超古典的な「気球でスパイ」現代でも本当にイケた…? 「中国気球事件」、なぜ米国は今撃墜したのか
人工衛星や高々度偵察機が使われる現代、中国が米上空で「スパイ気球」を飛ばしました。日本でも同様の気球が出現した例もありましたが、米国はなぜこのタイミングで撃墜したのでしょうか。
実は「知らぬふり」をしていた…?
米国が2023年2月4日、領海上空を飛んでいた中国の「スパイ気球」を撃墜したことで、2国の緊張関係が高まりました。この事件は、気球という古典的な軍事手段が、人工衛星や高々度偵察機が使われる現代であっても有効であると示す結果となったといえるでしょう。そして、ここ日本では、数年前にこれと似た気球が目撃されています。日本は、今回の事件をどう捉えるべきなのでしょうか。
撃墜されたのち回収される「中国スパイ気球」(画像:アメリカ海軍)。
気球は古くから偵察や観測手段として使われていましたが、第2次世界大戦以降は、高度1〜2万m以上の高さを飛ぶ、ジェット偵察機が使用されることが一般的になりました。しかし、1960年に旧ソ連上空で米国のスパイ偵察機U-2が撃墜され、操縦士がソ連に捕らわれています。
こうした危険を避けるため、次第にこうした偵察任務は人工衛星が取って代わります。長時間滞空できる無人機も加わり、現在は互いに、これらがカバーしあいながら活動しています。そうしたなか、今回の「スパイ気球」の活用は、ある意味レアな事例といえました。
そして、冒頭のとおり、2020年6月や2021年9月に、宮城県と青森県の上空で、これとほぼ同種と疑われている気球が目撃されています。日本での気球は結局、誰がなぜ飛ばしたかは不明と結論付けられていますが、十字形の部品をぶら下げたそのルックスは、アメリカで撃墜されたものとソックリです。
ただ、日本での目撃例も合わせると、以前から中国は継続して気球を飛ばし、そのことを米国も早くから知っていたと見られます。過去に見逃したものあったと伝えられている反面、米国はこれまであえて公にせず、“知らぬふりをしていた”とも推測できます。この行動は、中国の目的を知るためであったと考えられるのです。
今回の「中国スパイ気球」事件、ひとつの仮説とは
米国内でどの地域を飛んだか継続して観察することで、中国がなにを観察したいかを知ることができます。ミサイル基地の上空などを飛んでいれば、その関連施設を重点的に偵察している――といった具合にです。気球が古典的な手口なら、手口を絶え間なく、いわゆる定点監視するのも、諜報戦の古くからのセオリーです。
もちろん、泳がせておくことで中国も情報は得ることはできますが、米国にとってもあらかじめ到来をキャッチできているのであれば、本当に秘匿すべきものを隠しておき“逆偵察”することは可能でしょう。
米国は2001年の同時多発テロ発生時、直ちに全土の空港を閉鎖しました。それほど本来この国は、防空態勢に敏感なのです。この先例も重ねると、 “逆偵察”説は有力視できるもののひとつです。今回この対応を余儀なくされたのは、目撃者と共にTVニュースなどで大きく報じられてしまったためであるとみることもできそうです。
現在両国は緊張感のある牽制をしあっていますが、先述の前提が正しければ、筆者は今回の事件は、早期に幕引きが図られると見ています。
中国は諜報活動の実態をこれ以上明らかにされるのは好まないでしょうし、一方、米国も野党の追及を長引かせ、これまでの実態を明らかにしたくないと考えるでしょう。――となると、お互いに“手の内をさらす”前に終結させたいと、早めに手を打つのではと予測できるのです。
さて、かつて目撃例もあった日本では、他人事と思わず、新たな対応方法を模索する必要性がありそうです。
中国が「スパイ気球」を日本へ飛ばす可能性は、今後も十分に考えられます。できれば、何を探っているのか監視するのがもっとも有効ですが、米国で見つかった気球は重さが1tを超えるとも。国土の狭い日本であると、地上に落下した場合の被害も予想されるところです。そうなると、こういった活動には、毅然とした対応を示す必要もあるでしょう。
今回の事件は、日本にも、安全保障体制をより確かに築くべき現状を教えたと言えます。