SpaceXによって日本時間2023年3月15日午前9時30分に打ち上げられた無人宇宙船「Dragon」には国際宇宙ステーションの船外活動機器や食料のほか、実験室で培養した人間の心臓の組織モデルである「心臓オルガノイド」が搭載されています。このモデルは、既存の薬品が宇宙飛行の際の心臓への悪影響を防止または好転させることに役立つかを確認する実験に使用されます。

NASA Sets Coverage for Next SpaceX Resupply Launch to Space Station | NASA

https://www.nasa.gov/press-release/nasa-sets-coverage-for-next-spacex-resupply-launch-to-space-station-0

Engineered Heart Tissues-2

https://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/experiments/explorer/Investigation.html?#id=8801

Beating 'hearts on a chip' will travel to space on SpaceX's Dragon cargo ship tonight | Live Science

https://www.livescience.com/beating-hearts-on-a-chip-will-travel-to-space-on-spacexs-dragon-cargo-ship-tonight

SpaxeXのDragonは同じくSpaceXの打ち上げロケット「ファルコン9」に搭載され、日本時間2023年3月15日午前9時30分に打ち上げられました。





Dragonには人間の組織や臓器の機能を模倣する人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含む、拍動する小型の心臓のモデルである心臓オルガノイドが搭載されており、アメリカ国立衛生研究所と国際宇宙ステーション国立研究所が共同で実験を行います。

心臓オルガノイドは液体で満たされた容器の中に収縮する心筋細胞が2つ格納されています。これらの細胞は幹細胞から成長し、実験室内で3D形状に同軸化されたとのこと。また、この容器には心筋細胞が収縮する度に稼働する磁石が内蔵されており、センサーが磁石の動きを追跡することで、研究者は心臓の収縮をリアルタイムで観測できます。



この心臓オルガノイドは薬物応答に対する宇宙空間のような微小重力の影響を調査する「Cardinal Heart 2.0の実験の一部として取り扱われます。「Cardinal Heart 2.0」の概要は以下のムービーで示されています。

SpaceX CRS-27 Research Overview; Cardinal Heart 2.0 - YouTube

これまでのNASAの研究では、宇宙空間のような微小な重力下では、地球の重力下とは異なり、体の上部に位置する心臓が全身に血液を送り出すためにそれほど激しく動く必要がないため、宇宙に滞在している場合、心臓が収縮するという可能性が示されてきました。また微小な重力下では血液が足や腹部から、頭や胴体に移動することから、心臓の形状が変化する可能性が示唆されています。

ジョンズホプキンス大学のデビン・メア氏は2020年3月にも心臓組織を宇宙に送り、その際に細胞内のミトコンドリアが機能不全になる兆候を発見しています。今回の実験では、微小重力下でのミトコンドリアの機能不全に関する研究だけでなく、既存の薬品を投与することで、この問題に対処できるかどうか調査を行います。



また、心臓オルガノイドに対し、心筋梗塞や脳血管障害の発症リスクを低減するスタチンや高血圧治療薬を投与した際に微小重力のストレスから心臓細胞を保護できるかのテストが行われる予定です。これらの研究は将来の宇宙探査に重要な意義を持つだけでなく、地球上で発生する心機能障害や病気の治療法の新たな発見につながる可能性があるとされています。

心臓オルガノイドなどを搭載したDragonは日本時間2023年3月16日20時52分に国際宇宙ステーションとドッキングを行う予定です。