朝倉未来vsメイウェザーを内山高志と矢地祐介が展望。ボクシングと総合格闘技の違いをふまえての攻略の糸口は?
順当か番狂わせか......。ボクシング世界5階級制覇王者のフロイド・メイウェザーと、総合格闘家の朝倉未来が、9月25日に行なわれる「超RIZIN」(さいたまスーパーアリーナ)のエキシビションマッチで拳を交える。
9月25日の「超RIZIN」でエキシビションマッチを行なうメイウェザー(左)と朝倉
話題の一戦を前に、朝倉と接点のある2人に話を聞いた。ひとりは、YouTubeのコラボ企画で朝倉とミット打ちなどを行なった、元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者内山高志。もうひとりは、「RIZIN.17」で朝倉と激闘を繰り広げた矢地祐介。ボクサーと総合格闘家の両面から見た、メイウェザー攻略の糸口、総合格闘技とボクシングの違いとそれをふまえた戦い方とは。
*ボクシングルールに準じたエキシビションマッチ
*3分×3ラウンド
*判定による勝敗はつかない。ただし、どちらかが相手を倒して試合がストップする可能性はある。
*体重制限なし
*グローブは10オンス(予定)ポイントは「ボクシングをしないこと」
9月22日、内山が手掛けるボクシング・フィットネスジム「KOD LAB」でメイウェザーの公開練習が行なわれた。タンクトップ姿になったメイウェザーを間近で見た内山は、「思ったより大きい。引き締まっているし、練習していないとあの体は保てないはず」と、45歳とは思えない体つきに驚いたという。
公開練習では、リングの中でミット打ちを約10分間、リングの外でサンドバッグとミット打ちを交互に行なう練習を約10分間というメニューをこなした。インターバルをほとんど取らず20分間動き続けたが、息はまったく切れず。内山は「本気の練習はシークレットでしょうし、この練習は"魅せる"という側面もあるでしょう。それでもスピードがあるし、体の軸がブレない。体幹の強さが半端じゃないですね」と感心しきりだった。
説明は不要かも知れないが、メイウェザーはボクシングで50戦50勝(27KO)無敗。卓越したディフェンスを誇り、パンチを被弾してのダウン経験はない。オスカー・デ・ラ・ホーヤ、ミゲール・コット、サウル・"カネロ"・アルバレス、マニー・パッキャオら、名だたるボクサーから勝利を収めてきたレジェンド中のレジェンドである。
そんなメイウェザーを相手に、朝倉がパンチでダウンを奪う、あるいはダメージを与えるだけでも、世界中に大きなインパクトを残すことになるだろう。問題は、パンチをクリーンヒットさせられるかどうか。朝倉がとるべき戦い方について、内山は次のように語った。
「とにかく前に出ることが大事。中間距離で見合うのはよくないし、うまく戦おうとしないほうがいい。 "ボクシングをしないこと"がポイントになります。総合格闘技の選手なのでリズムは独特で、パンチの出し方やフットワークもボクサーとは違います。さらにサウスポーで、パンチの軌道がボクサーとは違うのでやりづらいと思いますよ」
とはいえ、相手は難攻不落のメイウェザー。下ろした左腕を折り曲げてボディを守る「L字ガード」と、腰と肩の回転でパンチをいなす「ショルダーロール」によるディフェンスは、名ボクサーのパンチをことごとくかわしてきた。内山は「重心はうしろに残してカウンターを狙ってきます。総合で使うオープンフィンガーグローブだとガードの隙間を狙えるんですが、大きいボクシンググローブだと難しい。メイウェザーは上半身の使い方もうまいので、顔がすごく遠くに感じると思います」と、鉄壁のディフェンスを分析する。
今回の試合で使用するグローブは、当初は片方8オンス(約227g)だったが、10オンス(約284g)へと変更される予定だ。プロボクシングの試合は、最も軽いミニマム級からスーパーライト級(--63.50kg)までが8オンス、ウェルター級(--66.68kg)以上は10オンスが使用される。
「2人の体重でボクシングルールに準ずる場合は、10オンスが適正ではありますね。8オンスと10オンスでは、与える衝撃や大きさも全然違います。8オンスのほうが拳の衝撃がダイレクトに伝わる感じなので、KO率は10オンスのほうが下がるでしょう。大きさもひと回り違うので、ガードした時に顔が隠れる範囲も大きくなってディフェンスがしやすくなります」
10オンスへの変更の理由は定かではない。グローブについて朝倉は「できるだけ小さいほうがよかった」とコメントしているが、そうしてよりディフェンスがしやすい条件になれば、より朝倉がパンチを当てられる可能性は低くなる。
ただ、内山は「朝倉選手の先入観のなさがポジティブに働くはず」と語る。
「ボクサーでメイウェザーをよく知る選手ほど、『あのメイウェザー相手には勝てない』『パンチは当たらないだろう』となる。しかし朝倉選手は違って、メイウェザーと対面したあとでも『ホントに弱そう』『普通に勝てそう』とまったく臆するところがない。あれがいいんですよ」
ビッグネームにも気おくれせず、前に出られるか。それがメイウェザーを脅かすことができるかどうかのカギになりそうだ。
一方、総合格闘家の矢地はどう見ているのか。2019年7月28日に「RIZIN.17」で朝倉と5分3ラウンドを闘った矢地は、打撃からのタックルで攻めたものの、朝倉のローキックを主体とした打撃で主導権を握られて0−3の判定負けを喫した。
朝倉は、総合格闘技の戦績が16勝3敗のサウスポーのストライカー。実際に朝倉のパンチを試合で受けた矢地は、「キレがいいというか、思いきりがいいですよね。脱力してパンチを"投げてくる"感じなので、伸びてくるんですよ」と評価する。
朝倉が主戦場としているRIZINを含めて、総合格闘技は通常1ラウンド5分で行なわれる。今回のエキシビションマッチは、ボクシングルールに準じて1ラウンド3分。単純にラウンドの時間は5分から3分と短くなるが、ふだんボクシングの練習も取り入れている矢地は「使うスタミナがまるで違う」と語る。
「総合なら、練習でも5分5ラウンドとか全然できちゃうんですけど、ボクシングだと3分3ラウンドでヒーヒー言ってます(笑)。総合は、戦っている最中でも体力を回復する場面を作ろうと思えば作れるんですよ。4点ポジションでの攻防とか、グラウンドでもポジションを取っちゃえば、ひと息つけることもある。
もちろん、ボクシングでも距離が離れれば休めるとは思いますが、今回の試合でもそのシチュエーションはほぼないはず。コンタクトが多いし、常に打撃が当たるかどうかの緊張感がある距離で戦うことになるので、慣れていないと相当しんどいと思います」
総合格闘家がボクシングルールで闘う難しさをそう話した上で、矢地はメイウェザーに対しての攻め方と期待を次のように語った。
「もう体ごといくしかないですよね。ただ、5年前に(総合格闘家の)コナー・マクレガーとも試合をしていて、ボクサーじゃないパンチもメイウェザーは対応してくると思いますけど......。でも、戦略家の朝倉選手ならそこからの攻略法を準備しているかもしれない。彼は"持ってる人"ですし、同じ総合格闘家として、何かしらインパクトを残してくれることを期待してます」
朝倉自身も、「倒されてもいいから、1ラウンドからいきますよ」と、ペース配分を考えず最初から飛ばしていくことを示唆している。そこからメイウェザーの鉄壁ディフェンスをこじ開け、一太刀を入れることができるのか。この3分間は目が離せない。
(敬称略)
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