古橋亨梧、上田綺世の不発には理由がある。日本代表は「トップは誰にすべきか?」に明確な解答が出ないままW杯へ
「森保ジャパンの9番(トップ)は誰にすべきか?」
日本代表の欧州遠征・アメリカ戦、エクアドル戦を終えて、その問題は解答が出ず、むしろ混迷を深めている。
アメリカ戦で先発した前田大然は、ボールこそ収まらなかったが、相手を追い回し、カウンターを発動させていた。エクアドル戦で先発した古橋亨梧は、ポジティブな点を探すのが難しいプレーだった。2トップの一角に近かった南野拓実は、ポイントに入る動きはさすがだったが、決定的仕事はできていない。また、後半から途中出場した上田綺世は、状況を改善させ、可能性を感じさせたが......。
はたして森保一監督は、「トップは誰に」の確信を持てたのか?
プレッシング&カウンター。それが1.5軍で不調を極めたアメリカ代表に偶然はまり、エクアドル戦も二匹目のドジョウを狙ったのだろう。だが、あまりに浅はかだったと言うべきだ。愕然とすべきは、活路がそこしかない点にある。
スコットランドリーグで得点を量産する古橋は、エクアドルのビルドアップを分断しようと駆けまわっていた。しかし、日本のバックラインは相手のFWとの駆け引きに後手に回ってラインを上げられず、中盤も前線を孤立させ、プレスは空転。エクアドルの選手はひとりひとりの技術、経験、度胸が豊富で、パスコースを消しても持ち上がられてしまい、そのたびに古橋は徒労感を覚えたはずだ。
エクアドル戦に先発したものの、不発に終わった日本代表FWの古橋亨梧
前半31分、トップが機能していない象徴的シーンがあった。自陣にいた古橋は味方がかき出したボールを受け、チームのお題目であるカウンターに入ろうと、必死にドリブルに入っている。しかし、センターラインを越えたあたりで3人に囲まれて、孤立無援でボールを奪われてしまった。
平たく言えば、古橋はプレーリズムを狂わせていた。結果として千載一遇の機会とも言える、ショートカウンターからの三笘薫のパスに合わず、エリア内でパスカットしての左足シュートもGKに止められた。しかし、それをもって彼に不合格の烙印を押すべきなのか。
上田投入で多少ボールは収まったが...高いレベルでは、この程度のプレスなど通用しない。それを戦いの基本軸にしている点で、攻め手は限られる。森保監督の戦術システムにおいては、「トップのよさを引き出す」という工夫が見えないのだ。
古橋も、あるいは南野も、「『真ん中をやらせろ』と言われているから、真ん中をやれ」と言わんばかりの起用で、彼らを生かすためのアイデアはなかった。もし鎌田大地、久保建英などのパサーと組み合わせ、前を向いてボールを触らせられたら、古橋も南野も怖さを出せただろう。しかし、援軍を望めず、2トップ同士でのパスも、焦りからか、ことごとく噛み合わなかった。
この不具合は、古橋や南野よりも指揮官の責任だろう。
もっとも、森保監督としては「だからこそ古橋も、南野もサイドで使ってきた」という言い分があるだろう。それは大迫勇也待望論につながる。「大迫であれば、たとえゴールはできなくても、周りのよさを出す」というのが森保監督の解答で、実際に伊東純也など、サイドの選手の得点が増える傾向にあった。
その点で、エクアドル戦で唯一解答に近づいたのは上田か。
後半、フィジカル的に強さがあってボールも収まる上田が入ったことで、起点が作れるようになった。例えば上田が落とし、南野が三笘につなげ、折り返しを南野が際どいシュート。バックラインからのロングボールに対してもディフェンスを背負いながら胸トラップで起点を作るなど、4分6分で、やや分が悪いヘディングもつなぐことができた。
上田の真骨頂は、鎌田が途中出場でトップ下に入ってからだろう。鎌田が左の相馬勇紀にパスを入れ、クロスをヘッドで合わせている。やや下がりながらだったために枠に入れられなかったが、ゴールゲッターとして敵に脅威を与えた。後半33分には、鎌田の絶妙なスルーパスを中央で呼び込み、どうにか堂安律につなげると、左足で巻くシュートはブロックされるが、上田は跳ね返りをヘディングで狙った。
ただし、ゴールには届いていない。
森保監督は、忘れられない恋人にすがりつくように大迫を求め続けてきた。他の何人かの選手起用も、執念の匂いがする。本大会メンバー発表でサプライズがあるとすれば、大迫の復帰だろう。
しかし、古橋を「戦術に合わない」と切り捨てるべきではない。戦術バリエーションを多く持つ監督だったら、彼を切って捨て、今の大迫を拾うことはしない。サッカーがゴールを奪い合うというスポーツである原則上、トップの選手はゴールの力が衰えたら怖さが消え、周りのよさを生かす、という仕事も高いレベルではできないからだ。
苦肉の策としては、鎌田のゼロトップはあるだろう。ゴールに迫るすごみが出てきたし、プレークオリティは申し分ない。今の日本の選手の顔ぶれだと、どんどん人が入れ替わる戦い方もできるだろう。ただ、トップがいることで相手のバックラインを消耗させ、心理的精神的な駆け引きで有利に持ち込めるのも事実で、やはりストライカーが体を張り、ゴールを脅かす形は持っておくべきだ。
結局、明確な解答が出ないまま、森保ジャパンはカタールW杯に突っ込むことになる。