アメリカ戦、エクアドル戦の目的は何だったのか。W杯本大会に向けての強化試合であったはずだ。カタールW杯の開幕戦の直前、11月17日に隣国UAEのドバイで行なわれるカナダ戦は、文字どおりのスパーリングマッチなので、この2試合は森保ジャパン、最後のテストマッチになる。

 舞台で言うならばゲネプロだ。しかし、このエクアドル戦にそうした緊張感はなかった。

 エクアドルは、前戦のアメリカを20%増ししたような好チームだった。前戦からスタメンを総入れ替えで臨んだ日本は、逆に前戦より20%減といった感じで、それが苦戦の原因だった。アメリカ戦のスタメンでエクアドル戦を見たかったというのが正直な感想である。

 森保ジャパンはエクアドル戦まで56試合を戦っているが、実力伯仲の、ちょうどいい頃合いの相手と対戦したことは、数えるほどだ。親善試合の相手探しに常々、苦慮している日本にとって、エクアドルは滅多に遭遇することができない、まさに格好の対戦相手だった。過去の対戦相手のなかでも1、2を争う好敵手と言えた。それだけに、スタメンを総入れ替えすることで、戦力を20%ダウンさせた森保采配を筆者は恨んだ。

 強化試合というより、W杯本大会のメンバーを決めるための選考試合という側面を強く感じた。選手選考がフェアに行なわれていることを必死にアピールするかのような試合に見えた。


アメリカ戦からメンバー総入れ替えでエクアドル戦に臨んだ日本代表

 森保一監督はこれまで、積極的に選手交代をしない監督、交代が下手な監督として知られていた。コロナ禍に入り、レギュレーションが交代枠5人に変わっても、その枠をフルに使おうとしなかった。10−0で勝ったミャンマー戦に考え得る限りのベストメンバーを送り込んでみたり、東京五輪で同じ選手を使い詰めにしたりする采配こそが、森保式の定番だった。

 スタメンとサブの間に境界線を作ってはいけない。使える選手の絶対数を増やさなければ、中3日で行なわれるW杯でベスト8など狙えないと、筆者はこの間、再三にわたり提言してきたつもりだ。

スタメンの総取っ替えには同意できない

 森保監督はこのエクアドル戦を前にこんなことを述べていた。

「一部の選手で積み上げてチーム力を上げるだけではなくて、2チーム分ぐらいの戦力がいるなかで、疲弊した選手を入れ替える。もっと言うと、1試合ずつ選手を入れ替えながら戦えるまで準備しておかないと、我々が目標としているベスト8以上を狙うことは難しい」

 最後の最後になって、急にこちらにスリ寄るようなことを言い出したわけだが、エクアドル戦というゲネプロを前にすると、話は変わってくる。その考えに、全面的に同意できなくなる。

 W杯本番で、試合ごとにスタメンを総取っ替えなどしないはずだ。1戦目、2戦目、3戦目......を戦うなかで、継続するものと、入れ替えるものとの比率に気を配りながら、グラデーションをかけるように漸次的に移行していく。これがW杯本大会で上を目指そうとするチームの、やりくりの仕方だ。求められるのは、フィールドプレーヤー全員をほぼ均等に使いこなす監督采配である。

 2チーム分がほしいからと、スタメンを総取っ替えする采配には同意しない。選考がフェアに遂行されていることをアピールする、アリバイ作りに見えてしまう。エクアドル戦の一番の目的である「強化試合」という側面は、その結果、霞むことになった。

 アメリカ戦、エクアドル戦を終え、新たな収穫はあっただろうか。やはり攻撃は鎌田大地を軸に考えるべし......等々、再確認させられたことはある。しかし発見はなかった。なにより新戦力を発見することができなかった。

 それは何人かのメンバーを切れずに、今回も招集してしまったことにある。柴崎岳、原口元気、長友佑都らが必要な戦力だと筆者は思わない。南野拓実の力が大きく落ちていることもわかっていたはずだ。見切りをつけるべき選手を相変わらず招集し、出場機会を与えれば、新たな枠は生まれない。いまこの時期、探し求めたいのは、チームを勢いづかせる上がり馬だ。森保監督は、フェアな選考をアピールする一方で、その努力を怠った。新戦力を試そうとしなかった。

旗手怜央をなぜ使わなかったのか

 今季のチャンピオンズリーガーで、初戦のレアル・マドリード戦でそれなりに活躍した旗手怜央には、出場機会さえ与えられなかった。アメリカ戦ではベンチ外に追いやられていたほどだ。現欧州チャンピオンを相手に、6.5はつけたくなる出来映えを示した選手である。いま最も乗っている筆頭格だ。チャンピオンズリーグでスタメンを飾る選手を、もしこのまま落選させれば、それは日本サッカー史における事件にあたる。スペインリーグ2部所属の柴崎との比較で、旗手が劣ると見る森保監督に、異を唱えずにはいられない。

 長友は頑張っているように見えたが、攻撃面に関してはパスセンスのなさを露わにした。日本のパスワークに効果的に絡むことができなかった。具体的に言えば、攻撃の切り札である左ウイング三笘薫を、左サイドバック(SB)として、下支えすることができなかった。Jリーグで右SBとしてプレーする姿を見慣れているせいか、左SBとしての適性にも疑問を感じることになった。

 三笘が、幾度となくドリブル突破を試みながら、なかなかきれいに抜き去れず、消化不良に終わった理由は、ズバリ長友に起因する。SBの協力が得られないウイングの悲しさを、三笘のウイングプレーに見た気がした。1対1の単独突破。選択肢がこれだけでは、成功の確率が下がるのは当然だ。

 南野は、交代で入った鎌田と比較することで、問題点が明らかになる。4−2−3−1の1トップ下にしては、攻撃力、決定力が乏しい。ポジションが低いのだ。それは、スピード系の1トップ、古橋亨梧が孤立した理由でもある。いまの南野なら、鹿島アントラーズの鈴木優磨のほうが上だとは、筆者の見立てだ。チームに勢いと、新たな可能性がもたらされると考える。

 原口はアメリカ戦にウイングバックとして4分間プレーしたのみだった。それでも代表チームに招集する理由は、森保監督が原口を好きだからだ。それは柴崎らにも言えることだが、森保監督は特定の選手に対する情の厚さを目立たせている。新たな発見は自ずと減ることになる。

 エクアドルという好チームとせっかく対戦できたのに、収穫は少なかった。選手選考という内向きの話題に終始した感がある。本番に向け勢いをつけるという本来の目的は達成されなかった。森保監督は「いける!」とのムードを醸成することに失敗した。