「財務力が強い上場企業」300社ランキング
昨年2位から上昇した中外製薬(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
ESG(環境・社会・企業統治)投資が広がる中、非財務情報の評価に注目が集まっている。ただ、私自身も長年、非財務情報の評価に携わってきたが、これだけで企業の力を判断するのは「正直、難しい」というのが本音だ。やはり企業は「財務力を基本に見ていく必要がある」と考えている。
この企業の財務面の総合力を見るために作成しているのが「東洋経済財務力ランキング」だ。今回は17回目の発表で、成長性、収益性、安全性、規模の4つのカテゴリーで、それぞれの財務指標(3年平均)を多変量解析の「主成分分析」で相対評価。各得点を合計して作成した。
使用している財務指標は財務諸表分析では、基本的な項目が中心。このうち収益性、安全性、規模の3つの得点は「東洋経済CSR企業ランキング」の財務得点としても使用している。
対象は2022年9月1日に上場している一般事業会社(銀行、証券・先物、保険、その他金融は除く)で、2022年3月期までの財務データが1期以上取得可能な3625社だ。今回は、このうち上位300社をご紹介する。なお上位1000社は4月発売の『CSR企業白書』2023年版に掲載する予定だ。
ランキング1位は中外製薬
昨年発売した『CSR企業白書』2022年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします
ではランキングを見ていこう。初のトップとなったのが、昨年2位から上昇した中外製薬(3895点)。成長性947点、収益性948点、安全性1000点、規模1000点といずれも高得点。12月決算のため、2021年12月期までが対象となっている。
売上高は2018年12月期の5797億円が3年後の2021年12月期には9997億円と72.4%増加。純利益は同じく924億円から3029億円に3.28倍となっている。売上高営業利益率、ROE、ROAなど利益率の高さで大企業が少し苦手とする収益性得点も高レベルとなっている。
政府買い上げのコロナ治療薬「ロナプリーブ」が貢献し、2022年12月期も増収増益で最高益の見込み。3年平均のデータを使用している本ランキングでは、次回もトップ維持となる可能性は高そうだ。同社はESG関連の評価でも「東洋経済CSR企業ランキング」をはじめとしてトップクラスが多い。財務とESGを両立するエクセレントカンパニーとして評価が高まっている。
2位は東京エレクトロン(3848点)。成長性901点、収益性947点、安全性1000点、規模1000点と高得点がずらりと並ぶ。半導体製造装置で世界3位の同社はもともと高い安全性、規模が今年も満点。売上高も2021年3月期の1兆3991億円が2022年3月期には2兆0038億円と43.2%上昇するなど成長性が901点と昨年797点から上昇し、順位も上げた。
3位は昨年まで2年連続1位だった任天堂(3844点)がダウン。成長性897点、収益性947点、安全性1000点、規模1000点。2022年3月期の総資産2兆6623億円のうち現金預金が1兆2065億円を占める「超キャッシュリッチ」は健在。自己資本比率77.7%、有利子負債ゼロといった安全性の高さを示す指標は数多い。
ただ、2022年3月期の売上高は1兆6953億円で昨年比3.6%減と急成長は一服し、成長性は昨年950点から897点に低下。売上高営業利益率35.0%、ROE23.0%など収益性指標は高レベルを維持しているものの3年連続トップはならなかった。
大きく順位を上げた企業は?
4位は昨年9位から上がったZホールディングス(3744点)。成長性944点、収益性888点、安全性942点、規模1000点で収益性が若干劣るが、バランスよく得点した。
5位はキーエンスと信越化学工業の2社が3754点で並んだ。成長性は信越化学工業、収益性はキーエンスが上回った。
以下、7位リクルートホールディングス(3752点)、8位は住友金属鉱山と日本郵船の2社(3744点)、10位村田製作所(3730点)と続く。日本郵船は運賃上昇などの効果で売り上げ、利益とも急拡大。昨年156位から8位に急上昇となった。
ほかに11位以下で大きく順位を上げたのは、93位→16位のルネサスエレクトロニクス、149位→42位のオリンパス(3617 点)、125位→63位のシマノ(3589点)などだった。
続いて、各業種のトップ企業をいくつか見ていこう。水産・農林業/鉱業/建設業は17位積水ハウス(3678点)が24位INPEX(3660点)、31位大和ハウス工業(3643点)を抑えトップ。食料品は58位JT(3598点)が92位味の素(3533点)などを上回った。医薬品は総合トップの中外製薬(3895点)が2位以下を大きく引き離す。
鉄鋼/非鉄金属/金属製品は8位住友金属鉱山(3744点)が首位。機械は11位SMC(3723点)が12位ダイキン工業(3714点)を僅差で上回った。
電気機器/精密機器は激戦。総合33位の富士通(3637点)が業種では10位となっている。輸送用機器は19位デンソー(3675点)、21位いすゞ自動車(3667点)、22位豊田自動織機(3665点)が上位。
電気・ガス業は32位大阪ガス(3638点)が61位東京ガス(3594点)とのガス一騎打ちを制した。情報・通信業は4位Zホールディングス(3774点)が44位KDDI(3613点)などを圧倒した。小売業は14位ファーストリテイリング(3703点)、37位ニトリホールディングス(3622点)が上位。
不動産業は39位三井不動産(3620点)を41位オープンハウスグループ(3619点)が猛追する。サービス業は7位リクルートホールディングス(3752点)が54位セコム(3600点)などを大きく離した。
過去のトップ企業はいずれも100位内に
最後に過去16回のランキングトップの現状をご紹介する。第1・2回トップの武田薬品工業は47位(3607点)。第3〜5回の3年連続と15・16回トップの任天堂は3位(3844点)。4年連続トップ(第6〜9回)だったINPEX(旧国際石油開発帝石)は24位(3660点)、第10・11回トップのSUBARU(旧富士重工業)は51位(3602点)と若干低下気味。第12・13回トップのZホールディングス(旧ヤフー)は4位(3774点)と過去のトップ企業はいずれも100位内に残っている。
『会社四季報』の予想によると、2023年3月期を含む今期の上場企業の業績は増収増益が続くものの、経常利益や当期純利益は大幅減益の見込み。しばらく続いた上場企業全体の好業績も一服となりそう。次回のランキングは企業間の実力差がはっきりしてくることも予想されそうだ。
●第17回東洋経済・上場企業財務評価(東洋経済財務力ランキング)について
東洋経済新報社「財務・企業評価チーム」が作成。アドバイザーは明治大学商学部の山本昌弘教授。東洋経済が保有する財務データを使い、多変量解析の主成分分析手法で成長性、収益性、安全性、規模の4つの分野で評価した。
対象会社は原則として2022年9月1日時点に上場している一般事業会社で、銀行、証券・先物、保険、その他金融を除き、各新興市場を含む。決算期は2022年3月期までが対象。財務データは上場後の決算で直近3期平均(最低1期は必要)を使用。指標データなどで分母がマイナスになり計算できない場合、その期は「計算不能」となる。
決算ベースについては、各期とも連結優先。ただし、連結開始や廃止などで連結と単独が混在する場合もある。また、変則決算がある場合は6カ月以上の決算期のみ使用。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などのフロー項目は12カ月に調整した。
分析手法として使ったのは多変量解析の主成分分析。この手法は多数の変数を要約し、少数の情報で全体の特性を代表させることができる。財務データのような多数存在する項目を少ない情報に集約でき、総合評価が可能になる。
主成分分析で求められた第1主成分得点を偏差値化し、異常値をならすために最大70、最小30に変換。さらに最高1000、最低500に調整して各分野の得点とした。4つの評価分野の各得点を合計したものが総合得点となっている(総合得点の最高は4000点)。
■ランキング算出に使用した財務指標
【成長性】売上高増減率、営業利益増減率、営業キャッシュフロー増減率、総資産増減率、利益剰余金増減率
【収益性】ROE(当期純利益÷自己資本)、ROA(営業利益÷総資産) 、売上高営業利益率(営業利益÷売上高)、売上高当期純利益率(当期純利益÷売上高)、営業キャッシュフロー
【安全性】流動比率(流動資産÷流動負債)、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)、固定比率(固定資産÷自己資本)、総資産利益剰余金比率(利益剰余金÷総資産)、利益剰余金
【規模】売上高 、EBITDA(税引き前利益+支払利息+減価償却費)、当期純利益、総資産、有利子負債
注)EBITDAの支払利息と減価償却費はキャッシュフロー計算書掲載の数字を使用
(岸本 吉浩 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)