良い借金と悪い借金とは?

借金をしたとしても自分の資産を犠牲にせずに返せる目処が立つのであれば、それは良い借金といえます。一方で、返せる見通しが十分に立たなかったり、返すために資産を減らしたり、家計を切り詰めなければならなかったりする借金は悪い借金といえるでしょう。

良い借金:痛みを伴わずに返済できる借金

良い借金とは、自分の資産を減らすことなく返済を継続できる目処が立つ借金を意味します。

例えば多くの企業は借金をうまく取り入れてバランスシートを大きくしながら、より大きな規模のビジネスを行っています。たとえ借金が多くても、売上や利益をしっかりと出し、着実に負債を返済できる状況にある企業は、一般的に健全な経営をしているとみなされるでしょう。

また、金融業界ではPEファンドにおいてLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法で、ファンド資金+借入を活用して、より大きな規模の企業を買収して運営する方法が盛んにとられます。これらは業績や投資の成果から借金を返済できる見込みが高いため「良い借金」といえます。

個人の場合でも、投資収益や事業収益から借金を問題なく返済できるなら、その借金は良い借金といえます。不動産投資と不動産投資ローンの関係も同様で、資産を減らしたり家計を脅かしたりすることがなく、賃料収入から借金を返せるのであれば、実質的に自分の資産を減らす心配はありません。

魅力的な投資先があるのであれば、「良い借金」として躊躇する必要はないでしょう。

悪い借金:生活を脅かすリスクがある

悪い借金とは、借金の返済のために資産を減らすリスクが高かったり、それを避けるために節約をして生活水準を下げたりする必要がある借金を意味します。

最も典型的なのは急な資金ニーズを手当てするための消費者金融です。金利水準が高いことも背景にありますが、その時はまとまった資金が得られても、生活を切り詰めるか貯蓄を取り崩して返済を進めていかなければなりません。

『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者ロバート・キヨサキ氏の考える良い借金は、お金が増える借金が良い借金で、お金が減ってしまうのが悪い借金です(bad debt takes money out of your pocket, and good debt puts money into your pocket.)。

参照:New Rule of Money #2: Learn How to Use Good Debt vs. Bad Debt|Rich Dad Poor Dad

この考え方では、自動車購入や住宅購入にローンを使うことも、悪い借金とみなすようです。自動車は事業などに使わなければ収益を生み出すことはないですし、住宅も貸し出したりしなければ収益を生み出さないので、借金の返済が家計の圧迫や資産の目減りにつながるという見方です。

ただし、そうはいっても住宅を一括現金で購入するのは、多くの人にとって困難です。住宅は生活必需なので、いわゆる「悪い借金」をしてでも購入する必要が高いともいえます。

このように生活において必要性が高ければ、「悪い借金」をする必要があるケースも考えられます。その場合には借金を月々の家計や資産から返済できることを確認のうえ、身の丈にあった金額にとどめるよう努めることが大切です。

不動産投資ローンを良い借金にするために

不動産投資ローンは、健全な経営下では賃料収入で返済が賄われるため、お金を生み出す、つまり「良い借金」の典型といえます。ただし、賃料収入の減少や、想定外の出費により手出しが多くなれば、良い借金とはいえなくなります。

そこで、不動産投資ローンを健全な良い借金とするためのポイントを紹介します。

月々の収支を長期にわたり黒字にする計画設計が大前提

不動産投資ローンを「良い借金」とするためには、ローンの返済を賃料収入で全額賄っても、手元にキャッシュフローが残ることが前提となります。

不動産投資の失敗でありがちなのが、目先の収支が黒字というだけで投資を始めてしまうケース。通常賃料は経年とともに下がっていきますし、周辺環境の変化によって下がるリスクもゼロではありません。

賃料収入の変動を考慮せずに計画を立てた結果、賃料の下落により賃料収入だけでローンを払いきれなくなり、気がつくと不動産投資ローンが「悪い借金」となってしまう場合があるのです。不動産投資ローンを良い借金とするためには、長期目線で堅実な計画を立て、将来にわたり黒字を維持できる状況を作る必要があります。

税金その他の費用を忘れずに加味する

不動産投資の収支は単純に賃料収入とローン返済額だけでは決まりません。まず恒常的には毎月の管理費用・物件によっては修繕積立金など、ローン返済以外にも費用が発生します。

また、年単位でみると、固定資産税が発生します。物件サイズが大きいと固定資産税も高額になるため、収益の大きな圧迫要因となります。

さらに10~15年単位の長期で見ると、資産価値の下落を防ぐために大規模な修繕などが必要にもなります。修繕は時に百万円単位の支出となるため、長期で収支を考える時には大きなインパクトがあります。これら賃料・ローン支払い以外の収支に与える要素も加味して、長期で黒字を維持できる計画を立てられる物件を選ぶことが重要です。

金利上昇リスクもある

金利水準を低く抑えるため、不動産投資は変動金利で借り入れている人が多いです。変動金利では将来金利上昇が起こると、ローンの返済額が増大します。

近年住宅ローンも不動産投資ローンも低位で安定する傾向にあったため見落とされがちですが、10年・20年と先になっても低いローン金利が維持される保証はありません。

遠い将来のローンの金利動向を見通すのは容易ではないため、まず大前提として、少々の金利上昇があっても収支を維持できるよう、余裕のある返済計画を立てる必要があります。

繰上返済による借入圧縮も検討する

万全の計画を立てていても、将来の想定外の環境変化で収支が圧迫するリスクはあります。こうしたリスクを抑えるためには、借金を繰上返済して借入額を減らすのが有効です。

借入額が減れば月々の返済額を減らせるため、収支改善を図れます。賃料下落や想定外の費用発生にも耐えやすくなるでしょう。

借金との上手な付き合い方

日本人は従来より貯蓄を重視し、借金を忌避する傾向にあります。借金をしない家計管理は、安全性が高い一方で、実は効率が悪かったり、投資のチャンスを逃したりしかねません。最後に借金の適切な活用方法のポイントについて紹介していきます。

良い借金だと判断したら積極的に投資してよい

不動産投資ローンのような「良い借金」ならば、本来は借金をすることに抵抗する必要はありません。これは企業が借金を事業投資に回して、ビジネスを拡大し、ビジネスの中で発生した利益から借金を返済するようなものだからです。

「借金をしてしまう」という心理的な抵抗感だけの問題であり、借金をすることは資産運用の観点からは何の問題もありません。むしろ、資産を増やしていく観点だけでいえば、チャンスがあるなら積極的に実行すべき投資手法です。

悪い借金は金利水準を見て賢く活用

また、「悪い借金」でも考えようによっては節度を持って活用すべき時があります。実は、比較的資産に余裕があっても、自動車などをあえてローンで購入する人は少なくありません。

全額を現金で賄えるだけの資産があるのに、多くの部分をローンで購入する人もいます。無論、無計画に実行するのは控えるべきですが、近年の低金利環境では、実は一定の合理性があります。

オートローンはディーラーや購入車種によって金利水準が大きく変わりますが、キャンペーン時などには1%台などの低金利で実行できる事例も。この時、例えばもし、ローンの支払期間を通じて平均3%以上の利回りで投資ができる人は、保有している現金は投資に回して、自動車はローンで買ったほうが、資産が増える計算が立ちます。

投資は思うように収益が出ないリスクもあるので、現実には年間4~5%くらいの利回りを目指して投資すれば、効率よく資産形成ができるでしょう。特にオートローンは支払期間を通じて金利水準が固定のケースが多いので、低金利環境の昨今ではこのような資金計画を立てやすいローンといえます。

住宅ローンでも教科書的には同じロジックは成り立ちます。特に近年は0.5%以下の超低金利でローンを借りられるケースもあるため、返済計画が十分に立つのであれば、やはり頭金は多ければ多いほど良いとは限りません。現金を温存して投資に回す、という選択肢を取る余地ができます。

ただし、住宅ローンも変動金利で組む人が多いので、不動産投資ローン同様に将来の金利上昇リスクには目を配りましょう。

資産が減る、生活を圧迫する借金は絶対避ける

借金を返済するために、貯金を切り崩さなければならない、生活を切り詰めて趣味や余暇に資金を割けなくなるなど、マイナスの影響が出る借金は絶対に避ける必要があります。良い借金はもちろんですが、悪い借金もうまく活用すれば、このような事態に陥る心配はありません。

ただし、借りるその瞬間は万全でも、金利上昇や想定外の費用の増大などが家計収支の圧迫要因となるリスクはあります。どんな借金でも、多少の環境変化があっても資産の目減りや家計圧迫につながらないよう、余裕のある返済計画を立てることが重要です。

良い借金と悪い借金を理解して賢い資産管理を

借金をすること自体が悪いのではなく、借金によって生活が脅かされる事態を避けることが重要です。綿密な計画を立てて、健全に経営できると判断できれば、積極的にチャレンジして差し支えありません。

低金利の昨今においては、借金をうまく活用することで資産運用をうまく進められる場合もあります。現金購入が第一、という考えに過度にとらわれることなく、金利水準と自分が実行できる投資手法の利回りを比較しながら、最適な資金計画を立てて、実行しましょう。