森保一監督の日本代表アタッカー陣の組み合わせは、遠回しに言っても「うまくいっていない」。そこにはロジックもあるわけだが、「ミステリー」に近い。

 森保監督は、大迫勇也のポストプレーを攻撃戦略の基本としたのだろう。大迫がボールを収め、攻撃の"ため"を作る。得点源は両サイドに置いて、ストライカー色が強い南野拓実、圧倒的スピードのある伊東純也というチョイスだった。しかし大迫が戦列を離れ、あるいは復帰しても不調のままでは、幻影を見るような采配となっている。

「先見の明があったら......」という話なのだが、鎌田大地、久保建英、堂安律、旗手怜央など今やチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)で勇躍している選手たちが、W杯最終予選では補欠程度にしか使われていなかった。古橋亨梧、上田綺世という欧州でゴールを重ねつつあるストライカーも、大迫の代役扱いだった。プレミアリーグでデビューを飾った三笘薫も与えられた時間は短かった。

 カタールW杯は間近に迫るが、アタッカー陣の組み合わせは再考すべきだ。


23日のアメリカ戦に向けてデュッセルドルフで合宿中の日本代表

 欧州の名将たちは、日本人選手を柔軟に戦術システムのなかで生かしている。

 レアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督は、攻撃的な4−4−2のトップの一角で久保を用い、そのアイデアや技術の高さを十全に引き出した。元スペイン代表ダビド・シルバとのコンビネーションは見物。直近のエスパニョール戦でも、そのひらめきは脅威を与えていた。

 フランクフルトのオリバー・グラスナー監督も、鎌田をシャドー、ボランチと使い分け、目覚めを与えている。今シーズン、鎌田はカップ戦も含めて6得点。直近のシュツットガルトとの日本人ダービーでも直接FKからゴールを決め、ブンデスのトップスターの仲間入りだ。

 セルティックのアンジェ・ポステコグルー監督は、横浜F・マリノスでの経験が生きているのか。古橋、旗手、前田大然の3人の長所をそれぞれ理解し、能力を引き出している。とりわけ、旗手のボランチ起用はヒットで、CLシャフタール・ドネツク戦では得点を決め(記録はオウンゴール)、あらためてユーティリティ性の高さが浮き彫りになった。

CL、ELで活躍中の選手を有効活用する

 列挙した指揮官に共通している点は、「長所を見極める」という点だろう。短所は誰でも見つけられる。「線が細い」「守りが弱い」「足が速くない」「運動量が足りない」と、いくらでもある。しかし優れた指揮官は、ポジティブに戦力を使えなければならない。チームのために長所で貢献できるなら、短所をできるだけ隠させ、ピッチに立たせるのだ。

 欧州の監督たちは、何万通りもある戦い方のなかから、選手が活躍できる形を選択している。複雑な数式で答えを解くようなもので、そのスパイスは「勇敢さ」、能動的に攻める姿勢と言えるかもしれない。優秀な選手は各自でスペースを見つけ、調和を生み出せる。たとえばレアル・ソシエダは、同じ左利きを多く配し、共有したイメージのなかでプレーし、マンチェスター・ユナイテッドを敵地で撃破した。

 言うまでもないが、主体的サッカーができる人材がいなかったら、勝つための算段を整え、効率を極めることも手段のひとつだろう。慎重に「石橋を叩いても渡らない」リスクマネジメントを突き詰め、「相手のよさを消す」に執着する。しかし、日本には攻撃的なポジションに人材がいる。

 不調が伝えられる南野も、使うべきポジションで使えたら、ゴールを十分に狙えるはずだ。直近のランス戦では途中出場で、右FWのような位置から1得点1アシスト。彼はやはり、ゴールに近いポジションで怖いアタッカーだ。

 そう考えると、代表監督は国内での経験で編み出した狭い了見ではなく、CL、ELで活躍する日本人にポジションを与え、彼らが作り出すサッカーを促すべきだろう。一例を挙げると、以下の布陣はかなり攻撃的だが、不可能ではない。

       古橋(南野)

三笘    鎌田  久保    堂安  

「守備が厳しい」

 それは正論なのだが、一方で攻撃の可能性は確実に広がる。事実、ここに挙げた選手たちは、そのポジションで欧州の列強に堂々と挑み、ひとつの成果を挙げている。「攻め勝つ」という論理だ。

 それは蛮勇ではない。ゴールにアプローチできる選手に攻撃を期待する一方、しつこく守備もさせる。それによって、初めて強豪との対決も活路が開ける。昨シーズン、ヨーロッパリーグで優勝したフランクフルトは、バルサ戦で守備にシフトしたが、先発した鎌田はスペイン代表ペドリを完璧に封じる一方、ゴールにかかわる決定的な仕事をした。

 参考までに、以下のレアル・ソシエダのアルグアシル監督式も甘美な予感がある。

    久保   古橋(南野)

       鎌田

旗手           堂安

 また、フランクフルトのグラスナー監督流の編成も悪くない。

       上田

    鎌田    久保

旗手            伊東

 カタールW杯で森保ジャパンが勝機をつかむには、5−4−1や5−3−2のような戦い方も一手だろう。ただし、少しでも腰が引けたところを見せたら、確実に飲み込まれる。相手を怯ませる技術やコンビネーションも見せられなかったら、押し込まれたまま「陥落」だ。

 森保監督はアタッカー陣の組み合わせをアップデートできるか。サッカーは生き物で、過去の実績に囚われるべきではない。欧州遠征では現状のベストを見つけるべきだ。