Kiwi Farmsは、ドクシングと呼ばれる晒(さら)し行為やオンラインストーキング、さらにはオフラインでの嫌がらせを駆使して複数の被害者を自殺に追い込んでいる嫌がらせ特化のインターネット掲示板です。そんなKiwi Farmsが誕生した経緯や、これまでに犠牲者に行ってきた中傷行為などを、非営利の調査報道団体・Mother Jonesがまとめました。

The Website That Wants You to Kill Yourself-and Won’t Die - Mother Jones

https://www.motherjones.com/politics/2023/02/kiwi-farms-die-drop-cloudflare-chandler-trolls/

Kiwi Farmsでは、ターゲットとなった人物が自殺することを「キルカウント」と呼んでおり、これまでに少なくとも3人が犠牲になっています。確認されている被害者の1人目は、Kiwi Farmsにプライベートな写真をさらされて2016年に自殺した当時19歳のジュリー・テリーベリーさんです。その2年後には、インディーゲーム開発者のクロエ・セーガルさんがKiwi Farmsによる嫌がらせに耐えかねて、ポーランドの公園で自分の体に火を付けて亡くなりました。



さらに、2021年6月には日本在住のゲームエミューレーター開発者であるNearことデビッド・ギンダーさんが、Kiwi Farmsの嫌がらせキャンペーンで命を落としました。「私はずっといじめられ、あざ笑われ、辱めを受けてきました。4chanの時は重度のうつ病になっただけですが、Kiwi Farmsの嫌がらせは桁違いです」とネットで公開した遺書で訴えたギンダーさんに対し、Kiwi Farmsのユーザーは「Kiwiのキルカウントが+1されるぞ」と喜んだといわれています。

Kiwi Farmsが報道機関に取り上げられる際は、「極右フォーラム」と紹介される傾向がありますが、これは不完全な説明であるとのこと。なぜなら、Kiwi Farmsのメンバーはドナルド・トランプ元大統領や白人至上主義者の極右活動家であるニック・フエンテス氏といった人物を愛する一方で、「cringe(イタい)」という理由で憎んでもいるからです。

Kiwi Farmsではターゲットを「lolcow(からかいがいのある人)」と呼んでおり、トランスジェンダーのTwitch配信者や問題を抱えた10代の若者、陰謀論者として有名な極右派下院議員のマージョリー・テイラー・グリーン氏などがしばしば嘲笑の対象となっています。このように、Kiwi Farmsのユーザーが女性、有色人種、神経障害者、性的少数者を標的にするのは、政治的な理由だけでなくソフトターゲットであること、つまり弱い立場で狙いやすいターゲットを必要としているからだとMother Jonesは指摘しました。



Kiwi Farmsが大きく注目を集めるようになったきっかけは、2022年8月にKeffalsとして有名なTwitch配信者でトランスジェンダー活動家のクララ・ソレンティ氏がKiwi Farmsのターゲットになった際の一連の報道です。

Kiwi Farmsによるスワッティングの被害を受けたソレンティ氏は、カナダから国外への移住を余儀なくされましたが、Twitterのフォロワー約15万人、Twitchの視聴者5万人以上という強みを生かして「#DropKiwiFarms(Kiwi Farmsを落とそう)」とのキャンペーンを展開。Kiwi Farmsにセキュリティサービスを提供していたCloudflareに対してKiwi Farmsへのサービス打ち切りを要求しました。

そして、対立の過熱により人命に被害が及ぶことを危惧したCloudflareは、9月4日にKiwi Farmsをブロックしたことを発表しました。Cloudflareのマシュー・プリンスCEOは、同社への圧力キャンペーンがブロックの理由ではないと強調していますが、ソレンティ氏は「私たちは勝った。Kiwi Farmsは死んだ」と勝利を宣言しています。

Cloudflareが嫌がらせ特化型掲示板「Kiwi Farms」をブロック、LGBT差別が人命の危機に発展することを考慮 - GIGAZINE



by Web Summit

一度はオフラインになったKiwi Farmsですが、Torやロシアのサービスを利用するといった方法で復活を模索し、その後別のサービスプロバイダーを確保することで、記事作成時点でも活動を続けています。

そんなKiwi Farmsを支えている管理人はジョシュア・ムーン氏です。サイト上で「Null」というユーザー名で活動しているムーン氏は、フロリダ州ペンサコールで母親と一緒に暮らしているとのこと。

ムーン氏が有名になったきっかけは、2007年にSomething Awfulというオンラインフォーラムで、トランスジェンダーで自閉症のクリスティン・ウェストン・チャンドラー(Christian Weston Chandler)氏という人物が話題になったことです。チャンドラー氏が投稿した「Love Quest」というタイトルの日記や、「Sonichu」というピカチュウとソニック合体させたオリジナルキャラクターのお世辞にも上手とは言えないイラストは、ムーン氏らSomething Awfulユーザーから嘲笑の的にされました。

チャンドラー氏へのバッシングの中で中心的な役割を果たしたムーン氏らのグループは、2008年にチャンドラー氏に関する情報や投稿をまとめるCWCki(チャンドラー氏のイニシャルC.W.Cとwikiのもじり)というサイトを設立し、ほどなくしてチャンドラー氏以外の人へとターゲットを拡大していきました。そして、2013年にCWCki Forumsを設立し、2014年にKiwi Farmsに改名しました。Kiwi Farmsというサイト名は、ターゲットになった言語障害者による「CWCki Forum」の発音をからかったものだと言われています。



こうして活動拠点を固めたムーン氏らKiwi Farmsユーザーは、チャンドラー氏への周到な嫌がらせの中で、ターゲットとなった「lolcow」を追い詰める手法を確立していきました。例えば、チャンドラー氏についての情報を集めるため、Kiwi Farmsユーザーらはジャーナリストを装ったり、チャンドラー氏の元クラスメートや精神科医などのふりをしたりして、チャンドラー氏や同氏の身近な人々に接触を図っています。

また、前述のソレンティ氏が嫌がらせを回避するために住所を変えた際にも、Kiwi Farmsユーザーはすぐさま新しい居場所を突き止めて、ソレンティ氏のデッドネームで宅配ピザを注文する嫌がらせを行っています。居場所を変えた直後、ソレンティ氏はSNSに「ベッドの上にいる猫の写真」をアップロードしましたが、この写真に写っているシーツがホテルを特定する手がかりになってしまったのではないかと、ソレンティ氏は話しました。

ターゲットを発見したKiwi Farmsユーザーはその後、ドクシング、脅迫、家族への連絡、ソーシャルメディアのアカウントの乗っ取り、携帯電話のSIMカードのハッキングなどを駆使してターゲットを攻撃し、失業させようとします。そして、精神的・経済的に追い詰めることで最終的に自殺へと追い込みます。

あるKiwi Farmsユーザーは、サイトの精神を次のように表現しています。「インターネットにバカなことや恥ずかしいことなどを書き込んだら、それは永遠にインターネットに残り、私たちの物になります。そして、もしそれらを掘り起こして笑いたくなったら、そうします。もし、あなたがそのことを気に病んだら、私たちは心からあなたを愛し、あたなも私たちの物になります。私たちは、そのうち飽きてやめるかもしれないし、激しく遊びすぎて壊してしまうかもしれません。それでも私たちはそれを手放さないし、いつかそれを思い出して、また取り出すことができます。さあ、私たちのものになりませんか?」