2022年で25周年となるオンラインゲーム・ウルティマオンラインには、当初レアアイテムが複製できてしまうという不具合がありました。ネットワークRPGの始祖の1つに数えられている本作では、技術的な制限を現代のブロックチェーン技術にも通じる巧妙なアイデアで解決し、最後には胸のすくような方法でチーターに制裁を下した歴史があるとのことで、その一部始終を元開発者が語っています。

That Time We Burned Down Players’ Houses in Ultima Online | by Tim Cotten | Oct, 2022 | Cotten.IO

https://blog.cotten.io/that-time-we-burned-down-players-houses-in-ultima-online-7e556618c8f0

元ウルティマオンラインの開発者であるティム・コットン氏によると、リリース当初のウルティマオンラインにはバグが大変多かったとのこと。そのうちの1つに、アイテムを複製することができる「Duping」というバグがあります。

このバグは、ウルティマオンラインのマップの処理を担当する「areaservs」と呼ばれるサーバー間のラグを利用したもの。ウルティマオンラインは、1997年当時としては破格の広大さを誇るマップで多数のプレイヤーが同時にプレイするため、マップを複数のエリアに区切ってそれぞれを別のサーバーで処理していました。そして、プレイヤーやNPCなどがエリアの境界をまたぐと、そのオブジェクトやイベントのデータをサーバー同士でやりとりしていましたが、どうしても遅延が発生します。そのため、エリアの境界ではアイテムが詰まったかばんを2人のプレイヤーが拾うことができるという不具合が起きてしまっていました。これが、Dupingの仕組みです。



by UOGuide - the Ultima Online Encyclopedia

コットン氏ら運営側も、プレイヤーの動きを予測してあらかじめ境界をまたぐオブジェクトのデータをまとめるシステムを構築するなどの対応を講じていましたが、根本的な解決はできなかったので対応は後手後手になりがちでした。

そこでコットン氏は、貴重なレアアイテムに取得日時やareaservのIDをタグ付けするというアイデアを思いつきます。「29bb546a415ff874e5129549fe8064249e8f1b2996fa2e7d52879d2ec24e06fd」というような長くて一見無意味な文字列に偽装されたタグをサーバーが識別すると、サーバーは「このアイテムはこの世界に1つしかないものだ」と認識します。そして、タグが再送信されてきた際にはそのアイテムに「I AM DUPED(私は複製されました)」と表示されるようにしました。ただし、この表示はカスタマーサービスの担当者にしか見えないようになっていたとのこと。

こうして不正に複製されたアイテムを特定することに成功したコットン氏らのチームは、得意満面で経営陣が出席する会議で報告しましたが、意外な反応に直面しました。それは、ゼネラルマネージャーの「複製したアイテムを削除してしまうのはいい考えではありませんね。たくさんのプレイヤーに被害が出てしまいます」という言葉です。

すっかりしょげてしまったコットン氏がカスタマーサービス担当からデータをもらって分析してみると、ゼネラルマネージャーの言葉が事実であることが分かりました。というのも、プレーヤーの中には不正に複製されたアイテムだと知らずに、苦労して稼いだゴールドでそのアイテムを購入した人も多かったので、不正アイテムを一斉に削除してしまうとチーターではないプレイヤーの苦労も水の泡になってしまうからです。

せっかく尻尾をつかんだチーターへの対応に頭を悩ませていたコットン氏らに、あるコミュニティマネージャーは「どうせチーターをBANしてしまうんだから、それをイベントにしてしまったらどうですか?」とアドバイスしました。そこで、コットン氏は以下のようなイベントを計画しました。

・チーターの家とその中身を即座に消滅させる。

・家があったのと同じ寸法の範囲に焼け焦げた「住宅のがれき」を出現させる。

・がれきの中に「永遠の火球」を出現させる。

・燃えるがれきの中に「An Effigy of a Traitor(裏切り者の像)」と書かれたわら人形を設置する。

日時を決めてイベントを実施した運営は、まずサーバーの更新と同時にチーターを一斉にBANしました。そして、コットン氏と同僚が書いたスクリプトを起動させて、チーターの家を火で燃やし尽くしました。



ウルティマオンラインの複数の「シャード(サーバー)」で一斉に何十軒もの家々が焼け落ちるという光景について、コットン氏は「詐欺師に対処するという私たちのチームの決意が具現化したようで、素晴らしい気分でした」と振り返っています。

不正をしたプレイヤーをさらすような行為を運営が行ったので、コットン氏らのイベントには少なからず反発もあったそうですが、運営上層部の手腕でなんとか切り抜けることができました。ただし、コットン氏らは上層部から「もう二度とやるな」と怒られてしまったそうです。

記事作成時点ではメタバースに取り組んでいるコットン氏は「非代替性トークン(NFT)をかじったことがある人の中には、レアアイテムに一意のハッシュタグを付けたこととNFTの仕組みが似ていることに気づいた人もいるかもしれません。皮肉なことに、私たちが行き詰まったのは、問題が『代替性のあるアイテム』だったからでした。しかし、サトシ・ナカモトはその問題も解決してしまったのです。私はオンラインゲームにブロックチェーンが必要だと言っているわけではありませんが、ブロックチェーン技術にはこのような使用例があったんですね」とコメントしました。