出発する「ふたつ星4047」。発車する際は皆で手を振り旗を振るのが恒例行事 (肥前浜、撮影:久保田 敦)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2022年12月号「西九州在来線の今後」を再構成した記事を掲載します。

西九州新幹線が開業したその日、在来線にもいくつもの変化があった。焦点は新たな新幹線ルートの陰でメインルートではなくなった有明海沿いの長崎本線だ。沿線の必死の思いで生まれた特急列車と、否応なく現実を突きつけられる普通列車の気動車化。そしてもう1つ、これからの西九州に人を呼ぶために誕生した観光列車に乗ってきた。

西九州の海をめぐる白に金帯のD&S列車

諫早で待つこと30分。15時30分にやってきたのは「ふたつ星4047」だ。数字はヨンマルヨンナナと読む。新幹線開業により訪れる旅行者を、スピーディな新幹線やリレー特急から一転してスローな旅に誘う観光列車として誕生し、やはりこの日9月23日に運転初日を迎えた。

「ななつ星」が九州7県を示すと同様、「ふたつ星」は佐賀と長崎の2県を指す。「西九州の海めぐり」をコンセプトに、朝10時22分に武雄温泉駅を出発し、江北から有明海を眺める長崎本線に転進、肥前浜や多良、小長井にしばし停車し、さらに諫早からは大村湾に出合う長崎本線旧線経由で長崎へ向かい午前便を終了。それから午後便として長崎を14時53分に発車し、諫早へはやはり旧線を経由し、さらに大村線に入って早岐、17時45分に武雄温泉駅に帰着する一周のコースを、いずれも3時間弱でたどる。


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金土日月曜日と祝日を中心に運転し、「36ぷらす3」のようなツアー商品主体ではなく、一般の特急列車としての扱いで特急券(指定席)を買えば乗車できる。停車駅間の区間乗車もOKで、諫早から早岐へと乗ることにした。

車体は雲やヨットのイメージと言うくすみのないパールホワイトで、橋上駅舎の下の薄暗いホームでドアが開かれると、これまでのJR九州の観光列車(D&S列車と称する)同様に、温もりに満ちた内装を照らすグローブライトの明かりが一気に溢れ出す。15分の停車時間が設けられ、出迎えた諫早市職員やJR九州社員が記念品を配っているから、大勢の乗客も飛び出して来る。

キハ40形とキハ47形の3両編成だが、エンジンを更新した際に形式の数字を改めた140形・147形が2両を占める。今回の「ふたつ星」となる前は肥薩線で「はやとの風」や「いさぶろう・しんぺい」としての車両だったが、熊本豪雨の水害で運行できなくなり、「はやとの風」については2022年3月で列車廃止となった。


パールホワイトの車体に金帯が美しく光る。その帯はチタン製ゆえに海辺を走り続けても輝きが失せないという (江北ー肥前白石間、撮影:久保田 敦)

そのため計3両を転用し、内外装を一新して再登場させた。それを思うと波乱に満ちているし、肥薩線の光景を思い出すと心に痛いが、格段にゴージャスになった姿はまた新たな命が吹き込まれたようだ。

旧番をたどれば長崎方の1号車がキハ47 8092、2号車キハ140 2125、3号車キハ147 1045で、それがキハ47-4047、キシ140-4047、キハ147-4047と、車両番号をそろえた形で改番されている。また、2号車の“キシ”は、定員外のラウンジ車として飲食を提供する基地を持つことから記号も変わったが、食堂車とは言えず、多目的なイベント用車両と言ったほうがなじむ。

列車とコーディネイトした姿の客室乗務員がハンドベルを打ち鳴らすと、諫早を15時45分に発車する。車内は、長崎出発からはすでに1時間を経ているのに右往左往の態。内装・調度にこれでもかと仕掛けを施した水戸岡デザインのD&S列車は、乗客の好奇心を煽り立ててやまない。ましてや新幹線とも初運転のチケットを手に入れた“生っ粋の”人々だから、この場での高揚感は並みではない。

スフレを楽しみながら海辺の名所駅へ

分けても混雑していたのは2号車ラウンジのカウンター付近で「長崎スフレの焼き上がりをお待ちのお客様です」と、客室乗務員。長崎は南蛮菓子由来の地。眼鏡橋付近に店を構える人気洋菓子店のイチオシ商品であり、長崎発の午後便で、それを列車内で焼き上げ提供している。それとあって時間指定の予約販売なのだが「〇時〇分でご予約のお客さま!お待たせしました!」と、行列を前にしててんてこ舞いの様子なのであった。バックヤードからトレーいっぱいに載せて出てくる菓子は、ふっくらと、香ばしい色をしていた。

在来線も新駅開業となった新大村では何百人もの人々の小旗やお手振りに見送られ、次は大村湾に最も近い千綿駅で10分停車する。「ななつ星」も停車時間が取られる大村線の名所駅だ。海を入れての列車撮影は大人気の構図で、入れ代わり立ち代わりの人垣がほどけない。以前はカレー店が営まれていた小さな木造駅舎は、花屋になって再スタートした。東彼杵の新名物にと若者が起業したという「くじら焼き」も売れている。そろいの法被の短大生からそのぎ茶のプレゼントをもらい、また大勢の人々に見送られた。

スフレの行列がようやく消えた2号車では、車内をいったんリセットした後、予約参加者を集めての体験イベントが開催されている。波佐見焼の皿に転写シールを貼ってオリジナルの飾り皿を作るという有料のお楽しみだ。奥の大型モニター画面からは、佐賀・長崎の観光キャンペーンと合わせてJR九州自らが展開するキャンペーンの標題「西九州開店」の文字が飛び出してくる。


欧風リゾートホテルを望むと「ふたつ星4047」はハウステンボス駅に到着。D&S列車に乗ると再訪したい気分もなおさらであり今後の活気が期待される(撮影:久保田 敦)

大村線の旅の終盤を飾るのは、日本離れした巨大な洋風の建物の風景だ。テーマパークのアトラクション乗り場のような装いのハウステンボスに停車すると、ここでもホテル従業員がフォーマルな制服に身を包み、持ち前の笑顔で小旗を打ち振りながら迎えてくれる。

かくして「ふたつ星4047」は、定刻の17時09分より少し遅れて早岐に到着した。しかし列車はこれより佐世保線に入り、朝のスタート地点の武雄温泉に戻ってゆくから、乗客のほとんどは車内に居続ける。それで逆に喧噪に惑わされず、金色の帯を巻く純白の車体を眺めることができた。改めて見ると金色の帯は、本当に輝いている。

今回の新採用技術は金色に輝くチタン

水戸岡氏デザインによるJR九州の列車は、これまでガラスや木など、近代型車両においてはタブーとされてきた内装材をふんだんに使い、さらに藺草や竹、組子など九州の伝統的産品を新幹線やD&S列車に採り入れ、大手中小関係なく九州を盛り上げることを意図して、独特の技術を誇る会社とコラボを図ってきた。


そこで今回、海沿いの列車ゆえに耐食性が高く、海や太陽を反射させる素材として採用したのがゴールドミラーチタンと言う。八幡製鉄来の伝統を誇る日本製鉄が、さらに同社と関連深いチタンの製造や研磨の会社を紹介して実現に至ったそうだ。ラウンジ車カウンターの前面にも、また別の先端技術による素材を採用して海面のゆらぎを車内に持ち込んでいる。

新幹線に対してゆっくりした旅を味わう列車は、初日はやはり昂奮の坩堝であり、何だかわからないまま約1時間半の乗車行程を終えて早岐駅で見送った。いずれ、落ち着いた様子を改めて味わいたい。折り返しYC1で新大村に戻り、西九州新幹線に乗り換えたら16分で長崎に着いた。

(鉄道ジャーナル編集部)