「安産」と「難産」の定義って?

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 妊娠・出産において一般的によく聞かれる「安産」と「難産」。ネット上では、出産を経験した女性からも「安産でした!」「難産で大変だった…」といった声が聞かれますが、一方で「安産と難産の基準ってあるの?」「お産にかかった時間?」など、疑問を持つ人も少なくないようです。

 出産時の「安産」と「難産」には、定義や基準といったものはあるのでしょうか。神谷町WGレディースクリニック院長で産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

医学的な定義は「ない」

Q.ずばり、出産における「安産」と「難産」の定義や基準は何ですか。

尾西さん「実は、『安産』や『難産』は医学的に定義があるわけではありません。一般的には分娩にかかった時間だけではなく、分娩時のトラブルの有無や、痛みの強さなどによって『安産』『難産』と分類することが多いです。

医学的には、陣痛が来てから実際の出産に至った時間を指す『分娩時間』が長過ぎることを『遷延分娩(せんえんぶんべん)』といいますが、その基準としては初産婦が30時間以上、経産婦が15時間以上とされています。

なお、帝王切開はそれ自体が難産というわけではありません。逆子の場合は、そのまま放っておくと難産になる危険性があるため、先に対処しているというのが正確かと思います」

Q.安産になりやすい人の特徴はあるのでしょうか。

尾西さん「出産が大変になるか、スムーズにいくかは3要素で決まるといわれています。その3要素とは、(1)娩出力(2)産道(3)娩出物(赤ちゃんや胎盤のこと)です。

つまり、(1)しっかり押し出す力や筋力があり、(2)産道がやわらかく、広がりやすく、(3)赤ちゃんが大き過ぎない―というのが、安産の条件といえます。3要素ごとに、より具体的な『安産になりやすい人の特徴』として挙げると、次のようになります」

(1)娩出力…若いこと、下半身の筋力がしっかりしていること
(2)産道…経産婦であること。骨盤が広いこと
(3) 娩出物…胎児の成長が正常範囲であること(妊娠中の過度の体重増加や糖尿病などは、赤ちゃんが大きくなり過ぎるリスクがあるため)

Q.一方で、難産になりやすい人の特徴はあるのでしょうか。

尾西さん「難産になりやすい人は、先述した『安産になりやすい人』とは反対で、次の特徴が挙げられます。

(1)高齢、筋力がない
(2)初産、背が低い、男性型骨盤(骨盤が狭い)、過度な体重増加(蓄積した脂肪によって膣が狭くなる)
(3)骨盤に対し、赤ちゃんが大きい

筋力や産道の伸びに関しては事前に把握することが難しいですが、赤ちゃんの成長が早過ぎることや、骨盤が狭いことなどは事前に分かります。そのため、難産になり得る可能性はある程度、出産前に把握することができます」

Q.妊婦さんが「安産」のためにできることはあるのでしょうか。

尾西さん「出産を迎えるまでに、妊婦さん自身ができることとしては、次の3点を参考にしてみてください。

(1)ウオーキングやスイミングなどで下半身の筋力をしっかりつけておく。呼吸を練習しておく
(2)ストレッチやマタニティーヨガで骨盤をやわらかくしておく。会陰マッサージをする(お風呂でオイルなどを使って出口の部分の伸びをよくしておく)
(3)過度な体重増加や妊娠糖尿病に注意すること

妊娠糖尿病も治療を行えば、赤ちゃんが大きくなり過ぎるということはないので、検査や治療をきちんと受けましょう」