、抜本的な教育条件整備とセットで改革を進めることが不可欠でしょう。