「とまり木」と話題に…ファストフード店があえて“座りにくい椅子”を置くワケは?
3月中旬にマクドナルドの一部店舗に設置されている、丸太のような形をした一本足の椅子がSNSで話題となり、「止まり木」「座りにくそう」などの声が上がりました。また、大手カフェチェーンの中には、座板部分が硬い木で作られており、長時間座るのに適していない椅子が置かれていることもあります。
大手ファストフード店や一部のカフェがあえて“座りにくい”椅子を置くのはなぜでしょうか。飲食店専門経営コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。
経費削減などが目的
Q.大手ファストフード店や一部のカフェの中には、丸太のような形をした椅子や座板が硬い椅子など、あえて座りにくい椅子を置くケースもあるようですが、なぜでしょうか。考えられる理由について、教えてください。
成田さん「座りにくい椅子が置かれているのは、主に低価格帯の店など、客が『座り心地の良さ』を必要以上に求めない飲食店に多いです。そうした店では、店側が座り心地にこだわらず、機能性や利便性を重視した椅子や安価な椅子を設置するケースが多いと考えられます」
Q.大手ファストフード店や一部のカフェが座りにくい椅子を置くことに関して、ネット上では「回転率を上げるため」「長居されたくないため」といった声が上がっていますが、本当なのでしょうか。
成田さん「確かに、椅子の座り心地が悪いことで、食事が終わっても長居したくない気持ちにさせ、席の回転率が向上することはあります。
しかし、実際には、店内の雰囲気づくりや機能性、利便性、費用削減など総合的に検討して椅子を選んでおり、回転率を上げるためだけに座り心地の悪い椅子を設置することはないでしょう。もちろん、多くの場合、椅子による回転率の変化も判断材料にしていると考えます」
Q.では、飲食店は、必ずしもお金をかけて良質な椅子やテーブルを用意する必要はないということでしょうか。飲食店にとって、椅子やテーブルはどのようなアイテムなのでしょうか。
成田さん「良質な椅子を設置しても、その店の雰囲気やターゲット客に合わない場合は、リピート率が悪いなどの大きなデメリットになる可能性もあります。『座り心地が良い』とされる椅子は、導入費やメンテナンス費も高額になりますが、その店に合っていなければ費用をかけても無駄になります。
一方、『座り心地が悪い』とされる椅子の場合でも、角打ち(酒店の飲食スペース)がビールケースを椅子にすることがあるように、その店の雰囲気やターゲット客にマッチしていれば、雰囲気づくりや経費削減などのメリットとなり得るでしょう。
飲食店にとって椅子やテーブルは、その店の雰囲気、機能性、オペレーションの利便性、席効率など、さまざまな場面に影響を及ぼす重要なアイテムなのです」
Q.椅子やテーブルの選び方次第で、飲食店の売り上げに影響はあるのでしょうか。
成田さん「影響があるとは言い切れません。椅子の座り心地を含め、飲食店は料理の味や接客の質、店全体の雰囲気、居心地の良さなど、その店で味わえる『幸せの時間』の満足度に対して、客は料金を払っていると私は考えています。
例えば、安価に見える簡素で小さい椅子を導入することで、席数を増やしたり回転数を上げたりして、昨今の食材の仕入れ価格高騰の状況でも利益を確保し、値上げを最小限にとどめるというファストフード店の経営戦略を喜ばしく感じている客もいるでしょう。
飲食店は顧客満足度を高めるために常に新しい試みにチャレンジしていますが、椅子の座り心地も含めた満足度は人それぞれです。過ごしやすい季節になったので、自分に合った飲食店を探しに出掛けてみてはいかがでしょうか」