「神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール」内部の様子(写真:同施設の公式サイトより)

ご質問にはお答えしかねます――。何か不祥事が起きた際、その対応についての回答を拒否する「スルー対応」は、企業にとって命取りになりかねません。

兵庫県の「神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール」において、施設内の視覚障害者のための点字ブロックの中に、アンパンマンの顔が刻印された点状突起が交ざっていた問題。本件でもスルー対応が批判の的となってしまいました。

まずは今回の問題を振り返りましょう。

同施設では、さまざまな場所の点字ブロックに“隠れアンパンマン”のような仕掛けがあり、それを発見するのが子どもたちにとって1つのゲームのようになっていました。宮城県の「仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール」にも同じ仕掛けが施されています。


仙台のアンパンマンミュージアム。入り口にも点字ブロックが設置されている(東洋経済オンライン編集部撮影、一部画像加工しています)

この仕掛けは、訪れた子どもたちを楽しませたことでしょう。ただ、点字ブロックは遊戯設備でも装飾品でもなく、目の不自由な方のための安全誘導具です。点字ブロックの中に隠れているアンパンマンを探すため、子どもがしゃがみ込んでいると、視覚障害者の誘導がふさがれるだけでなく、子どもにつまずく危険性もあるという指摘の声が上がったのです。

これを受けて3月8日にインターネットニュースがミュージアムに見解を求めたところ、その約1週間後の13日に「ご質問にはお答えしかねます」とミュージアム側は回答。これが報道されると、一気に批判が燃え上がりました。

企業はなぜ「スルー」してしまうのか

ユニバーサルデザインが求められる時代において、視覚障害者だけでなく、ミュージアムのメインターゲットである子どもたちにも危険がおよぶかもしれない仕掛けに、批判が起こるのは当然のことながら、驚くのはこの件についてのミュージアム側の対応です。

指摘に対して堂々と回答拒否を告げてしまうという、スルー対応が問題でした。炎上はどんどん燃え上がり、一気に批判を集めてしまいました。

この炎上の翌日、ミュージアム側から再度ネットニュースに連絡があり、質問された4点について回答が届いたということです。残念ながら、その回答をもってしても炎上状態は収まらず、批判は燃え上がったままです。

こうした炎上事件やトラブルにおいて、当事者が無視する「スルー対応」は危機管理コミュニケーションとしてどうなのか、考えてみたいと思います。

トラブルが発生した際、人はどんな対応をするでしょうか。

自分が迷惑をかけられた側であれば、即座に「怒る」「反発する」「声を上げる」など、シンプルに即レスすることでしょう。一方で、自分が“やらかした側”だった場合はどうでしょう。

自ら意図せずして起こしたトラブルには、即座に対応できないことは珍しくありません。「スルーしてしまう」のではなく、どうしてよいかわからずフリーズしてしまい、結果として何も対応できないというのは、かなりよくあることです。しかし、足を踏んだ側は覚えていなくとも、踏まれた側はそうはいきません。相手は被害を受けたと感じているのですから、当然何もしないでは済まないのです。

また、意図的にスルーする、つまり「黙殺する」という反応も1つの選択肢です。トラブルを起こした芸能人の中には、報道陣から“フルボッコ”にされるのが火を見るより明らかな場合、謝罪会見などは開かず、ひたすら黙殺して何も語らないという人もいます。しかし、逃げ隠れしたまま復活できた芸能人はいません。そのまま芸能界からもフェードアウトしてしまった人ばかりです。

「ミスはあってはならない」という精神論

2022年4月に発生した知床遊覧船沈没事故では、運航していた遊覧船会社の社長が、事故発生の4月23日から5日目にようやく会見を開いたという例があります。この社長はマスコミなどの取材にも応じず、事故当初は名前すらも出ていませんでした。

謝罪会見は、社長の土下座から始まり、終始要領を得ない受け答えや、ピント外れの質疑応答など、まったく事態収拾の意味をなさずに終わりました。

意図して時間を稼ぎ対策していたのだとしたら、もっと対応の準備ができたはずですが、残念ながら“中身がゼロ”といえる会見から想像するに、ただ逃げ隠れしていただけで、準備はできていなかったのでしょう。この会社の事業許可は取り消されました。

このケースとは違い、重大な人身事故が起きたわけではないアンパンマンミュージアムの一件ですが、黙殺は危機対応として悪手としかいいようがありません。

しかし、どれだけ注意していてもミスは必ず起こります。「ミスはあってはならないもの」ではなく、「どれだけ注意しても必ずあるもの」というのが危機対応の大原則です。

つまり今回の事件は、点字ブロックを遊具の一部としてしまったミスが端緒ではありますが、それは建築当時の過去のことです。いま急に注目されてしまったのは、その後の対応の失敗にあるといえます。危機対応コミュニケーションに失敗したことが、この炎上騒ぎの原因です。

子ども向け施設における安全性の優先度を理解していれば、最初に指摘された際、かなり敏感に対応しなければならなかったはずです。回答まで1週間も時間をかけたうえに、結局回答を拒絶してしまったことは最大のミスです。

その後の大炎上を経て、報道があった翌日に「順次ブロックを交換していく」といった回答は送られたとのことですが(3月16日には公式サイトのお知らせ欄にも「点字ブロックの件について」と掲載)、これは本来、ネットニュースの指摘前から寄せられていた利用者からの訴えにおいて、とうに実行されていなければならないことでした。

ニュースに出たから対応というのは、いかにも施設としての誠意や安全への感覚が疑われてしまいます。

子ども向け施設にとって、安全をないがしろにしているというセンスは、致命的ダメージのはずです。そこに思いが至らなかったとすれば、この組織が危機対応以前の問題として、適性を疑われてしまう重大事案といえます。対応を間違えれば、その存続すら危ぶまれるほどのダメージを負うのです。


「神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール」が3月16日に掲載した、点字ブロックについての説明文(写真:同施設の公式サイトより)

「ペヤングソース焼きそば」は初動に失敗したが…

クレーム対応は初動が命。スルー対応はその逆で、問題点先送りという、きわめてリスキーな対応です。何の回避にもなりません。ですが、今回のように初動で失敗してしまった場合、企業はどのような対応をすれば、顧客の信頼を取り戻せるのでしょうか。

クレーム・謝罪対応の数少ない成功例といわれるものに、「ペヤングソース焼きそば」のまるか食品の例があります。実はこの会社は、初動での対応には失敗しています。

製品に虫の混入があったと主張する消費者が、SNSに写真つきで投稿しました。それに対して会社は調査し説明をしたのですが、「虫混入の可能性は低い」という一方的なもので、さらには投稿を削除するよう圧力をかけたと報道されてしまいました。

ここから一気に批判が燃え上がり、会社は袋叩き状態になりました。クレームを拒絶し、圧力と取られる態度で接した初動の対応は完全に間違いで、その結果も大失敗だったといえます。

ここまではただの失敗例なのですが、まるか食品はここから持ち直します。再度調査を徹底し、虫混入の可能性を認めただけでなく、市場に出回る膨大な量の自社製品をすべて回収し、さらに製造ラインも止めて検査やプロセスの見直しに入ったのです。初動失敗後、同社は行動過程を公表していきました。

操業・販売停止期間は半年におよび、新たに生産プロセスの見直しにかかった費用は10億円ともいわれます。年間売り上げ80億規模(未上場企業のため報道による数字)と見られる同社にとって、かなりの出費です。しかし危機に際して、存亡をかけた巨大投資を行ったのでした。歴史ある古い生産設備は、近代的クリーンルームに変わりました。

巨額の投資は覚悟しなくてはならない

問題のあった製品の回収や検品のやり直しは、通常でもありえますが、全製品の見直し、さらに市場在庫まで回収という例は、ほかに類を見ません。業界・市場関係者からはもちろん、ネットユーザー、消費者からも「そこまでしなくても」という声が上がりました。

しかも市場やユーザーからは、店頭から消えてしまったペヤングソース焼きそばを早く食べさせろという声すら起こったのでした。

結果として、半年後の操業再開時には、これまでの3倍以上の受注を受け、それでも生産が間に合わず、さらに製造ラインを増設して対応しました。2021年には売り上げが150億を超えたと報道されています。

こうしてまるか食品は大逆転の成功物語となりましたが、危機管理上の観点では、結果的に大成功した同社でも、初動に失敗したことで10億の投資を余儀なくされたと見るべきだと思います。それに、失敗のツケが必ず回収される保証はありません。

三国志時代の曹操の軍師・郭嘉(かくか)は北方征伐において、「兵(軍隊)は神速(神の如き速さ)を尊ぶ」と敵の不意を突いての奇襲を進言し、軽装での突撃による電撃的勝利を果たしました。戦いにおいて「速さ」が大切なことは、古来いわれています。

危機との“戦い”においても同様だと思います。初動での迅速な事態収拾は絶対的に欠かせません。スルー対応はリスクを増やすことはあっても何一つ成果をもたらさないといえるでしょう。

「コールセンター」の対応も企業からのメッセージ

アンパンマンミュージアムの例に戻ります。

初動対応において、「スルーという判断をしたのは誰なのか」がカギです。コーポレートイメージに直結するリスクをはらんだ問題を見抜けなかった責任があります。

つまりは経営責任だと私は考えます。利用者の子どもや目の不自由な方に事故があれば、もはや存続できなくなるほどのダメージになるという想像力を働かせる責任が問われています。現場のクレーム処理の1つにすぎないとして関与していなかったとすれば、こうした施設の運営責任は果たせていないでしょう。

クレームや問題発生の情報を吸い上げる仕組みは、きわめて重大です。そして、そうした危機の芽の可能性があれば、とにかく素早く、“神速”をもって対応できることが「危機対応」です。

その危機対応は、今回のようなSNSやメディアによって拡散された大がかりなクレームだけでなく、例えばコールセンターに寄せられたものへの対応なども重要となります。

「アフターサービスNo.1」や「顧客満足度」をアピールする広告をよく見かけますが、実際にはコールセンターの電話番号すら開示していない、という企業があります。ようやく見つけた連絡先に電話しても有料のナビダイヤルに回され、しかもコールセンターは常時パンク状態で長い時間待たされるということは珍しくありません。

まずはご自身の会社がどこまで危機対応できているかどうか、ぜひアフターサービス部門に電話で問い合わせしてみてください。そもそも電話番号が見つからない、などということも含めて、その対応が貴社がユーザーに発しているメッセージとなるのです。

(増沢 隆太 : 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家)