映画も音楽もネットで完結する時代なのに…レンタルショップのゲオが潰れるどころか急成長しているワケ
■急成長を遂げる「GEO」の運営企業
名古屋出身の戦略コンサルタントの鈴木貴博です。名古屋からスタートして全国区企業になり、元ベンチャー企業から東証プライム上場企業になったのが、CDやDVDのレンタルでおなじみの「GEO」を運営する「ゲオホールディングス」(以下ゲオ)という会社です。わたしの東京の自宅と最寄り駅の間にもネイビーと黄色の「GEO」の看板を掲げたお店があって、もう20年来このお店を使っています。
さて、あくまで個人の感想ですがここ10年ぐらいは、
「このお店、いつかなくなっちゃうんだろうな」
とか、
「なくなったら不便になるな」
と心配していたのです。映画も音楽もサブスク全盛の時代が来たので、レンタルなんて時代遅れになっているわけです。でもおじさん世代にとってはGEOのお店は何というか便利で心が落ち着く存在なのですよね。
そんなことから気になってゲオの決算を調べてみたのですが、驚いたことにゲオは大成長企業なのです。直近の2023年3月期の第3四半期決算を見ると、第3四半期売上高は5年連続の増収で前年比14%の売上増。営業利益は約114億円と前年同期比で倍増です。
■レンタル事業での売上はたった1割に過ぎない
ではなぜゲオは成長しているのでしょうか。実はというか想像通りなのですが、国内の音楽・映像レンタル市場はこの10年間で3分の1に縮小しています。ゲオ全体の売上でもレンタル部門は唯一の売上減少部門になっています。
しかし直近の第3四半期決算の売上構成を見るとレンタルはもはやゲオ全体の1割。売上の半分以上を占めるのがリユース事業です。具体的に言えば、今、GEOのお店に入ると入り口付近にずらりと並ぶのがiPhoneやiPadなどの人気スマートフォンやタブレットの中古端末。この中古販売がゲオの売上の主力になっています。
■パソコン関連商品はGEOで安く手に入れられる
さらに3割は新品商品の売上です。実は私が地味にGEOで買うのもパソコンやスマホ系の新品商品です。先日もマウスが壊れたので新しいのをGEOで買いました。ゲーマーのようにハイスペックなマウスが必要なわけではなく、仕事で使う普通の有線マウスが必要だったのですが、このような安価な周辺機器はGEOが近所では一番安いのです。
近所にはビックカメラやソフマップ、ドン・キホーテなど品ぞろえの多い競合店がたくさんあるのですが、DVD-RのようなメディアやスマホのUSBケーブルなど、とにかく「使えればいい」感覚の消耗品であればGEOは「最安値商品」を探すには近隣最強のお店だと言えます。ここはこの後に説明するポイントとも関係するので覚えておいていただきたい特徴です。
■スマホと衣料品のリユースでレンタル事業を補塡
さて、もうひとつゲオの成長に関して重要なのが、ゲオが運営する2nd STREET(セカンドストリート)という衣料品のリユース業態の成長です。2nd STREETの店舗数は国内787店で、GEOの1098店に迫る勢いです(いずれも2022年末現在)。
この2nd STREETはリユース衣料や服飾雑貨のリユース店としては国内トップシェアです。実は私も練馬の2nd STREETを断捨離に使っているのですが、週末に行くととてもにぎわっています。
ここまでの情報をまとめてみると、ゲオが成長している秘密は、レンタルは凋落したけれどもリユースが伸びているという点にあります。さらに面白いことにリユースでもブランド品とゲームは横ばいなのです。それをカバーする商材として衣料が伸びてスマホも堅調。この構造でトータルではゲオが成長企業になっているわけです。
さらっと流しましたが、重要な点を2点捕捉します。「売上横ばいのゲームの中古販売」というのは実は市場が縮小するDVDレンタルと本質は同じビジネスです。
ゲームはレンタルが禁止されているので、安く遊びたい子供たちは遊び終わったゲームを(親の許可をもらったうえで)中古販売店に売ってそのお金で別の中古ゲームを買うようになりました。これがゲームのリユースビジネスの始まりです。つまりゲームもDVDレンタルも「同じニーズのビジネスだ」とひとつにくくって考えてもいいのかもしれません。
もうひとつ重要な点を捕捉しますと、ゲオではブランド品のリユースビジネスも横ばいです。これは世の中のトレンドと比較すると少し違う状況です。世の中ではブランド品のリユースビジネスは急成長していて、エルメスやシャネルの高級バッグがたくさん取引されて市場も拡大しています。
■Z世代と中年世代を捉えたゲオのリユース事業
ではなぜゲオではブランド品のリユースが横ばいなのか? おそらく客層の違いでしょう。私の自宅は日本有数の歓楽街である歌舞伎町に近く、新宿東口にはKOMEHYOや大黒屋といったブランド品を扱うリユース店が多く存在しています。
そういったブランド系のお店にも私はよく行くのですが、客層としては買う人はいわゆる富裕層、売りに来る人はあまり見た目で判断してはいけないのでしょうけれどもホストやキャバ嬢風の方が多いように感じます。これは要するにゲオの顧客層ではないのでしょう。GEOや2nd STREETの店内で見かけるお客はもっと庶民が中心です。
この庶民というキーワードであらためてゲオを捉え直すと、ゲオが成長する理由がよく理解できます。Z世代と中流ではない中年世代、このふたつの庶民層にとってゲオはライフスタイルにぴったり合った流通業態になっているのです。
■いらないものは売るZ世代にうってつけ
Z世代は持続的なライフスタイルに敏感です。昭和世代のような消費世代ではなく、必要なものを買い、いらないものはリユースに出す。商品を循環させることができるゲオのサービスは使い勝手がいいのでしょう。
中流ではない中年世代にとって節約は重要です。昨今の値上げラッシュでは生活防衛にはなおさら力を入れなければなりません。それでリユース品で家計の支出を抑えるというのは極めて自然な流れです。なにしろ日本の中古品は結構品質がいいのです。そして先述したように新品のデジタル周辺機器が地域最安値で手に入るというのも実はこの客層にフォーカスした品ぞろえとして理にかなっているわけです。
わたしの家族は全員、iPhoneはリユース品を使っています。昭和の世代なので基本的には新品を消費することに慣れている世代なのですが、iPhoneの場合はリユースでも新品感覚で使えます。きれいな状態のリユース品を買ってきてスマホケースに収めて、ガラスフィルムを貼って、バックアップしておいたデータを復元すれば新品と同じ使用感になるのです。それなのに新品よりもずっと安いので、iPhoneはリユースに限るとわたしは思っています。
■リユース市場の王「メルカリ」との差別化
そのリユース市場ですが、なんといってもリユース市場のガリバー企業はメルカリです。そのメルカリとゲオはどう比較すべきなのでしょう。
メルカリはあくまで仲介プラットフォームなので比較する数字はメルカリの売上(つまり手数料収入)ではなく取扱高(実際に個人間取引されている金額の総合計)で考えたほうが適切でしょう。最新年度同士の数字で比較するとメルカリの1年間の取扱高8816億円に対して、ゲオの売上高は3348億円です。
そう考えるとゲオは店舗販売ではリユース市場のトップですが、メルカリはオンラインのリユース市場でゲオの2.6倍の存在感を持っていることになります。メルカリにはゲオにない強みがふたつあって、高く売れることと自宅ですぐ売れることです。
ゲオのように実店舗があって従業員を雇えばそれなりに利幅を確保する必要があります。メルカリなら直取引なので、当然、メルカリで売った方が高く売れるわけです。しかもスマホで撮影したものが比較的早く売れるので、わざわざGEOや2nd STREETまで持ち込んで時間をかけて査定してもらう必要もない。確かにメルカリは手軽です。
■世の中には「高く売れなくてもいい層」がいる
ただここから感じることですが、高く売ろうと思わない人が世の中には結構いて、そのような消費者層にとってはGEOや2nd STREETの方が結構手軽なのです。私も断捨離のときにはそのような考え方になるのでよくわかるのですが、とにかくもったいないというか作った人に申し訳ないので捨てるわけにはいかない。ブックオフに本を売りに行くときも考え方は同じです。
ですから大きな袋一杯の洋服の買取価格がたとえ数百円にしかならなくても、買い取ってもらったほうが気分がいい。それにメルカリだと取引相手とのダイレクトなやりとりで多少のストレスも感じますが、GEOや2nd STREETにはそれがないわけです。
そう考えるとゲオが成長企業だというのは非常によく理解できます。世の中にはリユースに対するニーズが増えていて、GEOや2nd STREETはその中の「店舗で売り買いしたい」というニーズにマッチしたトップ企業なのです。
■レンタルは「来店を促すための武器」
最後に、わたしが一番気にしている「GEOのレンタルはなくなっちゃうの?」という心配についても考えてみたいと思います。
実はゲオは「縮小市場であってもレンタルに力を入れる」という戦略的な意義を表明しています。実はレンタルにはGEOへの来店を促す力があるのです。
ゲオによればGEOの店舗にいつも客がたくさんいる理由がふたつあって、ひとつは強化商品であるiPhoneを高く買ってくれること、そしてもうひとつがレンタルが存在することだといいます。リユースや新品の商品が売れるためには店がにぎわう必要があり、店がにぎわうためには客が定期的に足を運ぶ理由があったほうがいい。その観点で考えるとDVDレンタルは店がにぎわうための強い武器になるのです。
■ゲオはレンタル市場の残存者利益が確保できる
しかもDVDレンタルに関して言えば経済理論でいう残存者利益が確保できそうです。これも先述した通り、世の中では10年間で音楽・映像のレンタル市場は3分の1に縮小しています。その一方でGEOのシェアは49%とほぼ市場の半分にまで到達しています。
近場でたくさんの品をそろえているレンタル店がGEOしかなくなってくれば、市場が縮小したとしてもお店は繁盛します。しかもGEOではレンタル用の在庫を市場縮小に合わせて圧縮していて、現在では8年前の3分の1まで負担を減らして対応しています。私はGEOのオンラインレンタルもよく利用しますが、オンラインレンタル店では人気アーティストの音楽CDはいつも誰かに貸し出し中です。つまり在庫の回転率がとても高くなっているのです。
このようにストリーミング主流の時代にもかかわらずゲオは企業として大いに発展をしているのです。このように捉えると企業経営って面白いですよね。
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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)